「日本は後進国」というソフトバンクグループの社長孫氏の発言を受けて、日本を後進国と呼ぶべきかどうかについて様々な数値を見てきました。
前回(第10回)は、日本の労働生産性について見てきましたが、最終回となる今回は日本の世界輸出のシェアについて見て行きます。
前回(第10回)掲載日本が後進国へ転落する理由を数値で見る(10)恥ずべき労働生産性
世界輸出のシェアとは
世界輸出のシェアとは、文字通り全世界の輸出に対する日本の輸出の割合を意味します。
従って、どれだけ貿易が盛んであるかが分かりますし、輸出の規模がどれだけかも分かります。
この数値が大きければ、どれだけ産業が活発であるかも反映されますから、国としてどれだけ利益を生み出しているとも言えるでしょう。
日本は資源が乏しいので、原材料を輸入して製品を生みだし、それを輸出して利益を生み出している国ですから、相応の輸出量を生み出すことが特に大切と言えます。
孫社長の発言では、
「2017年における世界輸出に占める日本のシェアは3.8%しかなく、1位の中国(10.6%)、2位の米国(10.2%)、3位のドイツ(7.7%)と比較するとかなり小さい」
というものでしたが、データの拠所が記載されていませんでしたので調べてみました。
その結果、数値が異なるものばかりで、完全に数値が一致するデータは見当たらず、データの出処は分かりませんでした。
そこで、別なデータを用いても輸出量の傾向を見ることはできると判断して、ここでは国際的な公的機関であるWTO(World Trade Organization https://www.wto.org/index.htm)のデータをもとに数値を追ってみることにしました。
統計データは、処理の仕方によって違いは生じますし、本件の場合、けっこう数値には開きがあったのですが、公的な法人であるジェトロなどもWTOの情報をもとにしていましたので、WTOは信頼できるデータと判断しました。
実際に用いたデータは、公開されているデータ(https://data.wto.org/en)から、Merchandise exports by product group and destination – annual (Million US dollar)即ち、製品群や相手国別の輸出商品の年間データ(米百万ドル換算)を用いました。
各国との比較
まず、2017年における輸出額の多い上位の国々について、輸出額(米百万ドル換算)を見てみます。
下記がそのグラフです。
日本は4位ですが、1~3位の中国、米国、ドイツとは、大きく水をあけられているのが、よく分かると思います。
中国や米国は、国の規模が違いますからまだ仕方がないとは思いますが、「ドイツにここまで差を付けられてしまっては…」と感じます。
産業立国日本、貿易大国日本なんて言葉がかつてはあったと記憶していますが、オランダや韓国、フランス、イタリアなどとの差があまりないことを思えば、もはやそんな言葉は使えそうもありません。
では、輸出額のシェアを割合で見てみましょう。
下図は、全世界の輸出総額を100%とした時、そのうちの何パーセントを占めているかを示しています。
出処のデータが異なるので、孫氏の発言の数値とはけっこう異なっていますが、日本の数値は4%弱で同様ですし、全体の傾向については似ていると言えそうです。
いずれにしても、日本は上位3位に大きく水をあけられてしまっていることが目に付きます。
近年の推移
では、輸出金額が近年どのように変化してきたかを見てみましょう。
ここでは、上記の各国についての2013年~2018年における輸出額(米百万ドル換算)を示します。
全体的に大きく変化している様子はありません。
グラフでは、世界経済の状況に応じて、年ごとに全体が上下に波を打ちながら推移しているようすが表れています。
2017年と比べても大きな変化はありませんが、ここ数年は日本が低い割合で推移していることが分かります。
ここで、日本は5位のオランダに今にも抜かれそうな感じがする点が気になります。
では同じデータを割合で見てみましょう。
輸出額も割合も、全体としての傾向は同じです。
世界輸出量(割合の分母)が変化しているためか、割合の推移については、輸出量よりも全体的にフラット(横ばい)に見えます。
まぁ、ここ数年間については、日本の輸出量は伸びてもいなければ、縮小もしていないといえるでしょう。
長期的な推移
近年ではあまり変わらないことが分かりました。
しかし、これでは少し傾向がよく分かりませんので、思い切って1980年までさかのぼったデータを見てみましょう。
まずは、輸出額(米百万ドル換算)を示します。
全体の傾向としては、世界的に貿易が盛んになった結果として、増加傾向にあるのが分かります。
また、中国の著しい増加が特に目に付きます。
具体的な数値としては、1980年における日本の輸出額は130,441(米百万ドル換算)で、2018年にはこれが738,143になっています。
従って、38年間では5.66倍(=738143÷130441)伸びていることが分かります。
しかし、同じ期間に世界の輸出額は、1980年は2,036,136、2018年は19,450,625と、38年間で9.55倍(=2036136÷19450625)伸びていますから、世界の伸び率に比べた場合に日本の伸び率は低いことが分かります。
ちなみに38年間(1980年→2018年)における各国の伸びを示すと下記のようになります。
イタリア 7.00
フランス 5.01
韓国 34.54
オランダ 9.79
日本 5.66
ドイツ 8.09
アメリカ 7.39
中国 137.39
世界 9.55
中国の伸びが驚異的なことがわかりますし、新興国である韓国も大きく伸びているのが分かると思います。
この中で、日本はフランスに次いで伸び率が悪いことが分かります。
では、世界輸出に占める割合の長期的な推移を見てみましょう。
この図を見ると、日本が衰退してきた様子がハッキリと表れているのが分かります。
かつては10%ほどのシェア(ピークは1986年の9.86%)があった日本ですが、ジリジリと減少して、今や4%ほどにまで落ちてしまいました。
先進国は全体的に減少傾向にあるのは事実ですが、ここまで減少している国は日本だけです。
38年間で最も伸び率の悪かったフランスも大きく減少してはいますが、ピークと比べた場合、日本ほど減少してはいません。
ドイツやアメリカは、減少してはいるものの、ある程度のシェアは確保しています。
かつては、日本もドイツとほぼ同じ割合だった時期もありましたが、今ではここまで差を付けられてしまっています。
日本が減少している時期は、ちょうど日本のGDPの伸びが鈍化している時期とぴったり一致しますから、経済が低迷することがそのまま輸出のシェアという数値に表れたと言えるでしょう。
日本経済の先行きが全く見えない中でのこの数値。ジワリジワリと後進国化して行くことを感じます。
まとめ
今回、日本の世界輸出のシェアについて数値を見てきました。
これらをまとめると以下の通りです。
- 日本の世界輸出のシェアは第4位であり、これだけ見ると悪くは無い
- 40年弱前からは輸出額は数倍になっているが世界の伸び率と比べて低い
- GDPの伸びが停止した約30年前から割合が減少し、今も続いている
日本の世界輸出のシェアについては、第1回から10回まで見てきた他のデータと傾向が似ていて、約30年にも渡って経済が停止しているかの如くです。
回復の兆しすら見えない日本経済ですが、このまま行けば、本当に後進国となっても何ら不思議ではありません。
今回の第11回を持って、連載を続けてきた「日本は後進国か」に関する記事は終わりです。
今まで見てきたデータを総括してまとめた総集編も用意しました。興味のある方は下記の記事をどうぞ。