中国語の「在」には、動詞、副詞、介詞(前置詞)の3つの用法があります。
いずれも同じ「在」の字を使うため、紛らわしく混乱する場合もあります。
3つの違いの理解を深めるために、ここでは副詞の用法に的を絞って細かく解説します。
進行中を表す副詞「在」の概要
中国語で「在」を副詞として使用する場合、動作や行為が進行中であることを表します。
日本語では、「~している」「~しつつある」などの意味で、俗にいう「進行形」を表します。
これは、一般的に「進行相」と呼称する用法で、進行中の動作や行為を表す述語を伴います。
上例のように、動作を表す述語「哭」を伴っているのが分かります。
この種の文では、現在の動作や行為を表すだけと考えがちですが、そうではありません。
時間詞を用いて、「~していた」のような過去を表現したり、「~していることだろう」のような未来を表現したりすることもできます。
進行中を表す副詞「在」の基本文型
では、副詞「在」の基本文型を説明します。
副詞「在」を用いた肯定文
肯定文の基本文型は下記の通りです。
【基本文型(肯定文)】主語+在+動詞[+目的語] [+呢]
「在」は、動詞(形容詞を含む述語)の前に置きます。
意味はあまり変わりませんが、文末に語気助詞「呢」を付けるのが普通です。
「呢」を伴うと、動作が進行中であることを強調するニュアンスがあります。
例を挙げます。
他在打电话呢(Tā zài dǎ diànhuà ne)…彼は電話中です
副詞「在」を用いた否定文
否定文の基本文型は下記の通りです。
【基本文型(否定文)】主語+没有+動詞[+目的語]
否定文では、「没有」を動詞(述語)の前に置き、「正」や「呢]は一緒には用いません。
例を挙げると、
他们没有唱吃饭(Tāmen méiyǒu chàng chīfàn)…彼らはご飯を食べていません
のようになります。
日本語で「~しているところだ」を否定すると、「~しているところではない」と少し不自然な言い回しになりますので、「~していません」という表現にするのが普通です。
中国語の場合もこれと似ていて、上記のように単に「没有」で否定するのが一般的です。
「主語 + 没有 + 在」のように「在」を伴う表現をしないことから、”進行形に否定文はない”と解釈する場合もあります。
動作の進行形を否定したい時には、
のように「不是」を用いる場合もあります。
副詞「在」を用いた疑問文
疑問文の基本文型は下記の通りです。
【基本文型(疑問文)】主語+正+動詞[+目的語]+吗?
疑問文は、肯定文の文末に「吗」を付けて、「~していますか」の意味を表します。
例えば、
你妈在洗衣服吗?(Nǐ mā zài xǐ yīfú ma)…あなたのお母さんは洗濯をしていますか
のように、文末に「吗」を付けるだけで簡単に疑問文を作れます。
疑問文の回答としては、肯定なら
否定なら、
のように表現します。否定の場合、
のように、「没在」を用いる場合もあります。
また、是不是を用いた反復疑問文も可能で、
のような表現ができます。
そして、動作の目的語を問う疑問文も可能で、
你在想什么呢?(Nǐ zài xiǎng shénme ne)…あなたは何を考えてますか
のように表現できます。
副詞「在」と併用できない動詞がある
副詞「在」は、動作や行為が進行中であることを表しますので、状態などを表す動詞と共には、使えない場合があります。
具体的には、下記の動詞などが使えません。
认识(Rènshí)…知り合う
忘(Wàng)…忘れる
喜欢(Xǐhuān)…好き
有(Yǒu)…~がある
是(Shì)…~です
例えば、知道は知っている状態を表す動詞で、動作や行為が進行している訳ではありません。
「在」の代わりに「正」や「正在」も使う
副詞「正」や「正在」も、「在」と同じく「~している」と言う進行形を表すことができます。
基本的な用法や文型は「在」と同じ
