日本が後進国へ転落する理由を数値で見る(5)貧困率は深刻だ!

ソフトバンクグループの孫正義社長の「日本は後進国」発言を受けて、日本を後進国と呼ぶべきかどうかを数値で見て来ましたが、それも5回目になります。

日本の相対的貧困率は?

前回(第4回)は、平均賃金についての数値を見てきましたが、今回は、相対的貧困率についてその数値を追ってみることにします。

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相対的貧困率

相対的貧困率は、貧困者の割合がどれくらいかを表した数値ですから、その数値が大きければ大きいほど貧困の傾向を持つことになります。

もちろん、相対値ですから貧富の格差が大きいほど数値は大きくなり、単純に貧困の度合いを示すという訳ではありません。

しかし、格差が大きいということは社会構造としても課題を抱えるという見方ができるでしょうから、生活しやすい国という捉え方をすれば、この数値が低いに越したことはないでしょう。

相対的貧困率の実際の統計データは、

家計の人数で調整された『等価可処分所得の中央値』の半分に満たない所得しか得ていない人の総人口に占める割合

として算出されています。

さて、孫社長の「日本は後進国」発言では、「相対的貧困率は38カ国中27位」(OECD)というものですから、順位として後ろに位置するといえます。

日本は従来から先進国と言われていますが、相対的貧困率がこのような順位では、「果たして本当に先進国なのか?」との見られ方をしても仕方がないところなのでしょう。

実際のランクを見ると

それでは早速、実際の数値を見てみましょう。

OECDが現在公開している数値(https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm#indicator-chart)をそのまま用いました。

相対的貧困率の国際比較

縦軸は相対的貧困率を、横軸は国家を意味します。

これを見ると、相対的貧困率は39か国中29位であることが分かります。孫社長の「38カ国中27位」と相違があるのは、用いたデータが最新だからです。

また、この統計データは各国のデータが毎年あるわけではないため、2018年及び最新の取得データ(最古で2014年)をもとに比較しています。(実際のOECDの公開データも同様)

図を見ると、こんな順位なのかと悲しい思いがします。日本よりも上位にある国々を見て、「この国よりも下なのか・・・」と思ってしまうところもあります。

G7(主要7か国)を見てみると、フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、イタリアの5か国は日本より上位で、唯一アメリカが日本よりも下位に位置しています。

しかしアメリカの場合は、富裕層が平均を押し上げて貧富の差が大きいことが要因でしょうから、単純な絶対賃金としては日本よりも多い感じがします。

近年の変化は

では、相対的貧困率の変化はどうなのかを見てみましょう。

相対的貧困率の場合は統計データも比較的少なく、日本については2009年、2012年、2015年しかないのですが、推移の傾向としては見られるのではないかと思います。

下記が相対的貧困率の変化のグラフです。

日本の相対的貧困率の近年の推移

このグラフでは、全体の相対的貧困率に加えて、年齢層別の変化も表してみました。

このグラフからまず分かることは、相対的貧困率そのものは横ばいでほとんど変化していないことです。

しかし、ここで見逃してはいけないのが、高齢者(66歳以上)の貧困率の高さです。

高齢化社会が進む中で、高齢者の貧困化が目に付き、老後破産などという言葉が盛んに言われるようになってきたことも頷けます。

この図を見ると、統計データが少ないので一概には言えませんが、高齢者の貧困率は上昇する気配を感じます。これは単なるデータが推移するなかでのバラつきと言えるかも知れませんが、これとは別に更に無視できない事実があります。

それは、高齢者の人口比率が年々大きく増加していることです。つまり、貧困率が横ばいでも高齢者の人口比率が増加している事実から、高齢の貧困者の人数そのものは増えていると言えるのです。

高齢者の増加については、下記の関連記事に記載していますので、参考にして下さい。

加速する高齢化社会を目の当たりにしつつ、この貧困率を見ると少しゾッとします。

高齢者の順位は

では次に、高齢者の場合の統計データで世界のランクを見てみましょう。

最初に見た相対的貧困率のグラフを、66歳以上の貧困率として見たのが下記のグラフです。

66歳以上の相対的貧困率の国際比較

この結果は、最初のグラフと同じ39か国中29位ですし、傾向も似ています。

またG7(主要7か国)を見ると、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、イギリスに次いで6位で、やはり貧富の差が大きいと言われているアメリカが日本よりも下位に位置しています。

しかし、日本の高齢化を見れば、この順位はものすごい勢いで更に下位に落ちて行くことは容易に予想できるところです。

もし後進国を「高齢者が安心して生活できない国」のように定義するならば、日本は間違いなく後進国でしょう。

過去の順位は

さて気になるのは過去の順位です。OECDのこの種のデータは統計データ数としては決して多くありませんから、あくまで参考ですが、2009年(一部2008年)における相対的貧困率を見てみます。

2008年頃の相対的貧困率の国際比較

データがあるのは24か国分ですが、そのうち日本は22位で後ろの方であることが分かります。

フランスとアメリカのデータがありませんが、G7のうちその2カ国を除く5か国の中では最下位です。

日本の貧困率は2009年と2015年とではほぼ差がありませんし、最新のグラフと比較してみると、単に日本より相対的貧困率の低い国々の統計データが以前は無かったと見るのが自然でしょう。

結局いえることは、過去であれ現在であれ、日本は国際ランクの後ろに位置しているということですね。

まとめ

以上、OECDのデータに基づく相対的貧困率を見て来ました。これらをまとめると以下の通りです。

  • 相対的貧困率はOECD加盟国の中でも後ろに位置している
  • G7等の先進国と比べても相対的貧困率は高い傾向にある
  • 高齢者の貧困率は高く高齢化を考えると深刻である

いずれも「貧困」という言葉が迫ってくるような思いがします。

貧困率の率を国に変えると、貧困国です。貧困国は後進国のことです。

もちろん実際は相対的な率ですから、直ちにそうは言えないでしょうが、すすむ高齢化を考えると、このままではいけないと強く感じます。

次回(第6回)は、教育に対する公的支出のGDP比についての数値を追って行きます。

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