私が中国へよく足を運ぶようになってから、現地で色々の出来事を目の当たりにしてきました。
その中でも強く印象に残っていることのひとつに、目の前で傷害事件が起きたことがあります。
その事件を目撃したのは、私が上海へ何度も行くようになってから、割と最初の頃のことだと記憶しています。
まだ、中国に不慣れだった私にとっては、いきなり目の前で起きたことだけあって、強いインパクトがありました。
傷害事件発生
私がそのころ滞在したホテルは、現地の人に手配して貰った、いわゆる街中にどこにでもある一般のホテルで、割と大きな道路に面していました。
そのホテルは、滞在期間中を通して連日宿泊していて、毎日のようにホテル周辺を散策していたのです。
そんなある日のこと、いつものようにホテル周辺をぶらぶらした後、ホテルに戻ろうとすると、ホテルのすぐ近くで、百人を超える人が群がっているのが見えました。
近づいてみると、ホテルのすぐ前の路上で、女性が血まみれ。
すぐ脇を見ると男性が包丁と思われる刃物を持ち、その女性と激しく口論になっていて、それを取り囲むかのように多くの人が見物していました。
よく見ると、出血量もかなりでしたが、それでも怯まずにいる女性が、刃物を持つ男性に対して強い口調で罵倒していて、中国でのケンカは凄いなと感じました。
誰も助けようとしない
そのような状態でしたので、「さすがにちょっとヤバイんじゃないか」と思いましたが、よくよく周りを見ていると誰も助けようとしていないのです。
あの女性は、このまま行ったら本当に殺されちゃうんじゃないか…
たとえ殺されなくても出血多量でいずれは死んでしまうのでは…
放っておけば危害が周りの人にも及ぶんじゃないか…
そんな様々な思いが脳裏をよぎり、「このままではいけないだろう」と思うばかりでした。
にも関わらず、百人以上の人が群がりながらも、誰一人として助けようともせず、本当にただ見ているだけなのです。
それは傍観と言う表現よりも、むしろ観客として見学しているという表現の方がふさわしいくらいの姿で、「なぜ誰も助けないのか、助けようとしないのか」と、不思議なくらいでした。
これがもし日本の街中で起きていたとしたら、周りの人たちが皆で協力して、刃物を持つ男を取り押さえるなど、助けるために何らかの行動をとると思うのですが、誰一人、動こうともせず、本当にただ見ているだけなのです。
助けてはいけない!
あまりのことに、一緒に行動していた現地の中国人に、
「助けなくていいのか?」「このままでは死んでしまうのでは…」
と問いかけました。
すると、その中国人は別に慌てた様子も全くなく、
「このようなケンカはどこでも頻繁にあること」「決して珍しいことではない」
と平静と言いました。続けて、
「このように刃物を持って傷害事件を起こすのも、とりわけ特別なことではない」
と冷静に語り、更に
「いつ、どこで起きてもおかしくないようなケンカに過ぎない」
と、平然と話していました。
珍しいことではないとしても、助けなくては命が危ないのではと感じた私は、
「でも、あのままではあの人は死んでしまうのでは。助けなくていいのか」
と改めて問うと、
「ああいう場合、むしろ絶対に助けてはいけない」
と言うのです。
意外な言葉に一瞬、耳を疑った私は、直ぐに全く理解できない状態に陥りました。
傷を受けて血まみれになっている人がいるのに何故助けないのか???
全く理解できないでいる私に対して、続けて説明してくれました。
「この種の争いの場合、単に当事者が争っているのではなく、裏で悪意を抱いている場合が多くある」
「助けたことに因縁を付けて、賠償と称して高額な金品を要求してくるような争いごとはよくある」
「それをわざと狙って、敢えてもめ事を起こすようなケースも珍しいことではない」
「大衆はそのことをよく知っているから、余計な関与はしないよう、敢えて助けたりしない」
「そのうち警察が来るだろうから、ほっておけばいい」
聞いていて、そう言うものか…と。
私の持つ常識とは全く逆のことに驚きましたが、これが中国なのかと勉強させられた思いでした。
日本では想像が付かないことですが、こんなこともあるのかと言うとても貴重な経験でした。
ちなみに、その後に予定があったことから、この事件の結末までは見ることができませんでした。