【実用文の書き方】第3回~対象がすぐ分かるように具体的な言葉を選ぶ

「実用文の書き方」に関する3回目の掲載です。

今回は、「対象がすぐ分かるように具体的な言葉を選ぶ」をテーマに取り上げます。

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抽象的な言葉は、読み手には分かりにくい

実用文では、読み手が理解しやすいことが必要不可欠です。

しかし、執筆者の細かい配慮が欠けていることが原因で、読み手にとって分かりにくくなっているケースは少なくありません。

書き手にとっては分かり切った言葉や言い回しでも、読み手にとっては見慣れない言葉ということはよくあります。

また、執筆者は内容を知った上で文書を書きますが、読み手は文章から読み取れる範囲でしか理解できません。

従って、”読み手が理解しやすいか”を念頭に筆を執ることが大切ですが、実際には言葉を選ぶ場合ですら不適切な場合が多くあるのです。

以下、どのような言葉に注意し、どうすればより分かりやすい表現になるのかを説明します。

具体性に欠ける「もの」や「こと」は避ける

文書の中には、「もの」や「こと」などの表現が頻繁に出てきます。

これは、対象となる物事を抽象的に表現できますので、とても便利な言葉と言えます。

しかし、文章の流れや、前後の文構造によっては「もの」や「こと」が何を指すのか分かりにくく、読みづらくなってしまいます。

次の例文を見て下さい。

(例文)万年筆は、インクを取り換えることで長く使えるようにしたものです。

これは、万年筆がどのような物であるかを端的に表現した文で、普通に考えれば、問題ある文書とはいえません。

実際、この文を読んで、意味が分からない人はいないでしょう。

しかし、文章に慣れた人なら違和感がある筈です。

下記の修正文の方が意味がハッキリして、より分かりやすい表現となります。

(修正文)万年筆は、インクを取り換えることで長く使えるようにした筆記用具です。

この修正では、元の文の「もの」を「筆記用具」に置き換えただけですが、文章が引き締まり、稚拙な印象もなくなっています。

”「万年筆」=「もの」”ですが、”「万年筆」=「筆記用具」”でもあります。

「もの」や「こと」などの言葉は曖昧さが多い分だけ読み手には分かりにくくなります。

特に、「万年筆」を全く知らない人が読んだ場合、「もの」ではサッパリ分かりません。

どんな読者でも、「筆記用具」と記述されていれば、”万年筆は筆記用具の一種なのだ”と直ぐに理解できます。

「もの」や「こと」などの表現が適する場合もありますが、具体的な言葉の方が適切している場合が多いのです。

実用文では、みだりに「もの」や「こと」などの言葉を使うのは避けましょう。

可能な範囲で、細かく分類された言葉を用いる

さて、「もの」や「こと」など曖昧な言葉を避ければ、どんな言葉を用いてもよいのでしょうか。

答えは「ノー」です。

言葉が適していなければ、分かりやすくならないからです。

例文を挙げてみましょう。

(例文)県のマイカー普及率を知りたくて自動車の登録台数と人口数を調査した結果、人口100人当たりの保有台数は23台であった。

この例文を読んでも、特に問題を感じない人は多いと思います。

しかし、読み手が文章の意味を深く考えながら読んだ場合、「きちんと調査したのか?」との疑念を招く可能性があります。

上記の文章は下記の方が明確になります。

(修正文)県のマイカー普及率を知りたくて自家用車の登録台数と人口数を調査した結果、人口100人当たりの保有台数は23台であった。

上記では、「自動車」を「自家用車」に置き換えただけです。

単に「自動車」と表現すると商用車も含んだ意味になりますので、読み手は数値の信憑性に疑いを持つかも知れません。

この文ではマイカー普及率を論じていますから、「自動車」の中の「自家用車」であることを明示する方が適切と言えます。

たった一つ言葉を変えただけですが、意味がより明確になります。

事物を表現する言葉・用語は色々ありますが、一般的に大分類から中分類、小分類のように細かくなります。

例えば、自動車は自転車などを含む車両から見ればその中の1つの分類と言えますから、車両は大分類、自動車は中分類のようになります。

自動車は、用途で分けると自家用車や商用車のように分類できますから、自家用車は小分類となります。(下記)

車両(大分類)-自動車(中分類)-自家用車(小分類)