「正」と「正在」の用法や文型は「在」と同じで、基本文型は下記の通りです。
【基本文型(肯定文)】主語+在/正/正在+動詞[+目的語] [+呢]
例を見てみましょう。
他正打电话呢(Tā zhèng dǎ diànhuà ne)…彼は電話をしています
他正在做功课(Tā zhèngzài zuò gōngkè)…彼は今ちょうど勉強しているところです
她正在做饭(Tā zhèngzài zuò fàn)…彼女は食事を作っています
上記の例では「在」の代わりに「正」や「正在」を使っています。
これらは、いずれも「在」と置き換えることができます。
否定文や疑問文についても、基本的に「在」と同じような用法になります。
「在」「正」「正在」には微妙な意味の違いがある
「在」「正」「正在」はいずれも「~している」と言う意味の副詞で、基本的な用法は同じですが少し違いがあります。
これらの違いを端的に言えば、
「在」:状態をさすことに重点が置かれる
「正」:時間をさすことに重点が置かれる
「正在」:時間と状態の両方をさす
です。
例えば、「彼らは討論している」を3つの副詞で表現すると、
(2)他们正讨论呢(Tāmen zhèng tǎolùn ne)
(3)他们正在讨论(Tāmen zhèngzài tǎolùn)
のようになりますが、意味のニュアンスが微妙に違ってきます。
(1)は「在」を用いていますので、状態をさすことに重点が置かれます。
この場合、「彼らは、討論をしているところです」のように、”討論が続けられている”状態が強調されます。
(2)は「正」を用いていますので、時間をさすことに重点が置かれます。
この場合、「彼らは、今まさに討論している」のように、”今まさに”と、討論している時間が強調されます。
(3)は「正在」を用いていますので、時間と状態の両方をさしています。
この場合、「彼らは、いま討論をしています」のように、時間も状態も表して(注目して)います。
このように、「在」「正」「正在」には意味上の微妙な違いがあります。
「在」「正」「正在」は用法上にも違いがある
3つの副詞「在」「正」「正在」には、用法上でも違いがあります。
具外的には、下記のような制約の違いがあります。
(1)「正」には、アスペクト助詞(動詞後)か語気助詞(文末)が必ず付く
(2)「在」のみ、動作の重複や長期的な継続を表せる
(3)「在」の後には、介詞「从」を用いることができない
上記の3点について詳しく説明します。
(1)「正」には、アスペクト助詞(動詞後)か語気助詞(文末)が必ず付く
「正」を使う場合、単独の動詞だけではなく、動詞の後ろにアスペクト助詞を付けるか、文末に語気助詞を必ず付けますが、「在」や「正在」を使う場合は、この制限はありません。
アスペクト助詞としては「着」が、語気助詞としては「呢」が使われます。
例えば、上記の「他们正讨论呢」の文に「着」を加えて「他们正讨论着呢」と表現することはできますが、「着」も「呢」も省いて「他们正讨论」のような表現はできません。
これに対して、「在」や「正在」を使う場合は、他们在讨论や他们正在讨论のように、「着」と「呢」を伴わない表現ができます。
「正」を使う場合、「着」と「呢」を伴うのが原則になりますが、二音節以上の動詞の場合は「着」を付けなくてよい、介詞句があるときは「呢」を付けなくてよい、などの例外もあります。
なお、「正」は時間をさすことに重点が置かれるため、何らかの動作中に別の動作が発生する複文によく用います。
例えば、
他正看着电视,突然感觉一阵头晕(Tā zhèng kànzhe diànshì, túrán gǎnjué yīzhèn tóuyūn)…彼がテレビを見ていると、突然めまいがしました
のように、複文の前節に置きます。
(2)「在」のみ、動作の重複や長期的な継続を表せる
