日本が後進国へ転落する理由を数値で見る(8)弱者への支援が弱い

ソフトバンクグループの孫正義社長の「日本は後進国」発言を受けて、日本を後進国と呼ぶべきかどうかを数値で見て来ました。

今回で8回目になりますが、前回(第7回)の年金の所得代替率に続いて、ここでは障害者への公的支出のGDP比についてその数値を見て行くことにします。

日本の障害者への公的支出のGDP比はどうか?

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障害者への公的支出のGDP比

障害者への公的支出のGDP比は、文字通り障害者のために使われる公的な支出額を、そのGDPに対する比率(パーセンテージ)で表した数値です。

ここで言う支出には、身体障害者だけでなく病気の人や職業上で負傷を負った人に対して就労ができないことを理由とした給付も含まれます。

この統計データは、OECDEでは「Public spending on incapacity」と定義され、その詳細についてはOECDで公開されています。(https://data.oecd.org/socialexp/public-spending-on-incapacity.htm)詳細を知りたい方はそちらをどうぞ。

この比率を簡単に言えば、障害者に対する公的な支出を、その国のGDPの比率で表したものですから、その国がどれほど弱者に対する支援を手厚く行っているかのバロメータのひとつと言えます。

さて、孫正義社長の「日本は後進国」発言では、「障害者への公的支出のGDP比は37カ国中32位(OECD)」ということですから、OECDの中ではかなり後ろの方だと言えます。

では早速、実際のデータを見てみましょう。

世界ランキング

障害者への公的支出のGDP比の世界ランキングについては、その最新の様子がOECDの公式サイト(https://data.oecd.org/socialexp/public-spending-on-incapacity.htm)で公開されています。

上記は常に最新のデータに更新されるようですので、とりあえず現時点におけるグラフを見てみます。

障害者への公的支出のGDP比の国際比較

上記の各国の統計データは、同じ年に取得したのものではなく、各国における最新のデータを比較したものです。実際の上記のグラフの元データは、2014年~2017年に集計されたもので比較しています。

データは36か国となっていて、孫正義社長発言の「37か国中」とは食い違っていますが、これは元のデータにOECD全体という数値も含まれていたからだと思われます。

従って、実際には36カ国中31位です。ちなみに、OECD全体の数値は1.927%、日本の数値は0.983%です。

これを見てみなさんはどう感じられるでしょうか。

GDPの絶対値では現時点において日本はまだ世界3位ですし、その額も比較的大きいと言えますから、障害者への公的支出額そのものは、順位から感じるほど低いとは言えないでしょう。

しかし、数値(比率)としては0.983で1つ上位のアメリカが1.309ですから、上位の国とは数値にかなり開きがあります。

また、GDPがそれなりに高い割には、しっかりとした公的支援ができていないという見方もできると思います。

また、日本は30年近くもGDPが横ばいになっている状況を考えた時、GDPが変わっていないのにこの低い率ということは、障害者への公的支出は悪化しているというべきでしょう。

弱者への支援がしっかりしてこそ進んでいる国、いわゆる先進国だと言う見方をすれば、日本は遅れている後進国と言われても仕方がないところです。

現金・現物別

さて、上記の数値は実際には現金支給による支出と、現物支給による支出の2つに分けられます。

実際のOECD統計データでもこの2つに分けて集計されていて、上記はそれらの合計の数値によるランキングです。

ではここで、これら分けた2つをそれぞれ見てみましょう。

障害者への現金支給による公的支出のGDP比

障害者への現物支給による公的支出のGDP比

如何でしょうか。

現金支給だけを見ると、36か国中33位ですから、最初に示したグラフよりも更にランクが下になっています。

一方、現物支給を見ると、36か国中14位ですから、順位的に見れば悪くないような錯覚を起こします。

しかし、結局のところ最初に示したグラフがトータルの額(比率)ですから、内訳における現物支給が上位でも、あくまで公的な支援はまだまだ低いと見るべきでしょう。

また、見方を変えれば日本の財政難が原因で現物支給の比率が高くなっているとも言えますから、ある意味、日本の経済の深刻さが表れていると言えます。

実際、33位である現金支給の数値(比率)そのものを見ると0.602となっていて、日本よりランクが3つ上の30位に位置するドイツは1.28と日本の2倍になっていますから、現金支給の比率がとても低いことがよく分かります。

ではここで、障害者への公的支出(現金支給+現物支給)のうち現物支給が占める割合を見てみましょう。

障害者への公的支出に占める現金支給と現物支給の比(全支給に対する現物支給の割合)

これを見て皆さんはどのように感じたでしょうか。私はとても面白いものだと思いました。

このグラフは現物支給が占める割合ですから、一概に数値の大きい方が優れているとか小さい方が優れているなどと言えるものではありません。

しかし、もし仮に数値が大きい方が優れているという見方をした場合、36か国中6位となっていて優秀と言えます。

このような見方をした場合、上位にはスウェーデンやフィンランドなど障害者への公的支出のGDP比で上位(それぞれ3位と4位)に連なった国がありますから、そういった国々と同様だという言い方も可能かも知れません。

