職場の部下が、自分より能力や経験があったりすると、上司という立場でありながらも、指導しにくいことは、よくあることだと思います。
ともすれば、「あの分野に関しては、自分の方が、知識が乏しいので、言える立場ではない」と考えたり、「この件については、彼の方が、経験があるから、反論されてしまうのではないか」と不安に思ったりして、指導を躊躇することすらあるかも知れません。
しかしそれらは、視点がずれていることから生じる思考や不安であり、本来は全く気にする必要はないので、堂々と指導すべきです。
経験や能力が違うのは当り前
組織の上に立つ者が、全てにおいて部下よりも能力が上で、経験も豊富で、技量も勝っているというようなことは、まずあり得ません。どのような人でも、それぞれ得意とする分野があるのは当然で、その分野で上司より優れていても、何ら不思議のないことです。
ましてその分野が、専門的であればあるほど、当然のことです。従って、「部下はみんな、自分よりも勝っているところを、たくさん持っている」という認識に立った上で、指導するのです。
たとえ、部下の方が知識、経験、技量等が上であっても、卑屈になる必要もなければ、何ら臆する必要もありません。むしろ、自分より能力のある部下たちをまとめて行くのが自分の役割、というくらいの意識で臨むべきでしょう。
指導する点を明確に
一般に、自分より優れている分野については、指導することはできないものですが、そもそも、その分野そのものについては、指導する必要はないハズです。
換言すれば、指導すべき点は、その部下が得意とする分野の内容そのものではなく、その方向性が、業務の方向性としてどうであるかということです。
端的にいえば、指導とは教え導くことですが、部下が得意とする専門分野そのものについて教え導くのではなく、その専門分野が、社長方針、部門方針、或いは業務方針に活かされるように教え導くということです。
これが明確になれば、部下の方が優れているということを、心配する必要はなくなります。
どうしても必要な場合は
しかし現実的には、自分の方が能力・技量・経験の至らない分野の内容そのものについて、部下を指導しなければならない状況も、発生することがあります。
自身の方が知らないことばかりなのに、いたずらに部下を指導すれば「何も知らないくせに、偉そうに言うな」などと反発を買うだけかも知れません。
このような状況で採る手段としては2つで、1つは、部下から専門的な内容について逆に聞き出す方法と、もう1つは、部下と同様に詳しい、他の者の力を借りる方法です。
まず、1つ目の方法ですが、専門的な内容については部下にはかないませんから、その内容について、逆に聞き出すのです。この時、単に聞くのでは無く、業務方針に沿って、その内容を説明してもらうような形式が望ましいです。
そもそも、自分が詳しくない分野について指導が必要になるということは、その背景に何かしら問題が発生していたりするわけですから、業務方針に沿って説明させることで、その問題の核心部分が見えて来るハズです。
そして、その核心部分を、さらに細かく説明してもらう中で、自ずと、指導するのに必要な部分を、部下自身の口から、聞きだすことができるのです。
次に2つ目の、部下と同様に詳しい他の者の力を借りる方法ですが、これには、詳しい他の者から、直接指導してもらうやり方と、詳しい他の者の見解を確認した上で、直接、部下を指導するやり方の2通りがあります。
詳しい他の者が、その部下よりも上の立場であり、その分野の知識も豊富であれば、前者のやり方が望ましい場合もあるでしょうが、それ以外の場合は後者のやり方が良いでしょう。いずれの場合でも、業務方針に沿って指導することを、決して忘れてはいけません。
以上、自分より能力がある部下に対する、指導のあり方について述べてきましたが、結局のところ、最も大事なことは、卑屈にならず、臆することなく、上役として堂々と接して行くことです。
その堂々とした姿の中に、威厳がそなわり、具体的に指導する言葉の重みも増して来るものですから、たとえどのような状況であれ、つねに堂々と指導して行くべきです。