日本が後進国へ転落する理由を数値で見る(9)失業者への支援の実態は

ソフトバンクグループの孫正義社長の「日本は後進国」発言を受けて、日本を後進国と呼ぶべきかどうかに関して、色々な数値を見て来ました。

前回(第8回)は、障害者への公的支出のGDP比を見てきましたが、第9回目に当たる今回は、失業に対する公的支出のGDP比について数値を見て行きます。

日本の失業に対する公的支出のGDP比はどうか?

スポンサーリンク

失業に対する公的支出のGDP比

今回、数値を追ってゆく対象は、孫正義社長の「失業に対する公的支出のGDP比は34カ国中31位」という発言に関してです。

これは、OECDが公開している「Public unemployment spending」と言われるデータ(https://data.oecd.org/socialexp/public-unemployment-spending.htm)がその出所です。

この数値は、失業者に対する公的な手当の総金額をGDPに対する比率(パーセンテージ)で表したものです。

従って、絶対額を考える場合は、比率の元となっているGDPを考慮する必要があります。

また、失業者がどれ位であるかが影響しますので、これを念頭に見て行く必要もあります。

国際順位

では早速、数値を見て行きましょう。

まずは、世界における順位です。縦軸はGDPに対する比率で、横軸は国です。

ちなみにこのデータは現時点での各国の最新のデータになっていますが、統計の都合上、2015年~2017年の間に集計された数値となっていますので、同一年のデータで比較している訳ではありませんのでご注意下さい。

失業に対する公的支出のGDP比は世界的に見てどうか?

上のグラフを見ると、孫社長の言う通り日本は確かに0.174%で、34か国中で31位となっています。順位だけを見るならば、後ろの方になっていて、決して良いとは言えないでしょう。

このグラフをよく見てみると、比較的上(上位)の方には、フランス(1.62%)、イタリア(0.996%)、ドイツ(0.906%)、カナダ(0.619%)などのG7の中の4か国があり、先進国はそれなりに高い数値になっていることが分かります。

しかし、その一方で同じG7である、アメリカ(0.194%)やイギリス(0.173)が日本と大差のない数値であることが目に付きます。

失業率はどうか

さてここで気になるのが失業率です。OECDが公開している失業率のデータ(https://data.oecd.org/unemp/unemployment-rate.htm)を見てみましょう。(2019年第3四半期)

縦軸は失業率(パーセンテージ)、横軸は国です。

日本の失業率は世界的に見てどうか?

上記の失業率は、統計の母数と時期が失業に対する公的支出のGDP比のそれと少し異なりますが、傾向を見るには十分でしょう。

グラフから、日本の失業率は2.267%となっていて、ベスト2になっていますから、この数値だけ見れば優れていると言えます。

そして、先ほどのグラフと照らしあわせてみると、日本と大差のなかったアメリカやイギリスについては比較的、失業率が低いと言えます。つまり、失業率が低い分だけ、失業に対する公的支出は少なくて済むと言えるでしょう。

一方、先ほどG7のうち上位に位置していた、フランス、イタリア、ドイツ、カナダの4か国について見ると、ドイツ以外は比較的、失業率そのものが高く、失業に対する公的支出を余儀なくされる要因も高くなると言えます。

以上のことから、失業に対する公的支出のGDP比は、失業率との関係が高いため、失業率抜きで論じることはできないと言えます。

失業率はどう変化?

このように、無視することのできない失業率ですが、その変化も気になるところです。

では、ここ数十年における日本の失業率の変化についてちょっと見てみましょう。

日本の失業率の変化

なんと1960年代から70年代前半は、失業率1%台を維持していたのですね。さすがに経済が大きく発展を遂げた時期だけあって凄いことだと思います。

このデータによれば、日本の失業率が最悪だったのは、2002年のことで5.375%でした。

では、この最悪だった2002年の失業率の国際比較をグラフで見てみましょう。

2002年における世界的に見た日本の失業率

最悪だった2002年でも、国際的に見るとまだまだ上の方にいることが分かります。そういう意味では、就労に関しては日本は決して悪くはないと言えそうです。

公的支出のGDP比の変化は?