「在」は、繰り返し続く動作や、長期的に続く動作を表すことができますが、「正」や「正在」はこれらを表すことができません。
例えば、
他经常在注意(Tā jīngcháng zài zhùyì)…彼はいつも注意しています
とは言えますが、
✕ 她妈一直正在等他
✕ 他经常正注意
✕ 他经常正在注意
のように、「正」や「正在」を使うことはできません。
「在」は、状態に重点が置かれるため、「一直」や「经常」など時間を表す語と共に使われることがよくあります。
(3)「在」の後には、介詞「从」を用いることができない
「在」の後には、介詞「从」を用いることができませんが、「正」や「正在」にはこの制限がありません。
例えば、「太陽がいま地平線を昇りつつある」を表現したい時、
太阳在正从地平线升起(Tàiyáng zài zhèng cóng dìpíngxiàn shēng qǐ)
のように、「正」や「正在」を使うことはできますが、
とは言えません。
「在」を使わず「呢]だけを使う表現もできる
「正」や「正在」を含む副詞「在」は、進行形を表わし、その多くは語気助詞「呢]を伴います。
しかし、これらの副詞を使わず、「呢]だけでも進行形を作ることができます。
例えば、
の文には、「在」などの副詞やアスペクト助詞「着」(詳細後述)はありませんが、進行形を表しています。
また、
のようなフレーズも、話し言葉の場合はよく、
のような言い回しをすることもあります。
これは、語気助詞「呢」が、持続していることを表す意味を持っているからです。
但し、「呢]だけで進行形を作る場合は、動詞(述語)が目的語や連用修飾語を伴うのが原則です。
「着」も進行形を表せる
副詞「在」だけではなく、アスペクト助詞「着」(zheと軽声で発音)も進行形を表すことができます。
「在」も「着」も「~している」と言う意味の進行形を表す点では同じですが、両者には明確な違いがあります。
「在」と「着」は何が違うのか
端的に言えば、「在」を用いる場合は”動作の進行”を表し、「着」を用いる場合は”動作の進行”と”状態の持続”を表します。
同じ進行形でも、文法上は「在」を用いる場合を”進行相”、「着」を用いる場合を”持続相”と呼んで区別します。
また、品詞も異なり、「在」は副詞で述語の前に置き、「着」は助詞で述語の後に置きます。
違いをまとめると下記の通りです。
在(副詞)…”動作の進行”を表す”進行相”で述語の前に置く
着(助詞)…”動作の進行”と”状態の持続”を表す”持続相”で述語の後に置く
日本語の進行形では、このような区別はあまりしませんが、中国語の場合は用法や意味合いも違ってきます。
「着」の基本的な使い方
肯定文の基本文型は下記の通りです。
【基本文型(肯定文)】主語+動詞+着[+目的語] [+呢]
「着」は、動詞(述語)の直ぐ後に置き、動詞と「着」の間に他の語が入ることはありません。
文末に「呢」を付けることがあります。
窗户开着呢(Chuānghù kāi zhene)…窓が開いています
1つ目の例は動作が進行中であることを、2つ目の例は状態が持続していることを表しています。
否定文の基本文型は下記の通りです。
【基本文型(否定文)】主語+没(有)+動詞[+着][+目的語]
否定文には、動詞の前に「没」(または「没有」)を置きます。
目的語を持つ場合は、「着」を省くことがあります。
窗户没开着(Chuānghù méi kāizhe)…窓は開いていません
1つ目の例は動作(ごはんを作る)が進行中でないことを表していますが、「饭」という目的語があるので「着」は省かれていて、単に動作(ごはんを作る)していない場合の表現と同じになっています。
2つ目の例は状態(窓が開いている)が持続していないことを意味しています。
疑問文の基本文型は下記の通りです。
【基本文型(疑問文)】主語+動詞+着[+目的語][+呢]+吗?
主語+動詞+着[+目的語]+没有?