同じ自動車でも、車体のスタイルで分類すると、セダン、クーペ、ミニバン、ワンボックスなど別な小分類に分けることもできます。

このような分類の仕方は、自動車に限らずあらゆる分野で共通です。

子供と言えば、性別は分かりませんが、息子、娘と言えば性別まではっきりします。

学校と言えば、範囲が広すぎますが、小学校と言えば学童が通う学校であることが明確になります。

単に、”いとこ”と表現しただけでは性別や上下関係(年齢)は不明ですが、従妹と記述すれば年下の女性であることまで分かります。

このように事物を表現する場合、大分類ほど含まれる範囲が広く、細かく分類されるに従ってその範囲は狭くなります。

細かく分類された言葉の方が紛れがなく対象が明瞭となりますので、可能な限り細かく分類された言葉を用いましょう。

上記の例では、マイカーが話題となっていますので、「自動車」よりも「自家用車」が適切なのです。

子供の話題で性別が重要となるのであれば、やはり「子供」よりも「息子」や「娘」の表現の方が適すことでしょう。

学童に関連する文書であれば、学校よりも小学校の方が分かりやすいことが多いハズです。

年齢や性別が重要視される場合、”いとこ”よりも”従妹”などの表現が相応しいと言えます。

実用文では、記述する対象の分類が何であるかを考え、不自然な言い回しにならない限りは、細かく分類された言葉を選ぶ方が良いのです。

代名詞は何を指すのかが明確な表現にする

さて、言葉の曖昧さを招く表現のひとつに代名詞があります。

代名詞は、「それ」「これ」「あれ」など、短い言葉で記述できますので、とても便利な表現と言えます。

特に、指し示す対象が長い名詞や名詞句である場合、短い言葉で表せるため文の冗長を抑制できます。

また、同一の名詞が繰り返されなくなるため、言い回しがクドクなくなります。

しかし、うかつに代名詞を使うと、指し示す対象が分かりにくくなり、却って読みにくくなるのです。

例を挙げましょう。

(例文)ライトの故障は、振動によって接続部がゆるみ、それによって接触不良が生じることが原因であった。

この例文では、「それ」が指し示す対象がハッキリしません。「それ」は、「振動」ともとれますし、「ゆるみ」とも解釈できます。

ゆるんだことで接触不良が生じると解釈できますから、「それ」は「ゆるみ」と言えますが、「振動」は「接触不良」の間接的な原因で、「ゆるみ」は「接触不良」の直接的な原因ですから、「それ」を「振動」と解釈しても間違いではありません。

つまり、この例文の場合、因果関係をどう捉えるかに曖昧さがあるため、どちらの解釈でも意味が通じてしまうのです。

しかし、文によっては曖昧さが許されない場合もありますから、例文のような曖昧さを含む表現は避けるべきでしょう。

例文を下記のように修正してみましょう。

(修正文)ライトの故障は、振動によって接続部がゆるみ、そのゆるみによって接触不良が生じることが原因であった。

上記のように、「それ」を「そのゆるみ」に修正すると、故障の発生原因が、

「振動」→「接続部のゆるみ」→「接触不良の発生」

のように、より明確になります。

実際の文では、ここまで細かい表現は求められないこともあります。

しかし、「それ」や「その」などの表現そのものが無駄なケースはけっこうあります。

上記の例文を別な表現にしてみましょう。

(別表現)ライトの故障は、振動によって接続部がゆるんで接触不良が生じることが原因であった。

これを見て分かるように、「それ」「これ」「あれ」などの代名詞が必要という訳ではなく、「その」「この」「あの」などの指示詞を使わなくても表現できることが分かります。

代名詞や指示詞を必要以上に使えば、その分だけ文章は分かりにくくなります。

代名詞などは必要な時だけ用い、使う場合は、指し示す対象が容易に分かる表現を心掛けましょう。

言葉を統一し、表現している言葉を急に変えない

実用文では、統一した言葉を用いることが大切です。

特に、同じ対象を意味する複数の言葉を用いる場合、唐突に言葉を換えると読み手は混乱します。

下記の例文を見て下さい。

(例文)グラフを見ると2つの分岐点があることが分かります。これらの変化点は、市場の需要量が激減した時期と符合していることから、需要の影響を大きく受けていると言えます。

この例では、グラフ上の特性が大きく変わる点を「分岐点」と「変化点」との2つの言葉で表現しています。

しかし、最初に「分岐点」と表現していたグラフ上の特徴を、いきなり「変化点」に置き換えているため、読み手は混乱します。

ここで、「分岐点」は「変化点」のことですから、どちらかの言葉に統一すべきです。

(修正文)グラフを見ると2つの分岐点があることが分かります。これらの分岐点は、市場の需要量が激減した時期と符合していることから、需要の影響を大きく受けていると言えます。

上記のように「分岐点」に統一すると、自然な文になって読みやすくなることが分かると思います。

何らかの意図があって、2つの言葉を併用するのであれば、「分岐点」と「変化点」が同じ意味だと容易に分かる表現にしましょう。

(改善文)グラフを見ると2つの分岐点があることが分かりますが、いずれも変化が顕著であることから変化点と呼称するのが相応しいでしょう。これらの変化点は、市場の需要量が激減した時期と符合していることから、需要の影響を大きく受けていると言えます。

実用文では、用いる言葉は統一させることが基本です。

もし、複数の言葉を併用するのであれば、言葉を急に変えたりせず、両者が同一のものを指していることが分かるような表現を心がけるべきです。

ちなみに、造語や新語、或いは広く普及していない専門用語などを使う場合、唐突に使うのではなく、読み手が分かる説明を添えて記述することが大切です。

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