ところが、その一方で、上位には韓国やトルコなど障害者への公的支出のGDP比で日本より下位(それぞれ34位と35位)に連なった国もありますから、そういった国々と同じ位置にいるとも言えます。

つまり、現物支給が占める割合が高い国は大別すると2タイプあると言えます。

1つは公的支援を充実させるために現物支給額を大きく確保している国と、もう2つは財政的な理由などにより現金支給額を抑制する目的で現物支給額の枠を大きくしている国です。

2つのタイプはグラフ上の割合は同じでも、その傾向は全く別と考えるべきでしょう。

時間による変化

さて、この「障害者への公的支出のGDP比」はどのように変化してきたのかが気になるところです。

では、詳しく見てみましょう。

障害者への公的支出のGDP比の推移(日本)

これを見ると、数値(比)そのものは35年前の1980年(0.607)よりも大きくなって(2015年は0.983)いますから、改善しているとの見方も出来ると思います。

しかし、35年間でこの程度の増加であれば、これはかなり低いといえ、改善と言えるものでもないでしょう。また、世界水準と比べた場合に低いという事実は変わりませんので、決して良い数値とは言えないのではないでしょうか。

そして着目すべきは、数値的には改善するなかにも現金支給はほぼ横ばいで、現物支給のみが増加している点です。景気の低迷や国家財政の影響がそのまま表れているというべきでしょう。

さてここで、GDP比から実際の金額を出してみましょう。1980年と2015年の日本のGDPは米ドル換算で、

1980年:1,105,385,811,263
2015年:4,394,977,752,878

です。

上記より、GDPは35年間で、3.98倍(=4,394,977,752,878÷1,105,385,811,263)伸びていることが分かります。

では、GDP比から実際の障害者への公的支出の実額を出してみます。

1980年: 6,709,691,874(=1,105,385,811,263×0.607%)
2015年:43,202,631,311(=4,394,977,752,878×0.983%)

更に、これらの倍率を見てみると、6.44倍(=43,202,631,311÷6,709,691,874)伸びていることが分かります。

これを見て、

「なんだ、GDPが3.98倍に対して、障害者への公的支出は6.44倍になっているから良くなっているではないか」

と感じる人もいるかも知れません。

しかしこれは、バブル経済が崩壊する以前の1980年を基準に見ているからです。
試しに1995年を基準にした値を同様に見てみましょう。

GDPのドル換算額は、

1995年:5,449,117,511,910
2015年:4,394,977,752,878

ですから、GDPは20年間で、0.81倍に低下しています。

1995年における障害者への公的支出のGDP比は、0.639[%]ですから上記と同様に実額を計算すると、

1995年:34,819,860,901(=5,449,117,511,910×0.639%)
2015年:43,202,631,311(=4,394,977,752,878×0.983%)

となります。

両者の比を計算すると、1.24倍(=43,202,631,311÷34,819,860,901)となり、20年間でわずか1.24倍にしかなっていないことが分かります。

しかも、1.24倍の実態は現物支給の増加ですから、国家財政の悪化が背景にあるのが数値ににじみ出て来ている感じがします。

財政悪化によって障害者への公的支出ができなくなってきている現実に対して、少しでもその支援を充実させようと、苦肉の策として現物支給を増やしているのを強く感じます。

最後に、参考のためにOECD全体における「障害者への公的支出のGDP比」の変化を見ておきましょう。

障害者への公的支出のGDP比の推移(世界)

図から分かることは、世界全体でも1993年をピークにこの比率が下がっていること、さらに徐々に現金支給が減少しつつ現物支給が増加して行く傾向にあることです。

障害者への公的支出は、弱者への支援ですから、一定の水準が保たれることが望ましいと思います。したがって、世界全体でこの比率が徐々に下がっていることはあまり良いこととは言えないでしょう。

とは言え、GDPそのものは世界で確実に増加傾向にありますから、障害者への公的支出額そのものが低下しているとは言えません。

むしろ、日本を含めた一部の国が、国家の財政難などが理由でこの比率を下げていて、それが世界の比率低下に結びついていると考える方が自然な感じがします。

まとめ

以上、障害者への公的支出のGDP比を数値で見てきましたが、その概要をまとめると以下の通りです。

  • 障害者への公的支出のGDP比は諸外国と比べて極めて低い
  • 障害者への公的支出の絶対額も伸びが鈍化している
  • 現金支給より現物支給の比が増加していて国家財政の深刻さが表れている

以前に掲載した様々なデータにも表れていますが、日本の国家財政が影響していることがすごく大きいと感じます。しかも、じわじわと少しずつ悪化している傾向に怖いものを感じます。

日本を「後進国」と呼ぶのであれば、障害者への公的支出を充実させてこそとの思いが湧いてきます。

こんな数値を見ながら、本当に世界から魅力ある国に映ってこそ、本物の先進国とも言えるのではないかと強く感じます。

次回(第9回)は、失業に対する公的支出のGDP比に関する数値を追って行きます。

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