本年7月の最後の週末に、日本列島を通過した台風12号は、今までの通常の台風と大きく異なって、東から西へ進むものでした。従来の普通の台風は西から東に向かって、やや北上しながら進むのが通例で、そういう意味では、今までにない台風といってもよい異例な台風でした。
この台風は、日本列島に上陸しただけでなく、それ相応の規模を維持しながら、列島を横断するように進んだため、各地で様々な被害が出ました。また、今までと進行方向が反対で、趣も異なっていたため、戸惑った方も多かったのではないでしょうか。
台風12号は、従来にはないような台風でしたが、今後はこのような進路を通る台風が、当たり前のような時代になるともいわれています。
逆方向だった理由
この台風について、気象予報士の資格を持つ、職場の方に聞いてみました。
今回の台風が、従来の台風と全く逆の進路を取ったのは、ひとことで言えば、温暖化の影響だそうです。
温暖化については、誰しもが認識しているように、年々暑さが激しくなって来ているので説明の必要はないかと思います。今年の猛暑も凄いものがあって、日本各地で最高気温記録が更新されたくらいです。
では、なぜ温暖化が進むと台風の進路が変わるのかですが、まず、簡単に感覚的な説明をします。フィリピンや台湾など亜熱帯地域では、昔から台風は東から西に進んでいましたが、日本列島も温暖化が進むことで亜熱帯化しつつあり、その結果として、台湾やフィリピンのような状態と同じになるということです。
もう少し説明を加えれば、亜熱帯地方では偏東風(貿易風と同意) と呼ばれる東から西へ向かう風が流れているのに対して、従来の日本は偏西風と呼ばれる西から東へ向かう風が流れていて、台風はこれらの流れに従って進行するので、偏西風や偏東風がどのように吹くかによって基本的な進路方向が決まるのです。
つまり、従来、亜熱帯地域の風といわれていた偏東風の領域が、温暖化の影響によって広がり、日本列島付近にも偏東風が吹く傾向が強くなってきているのです。
偏西風、偏東風とは
さて、偏西風や偏東風はどうして起こるのかですが、細かいことは専門のサイトなどに任せることにして、ここでは要約して説明します。
風は気圧の高い位置から気圧の低い位置へ空気が移動することにより発生しますが、赤道付近には赤道低圧帯とよばれる気圧の低い部分があり、南北回帰線付近には亜熱帯高圧帯とよばれる気圧の高い部分があり、緯度が65度くらいの位置に亜寒帯低圧帯があるので、それぞれの間に風が発生します。
具体的には、亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯へ南へ向かって流れる風が偏東風、亜熱帯高圧帯から亜寒帯低圧帯へ北へ向かって流れる風が偏西風となるわけです。
これら気圧の差によって生じる風は、緯度の違う南北方向に吹きますが、実際には地球の自転によってコリオリの力が働くので、北半球では進行方向に対して右方向に向かう方向となります。従って、偏東風は東から西方向への流れになり、偏西風は西から東方向への流れになります。
以上のように、気圧の差とコリオリの力によって、地球上には大きな大気の循環が生まれるわけですが、その根底には地上に発生する温度差によって気圧差が生まれるので、温度分布が変われば、気圧差も変わり、結果として風の流れも変化するということです。
今回の台風の場合は、温暖化にともなって亜熱帯高圧帯が北上し、偏東風が吹く範囲が北上したといってよいでしょう。
今後は
ところで、気になるのは今後の気象状況ですが、長期的にいえば今後、西に向かって進む台風の数は徐々に増加して行くことでしょう。それは、温暖化が徐々に進んでいることの表れに他ならないからです。
また、昔から「天気は西から変わる」とか「天気を知りたければ、西の空を見よ」なんてよく言われてきたことだと思いますが、もしかしたら将来は、これらが「天気は東から変わる」とか「天気を知りたければ東の空を見よ」なんていわれる時代が来るかも知れません。
先日、私が住む長野でも、従来はあまりなかった最高気温35℃となりましたが、その時、避暑地といわれる軽井沢でも32℃を記録していました。もはや避暑地じゃないですね。
釧路でも夏は30℃を越すとのことで、日本全国、至る所で温暖化の影響がいろいろ出ているのを感じます。そして、近い将来、東京などでは三十度後半などという気温も当たり前になって行くとのことで、暑くて住めなくなることも現実化しつつあるといえます。
今後、台風の傾向や、温暖化の動向を注意深く見て行きたいところです。