疑問文は、文末に「吗」を付けても、「没有」を付けても表現することができます。
他肩上挎着书包没有?(Tā jiān shàng kuàzhe shūbāo méiyǒu)…彼は学生カバンを肩に掛けていますか
1つ目の例は文末に「吗」を付けて、2つ目の例は「没有」を付けています。
1つ目の疑問文に対する答えは、
没开着(Méi kāizhe)…開いていません
肯定の場合、开着呢(動詞+着+呢)になりますが、「呢」を省いて単に「开着」とも表現します。
否定の場合、没开着(没[有]+動詞+着)になりますが、単に「没有」とも言います。
2つ目の疑問文に対する答えは、
没挎着(Méi kuàzhe)…掛けていません
のように、「吗」を文末に付けた疑問文に対する回答と同じ表現になります。
挎着呢の「呢」を省いて単に挎着と言ったり、没挎着を単に「没有」と表現したりすることもできます。
以上のように、副詞の「在」と助詞の「着」とでは、位置が異なることがよく分かります。
「在」と「着」を一緒に使うこともある
「在」と「着」を同時に用いる場合もありますが、この場合「動作の進行」を表わすのに使われるだけで、「状態の持続」を表わすことはできません。
基本文型は下記の通りです。
【基本文型】主語+在+動詞+着[+目的語] [+呢]
在の代わりに、正や正在を用いることもできます。また、普通は文末に「呢」を付けます。
この用法は、もともと中国の南方で使われていた「在」の後に動詞を付ける表現と、北方で使われていた動詞の後に「着」を付ける表現が混合して使われるようになった使い方です。現在では定着して、普通に使われるようになりました。
在と着を一緒に使うことで、進行していることを明確に表す(強調する)働きを持ちます。
他正看着电影呢(Tā zhèng kànzhe diànyǐng ne)…彼は今、映画を見ているところです
上記では、動作や行為が進行中ですので、「在」と「着」を一緒に使うことができますが、「状態の持続」を表すことはできません。
例えば、
她穿着一身新衣服(Tā chuānzhuó yīshēn xīn yīfú)…彼女は新しい服を着ています
のような文は、「状態の持続」を表しますので、「在」(或いは「正」や「正在」)を伴うことはできません。
似たような表現でも、「動作の進行」を表す場合は、「在」(或いは「正」や「正在」)を伴うことができます。
她正穿着衣服呢(Tā zhèng chuānzhuó yīfú ne)…彼女は、いまちょうど服を着ています
上記の1つ目の例の場合、「開いている」という状態の持続ではなく、「開けている」という動作の進行を表していることが分かります。
2つ目の例の場合、「着ている」状態を表しているのではなく、「着ている」動作を表していることが分かります。
このように、「在」と「着」を一緒に使うことができるのではあくまで、「動作の進行」の場合です。
「状態の持続」を表す場合は、「在」と「着」を一緒に使うことはできず、この点も「在」と「着」の大きな違いと言えます。
「在」と「着」の細かな違い
「在」と「着」とは、進行相と持続相の違いがあることは説明しましたが、「動作の進行」を表す場合の違いが分かりにくいと思います。
基本的に、「~している」と言う意味では同じですが、微妙な違いがあります。
その違いは下記の通りです。
「在」+動詞 ⇒ 動作が進行中、又は、どんな動作が進行中かに着目した表現
動詞+「着」 ⇒ 動作事態のあり方(状態)に着目した表現
ニュアンスが異なるだけで、実際の意味としては殆ど違いが無い場合も多くあります。
そして、「在」と「着」とでは、動作の実現が前提となっているかどうかにも違いがあります。
例えば、部屋の外を見て、雪が降っていることに気付いた場合、
と言えますが、
とは言えません。
これは、「着」の場合、動作が実現して持続していることを表しますので、「雪が降る」と言う動作が新しい情報として認識されていない状況で使うことは不自然です。
このように、同じ進行形でも、単に動作が継続すること(「在」を使用)と、実現した動作が持続すること(「着」を使用)とでは、言葉が表す趣が異なるのです。