では話をもとに戻して、失業に対する公的支出のGDP比の変化を見てみましょう。

グラフは、日本の1980年から2014年までの失業に対する公的支出のGDP比の変化です。横軸は西暦、縦軸はGDP比(パーセンテージ)です。

参考、比較のためにOECDの平均値も掲載しておきます。

失業に対する公的支出のGDP比の変化

これを見て、どう思われますか?

1990年代までは減少傾向にありますから、悪くなっているように見えます。その後、2002年頃までは増加傾向にありますから、改善しているように見えます。また、2002年以降はまた減少傾向にありますから、再び悪化したように見えます。

しかし、これらはGDPの絶対額や失業者数を考慮していない、単なる比率の変化だけを評価しただけです。OECDの平均と比較しても常に数値が低くなっていますが、比率の数値だけ見てもあまり意味がないような感じもします。

実際、日本は1990年余まではGDPが増加傾向にありましたし、それ以降は微妙に変化しながらGDPはほぼ横ばいでしたから、失業に対する公的支出の絶対額を見なければ、実際の支出額は分かりません。

そこで、GDPをもとに絶対額を算出してみることにしましょう。GDPについては、この連載記事の第1回で見てきましたので、そのデータを用いて計算します。

GDPそのものの詳細の説明についてはここでは省きますので、細かく見たい人は第1回の下記の記事をご覧ください。

GDPを用いて、失業に対する公的支出の絶対額を求めた結果をグラフで示すと、下記のようになります。

横軸は西暦、縦軸は失業に対する公的支出額(ドル換算)です。

日本の失業に対する公的支出の絶対額の変化

これを見ると、バブル経済が崩壊した後に、失業者の増加に伴うように公的支出額が増加しているのが分かります。失業者が増加したから仕方がないという感じですね。

また、失業率がきちんと改善する前に公的支出額が減額されている様子も分かります。国家財政の厳しさが表れています。

そして、ここ何年かは失業率が徐々に良くなっている傾向にありますが、それに伴って公的支出額も確実に減らされています。

まとめ

以上、失業に対する公的支出のGDP比について見てきましたが、まとめると以下のようになります。

  • 公的支出のGDP比は34カ国中31位と数値的には悪い方である
  • 実際の失業者への支援の度合いはGDPや失業率が大きく影響する
  • 失業率が低くGDPも高いので実際の支援としてはそれほど悪くない

孫社長の発言は、低迷する日本が後進国化することを懸念しての発言であるため、数値的に悪い部分をピックアップした結果としてこの統計データを取り上げたと思われます。

順位としては、34カ国中31位ですから決して褒められた順位ではありません。

しかし、GDPが世界3位で、失業率がベスト2であることを考慮すると、見た目の数値よりは悪くないと言えそうです。

但し、本当に日本が後進国化する方向に行っていないのであれば、この数値は「ここまで低くはないのではないか」とは言えそうです。

また、私が着目すべき点としては、数値そのものには表れない「失業率が低い原因」です。

景気や経済が低迷し続け、国民の中には好景気という感覚はほとんどないと思いますが、そのような状況の中でなぜ失業率については諸外国よりもかなり良いのでしょう。

私が推測するところ、少子高齢化に伴い、労働力人口の減少が著しく進み、その結果として人手不足が発生して失業者が少なくなっているに過ぎないということです。

これは、高齢者や外国人労働者に頼らざるを得ない構造になっているとも言えます。

裏を返せば、深刻な高齢化によって、優れた人材が不足することも懸念されますし、日本の産業の力が衰退していくことも考えられます。

実際に日本の世界競争力ランキング(本連載3回目で掲載)は低下しつつあり、ここにその影響が表れている気がします。

失業に対する公的支出のGDP比から見る失業者への支援は、国際比較の順位に見るほど悪くはありません。

しかし、その背景にある日本の深刻な状況や、あらゆる要素を含めた後進国化という視点に立つ時、容易ならざるものを感じるのは私だけでしょうか。

次回(第10回)は、労働生産性に関する数値を見て行きます。

スポンサーリンク