もうだいぶ時間が経過しましたが、ソフトバンクグループの孫正義社長が「日本はAI後進国」などと発言したことが話題になりました。
そのことがキッカケで、「日本は後進国との認識を持たなければならない」という議論もされるようになってきています。
そこで、日本が後進国へ転落しつつある姿を連載記事として数値で追ってみることにし、まずその手始めの第1回目はGDPについて見てみました。
孫氏の発言
日本が後進国だという話はソフトバンクグループの孫正義社長の話を機に、大きく取り上げられるようになりました。
孫社長の話によれば、日本はAI後進国とのことですが、それだけではなく、Wifiの遅れなんかを見てもIT全般について既に後進国になっている感じがします。
孫社長は単にAI後進国というだけではなく、
衰退産業にしがみついている
とも発言していて、日本と言う国が、もはや後進国になって来ている旨の発言に到っています。
その話の中で、具体的に触れているのが、労働生産性、世界競争力ランキング、平均賃金、相対的貧困率、教育に対する公的支出のGDP比、年金の所得代替率、障害者への公的支出のGDP比、失業に対する公的支出のGDP比などの国際的な順位ですが、これらを見ると確かに、惨憺たる思いが湧いてきます。
孫社長の発言の詳細については別なサイトに譲るとして、ここでは日本がどれ程衰退しているのかを数値で追います。
GDPとは
今回、私が数値で最も気になったのは、やはりGDPでした。
GDPとはGross Domestic Productの略で、国内総生産を意味します。
これは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額のことを指し、分かりやすく言えば、GDPの伸び率が経済成長率を意味します。
景気の指標として、以前はGNP(国民総生産)がよく用いられていましたが、国内の景気をより正確に反映する意味から、最近ではGDPがより重視されてきています。
その理由は、GNPの場合、国内に限らない日本企業の海外支店等の所得も含んでいますので、国内の景気を見る目的としてはふさわしくないからです。
GDPとGNPの違いについては、内閣府のサイトに「GDPとGNI(GNP)の違いについて」と題して説明がありますので参考にして下さい。
GDPの実際
さて、GDPが国内の景気を反映する指標であることが分かりましたが、気になるのは実際の数値がどうかです。
「日本のGDPって世界3位でしょ。そんなに悪くないんじゃない?!」
このように言う人も多くいるのではないでしょうか。
しかし、単なる順位の問題ではありません。具体的に色々な数値を見て行きましょう。
以下、GDPの数値を見るに当っては、総務省統計局のサイト(https://www.stat.go.jp/data/sekai/0116.html)の第三章のリンク先である、国際連合の資料(https://unstats.un.org/unsd/snaama/Index)からのGDPのデータをもとにしました。
現在の世界のGDP
まず、最も気になる現代のGDP世界ランキングです。上記のデータの最新版は2017年の数値でしたので、この時の世界のベスト10を見てみます。
縦軸は米ドル換算値、横軸は国です。
「ああ、日本は未だ世界第3位だ。悪くはないではないか」
そう思った人もいるかも知れません。
しかし、ここから他に何かを読み取れないでしょうか。
かつての日本はGDPは世界第2位で、中国に抜かれて3位となりました。
しかし、今では2位と3位とではこれだけ差が開いているのです。
中国のめまぐるしい経済成長があったとはいえ、果たして、2位と3位との差がここまで開いていたと認識していたでしょうか。
それともう1点。
かつてアメリカに次ぐGDPと言われていた日本ですが、アメリカとの差や比率がこのような数値だったでしょうか。
もっと差はなく、比率としてもこんな数値ではありませんでした。
要するに、世界第3位であっても、時間的な変化を見ると経済が衰退方向にあると言えます。
近年の変化
そこで、気になるのが近年のGDPの推移です。
GDPの伸び率が経済成長率を意味するわけですから、GDPがどのように変化したかが重要になるわけですから当然です。
では見てみましょう。縦軸はドル換算のGDPで横軸は西暦です。
パッと見て誰でも直ぐに分かると思いますが、バブルがはじけた直後から、日本のGDPはほぼ横ばいで、ほとんど変わっていないのです。
”GDPの伸び率=経済成長率”という考えをそのまま当てはめれば、日本はまさにここ30年弱、「経済成長をしていない」と言えます。
「でも、リーマンショックとか色々あって、世界経済そのものも成長していないのでは?」と感じる人もいるかと思います。
では、GDP1位、2位そして全世界のGDPの推移を見てみましょう。(盾横軸は前掲と同じ)
どうでしょうか。日本が横ばいを続けている間にも、新興国などの台頭で、世界のGDPは大きく伸びています。
米国も景気低迷があるなどと言われながらも、同期間で3倍くらいの成長を遂げています。
中国の成長などは目を見張るものがありますね。
要は、世界経済が確実に成長を遂げる中に、日本は長期に渡って低迷し続けているってことです。
他の先進国は
ここで、「他の先進国も後進国とは違って、日本のように成長が鈍っているのでは?」との疑問が湧くと思います。
先ほどの10国について近年のGDPの推移を見てみましょう。(縦横軸は前掲と同じ)
どうでしょうか。バブル直後の日本のGDPの変化がほぼ横ばいであるのに対して、英国、フランス、ドイツ、イタリアなどの先進国は緩やかながら着実に伸びているのが分かります。
変化の様子を明確にするため、上記のデータについて、1992年のGDPを基準(=1)とした場合のGDPの変化を見てみます。
日本が最下位であることがよく分かります。さすがに後進国である、中国、ブラジル、インドはずば抜けています。
そして、このグラフを線形近似式(一次関数)で表した時の傾きを求めてみましょう。
傾きこそが経済成長を表すでしょうから、傾きの数値の比較が一番よく分かります。
日本の傾きが著しく低いことがよく分かります。上記の近似式の傾きを実際の数値で表すと、下記のようになります。
日本 :0.0071
イタリア:0.0386
ドイツ :0.0381
フランス:0.0503
英国 :0.0660
米国 :0.0799
カナダ :0.1020
日本の傾きが圧倒的に低いことがよく分かります。
まとめ
以上、日本が後進国に転落と言われる所以を、GDPを切り口に見て来ました。
これらをまとめると、
・GDPの順位は世界第3位と言える
・GDPの変化を見たら絶望的な数値
・30年近くもGDPは伸びてなく後進国化と言われても無理ない
というところでしょう。
いつの間に日本はここまで衰退してしまったのか、悲しい思いが湧いてきます。
現在でも未だ成長産業は伸びていません。
加えて高齢化社会は加速し、少子化も歯止めが掛かりません。
何ら効果的な経済政策を行えないばかりか、まともな国家戦略も持てない今の政治屋にはあきれるばかりです。
若い世代の革命的な活躍を期待したいものです。
次回(第2回)は、GNI(GNP)についてその数値を追ってみます。