年老いた親や親せきなどが残した土地や家屋などの中には、過疎化や老朽化によって利用することがないものの、資産価値がほとんど無いことから売却するにしても売れそうもない物件などはよくあるものです。
このような物件は、たとえ利用しなくても所有しているだけで固定資産税が課せられるため、金銭的にはかなりの負担になってしまいます。しかも、その物件が人の住まない空家となると、通常の課税率よりかなり高い課税がされるため、その問題はより深刻です。
この度、私の母方の親戚が所有していた全く売却の見込みがなかった固定資産を売却することができました。この経験を通して、諦めずに手を尽くせば手はあるものだと実感したもので、同じ問題で悩んでいる方の一助になればと考えて、契約に到るまでの一部始終をまとめました。
対象物件
今回、売却できた物件は、身寄りの無い母方の親戚がかつて一人暮らしで住んでいた家屋で、過疎地にあるだけでなく、かなり老朽化していたため、既に住めるような状態ではありませんでした。その親戚が高齢となって施設に入居していて、その家屋が空家になっていたことから、処分しなければと考えていたものです。
その物件の所在地が、私の住んでいる長野県にあり、我が家からも自動車で1時間余りで行けることから、結果としてその問題に私も関わることになりました。現地にも何度か足を運びましたが、実際にその物件を見てみると、屋根の一部は崩れており、廊下には穴が開き、家屋内はホコリや蜘蛛の巣などがいっぱいで、とても住めるような状況ではありませんでした。
仮に住むとしても、単なるリフォームだけではなく、大幅な補強工事なども必要ですし、設備としても古すぎて住む人など到底いないと思える家屋でした。
さら地になっていればまだ有効活用はできたと思うのですが、母屋に隣接してあった2つの土蔵(昔の物置小屋)のうち、1つを解体するだけでも解体費用が100万円を超えるということで、土地の売却益だけでは足が出てしまう状態でした。土地は数百坪でまとまった敷地面積はあったのですが、農村地域ということで坪単価が低く、土地としての価値もそれほどなかったのです。
目途が立たない
このような状態でしたので、いっそうのこと譲渡してしまおうと考えて、その地域に住む遠戚の縁故をたどって提案してみたのですが、「あっても仕方がない。利用価値がない。」との理由で全て断られてしまいました。
そして、地元の不動産会社にいくつも問合せて売却したい旨を相談しても、「需要が見込めない物件なので、取扱いできない」という感じで断わられてばかりでした。
それでは一層のこと、さら地にして別な用途を考えようともしたのですが、どの解体業者に問い合わせても解体費用は全て三桁(百万円)を超えるものばかりで、さら地にするのも難しい状況でした。
一筋の光が
このように万策尽きる感もあり、処分に困り果てていたところ、ある時、ひとつの興味深い不動産を見つけたのでした。その不動産は、いろいろな不動産物件でも、古民家を1つの商品として扱うことに長けている会社で、さっそく問い合わせてみると、実際に物件を見てみようとの話になりました。
現地で落ち合って、色々と話をしてゆくと不動産会社が買い取るのは無理でも、不動産会社が仲介役として、販売広告を掲載するなら可能とのことで、さっそくその契約を交わすことで話がまとまりました。その際、不動産の担当者に色々と話を聞いたのですが、
「わが社では、古民家と言われる古い民家をたくさん扱っているが、古風な家を好んで、そういった物件を求めるような人はけっこういる。」
とのことでした。続けて
「さすがにこれだけの築年数で、家屋がここまで傷んでいる場合は、そのままでは住めないので、正直厳しいだろう。」
とも言っていました。
それを耳にした私は「やはり現実は厳しいよな 」と感じていましたが、続けてその担当者が語ってくれた話を聞いて、わずかな希望を持てるようになりました。そのひと言とは
「この物件から数十キロ離れた場所にあった、これよりももっと老朽化が進んで痛みの激しい物件があったのですが、都内から来た家族がとても気に入って昨年、購入契約に到ったという事例があります。そこはハクビシンが住みつくほどのひどい状態だったのですが、その物件をとても気に入ってくれて、購入者は『補修してでもぜひ住みたい』といっていました。」
とのことでした。続けて、似たような事例を2つほど話してくれましたが、いずれにしても
「どんな物件でも、いざ、売り出しの広告を出してみないことには、その反響は分からない」
とのことでした。それを聞いた私は、「なるほど、世の中には、一般の人が好まない特異なものをあえて好むような人々はいるものだなぁ」と感じ、赤字にならない程度に価格を思いきり低く設定して、売却物件の広告を出してもらうことにしたのでした。
簡単には行かない
広告が出た当初は、物件の安さが目立って、瞬間的なアクセスランキングではトップになりました。しかし、築年数や建物の状態、あるいは所在地などの理由から、問合せに留まることが多く、物件の見学に到るケースはほとんどないのが現実でした。
その後、時折、状況を聞いてはみるのですが、ちょろちょろ問合せはあるが、見学に到るケースは稀で、実際に物件を見ても契約はしない人ばかりだとのことでした。
そういう状態のまま、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月とどんどん時間が経過して、むずかしいものだと感じていましたが、とにかくあの不動作に任せたのだから、辛抱強く待つしかないと心して、その動向を窺っていました。気付くと年月は1年半を経過しており、厳しい現実を見せつけられた感じすらしていましたが、そんな矢先、一報の連絡が入ったのでした。
結果として
不動産会社の話では
「地元の建築会社が物件に興味を示していて、太陽光発電の設備を作りたいと考えている。土地使用の用途が法的に問題ないことが確認できれば、契約の運びとなる」
とのことでした。土地は宅地、農地、商業地など、いろいろ区分けされていて用途によってはその土地が利用できない場合があります。従って、売却しようとしている不動産が、太陽光発電の設備を設置する土地として、利用可能かどうかを確認する必要があったわけです。
それから何日か経過して、担当者から再び連絡が入り、
「太陽光発電の設備利用が可能なことが確認できたので、売買契約をしたい」
と伝えて来ました。その後、実際の所有者である親戚に書類を書いてもらい、見事無地に契約の運びとなったのでした。
考えてみれば、購入希望者が建築会社なので老朽化した家屋の撤去は自社で行えば済む話ですし、さら地にすることも建築会社であれば得意とするところですから、購入する側としても有効に活用できるというわけです。
換言すれば、一般の人や法人が求めないような物件でも、条件さえ整えば、ある種の人や法人にとっては有用な不動産となるわけです。
まとめ
今回の売買契約は、太陽光発電がひとつのブームの中にあったことにも後押しされましたし、もちろん運が良かった面もあったと思います。しかし、その幸運を招いた背景として、万策尽きそうな中でも手を尽くしたことが挙げられるでしょう。
同じような問題を抱えている人のために要点をまとめれば、
・どんな物件であれ、需要は狭くてもゼロではないと心得ること
・利益を度外視するくらい値段や条件を下げて売却しやすい状況にすること
・少しでも可能性があれば色々と手を尽くし、最後まであきらめないこと
が大切ではないかと思います。