長野市に引っ越して来てから、こちらの暮らしにもだいぶ慣れて来ましたが、改めて自分の住む地域のことをもっと知りたいと考え、過疎化が進行しているのかどうかについて調べてみることにしました。
その結果、人口の流出する度合いは微小であることから、懸念するほどの問題はないものの、別な大きな問題があることが分かりました。
調べたキッカケ
今回、長野市の過疎化が進んでいるかどうかを調べようと思ったのにはキッカケがありました。
都会で生まれ育った私にとっては、長野に引っ越してからは不慣れなことが多く、未だに都市部との生活の違いを感じる日々を送っています。
長野には長野の良さがあって、空気がきれいで自然に恵まれているとか、近くに温泉が多くあるとか、農産物が豊かであるとか、ウィンタースポーツに励む環境に恵まれているなど、引っ越してくる前には無かったメリットがいくつもあります。
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それとは反対に、物価が高い傾向にあるとか、公共交通機関が使いにくいとか、商業施設や福祉施設が充実していないなど、引っ越す前に戻りたいと感じることもいくつもあります。
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これらメリット、デメリットを感じる中に、戸惑いを感じたり、不便を感じたりすることが多々あり、総じていえば「やはり、都市部の生活の方が便利でいい」と思えてならないのです。
そんな思いを抱きつつ、
「事情がなければ、あえてこの地に住もうと考える人は、どれほどいるものだろうか?」
「私が、不便や不自由を感じていることがあるということは、長期的には過疎化が進行するのではないか?」
などと考え、それが実際に調べてみることのキッカケになりました。
実際の統計データ
実際の人口の移り変わりのデータは、一般に市町村が公開しているものなので、長野市の公式サイトを調べてみました。
その結果、「年次別人口動態結果」として平成9年(西暦1997年)から平成29年(西暦2017年)までの数値が表にまとめられていて、自由に閲覧できるようになっていました。
そこで、この結果を改めて整理してまとめ直し、分かりやすいようにグラフで示してみました。(以下、長野市公式サイト「年次別人口動態結果」より)
人口増減
まず、長野市の人口の年ごとの数値です。
これをパッと見ると「なんだ!増えているじゃないか」などと思ってしまうかも知れませんが、そういう単純なものではありません。
確かに、平成16年(2004年) までは毎年わずかながら増加してきていましたし、平成16年から同17年にかけてと、平成21年から同22年にかけては大きく増加しています。
しかし、平成16年から17年にかけての増加は、信州新町と中条村が合併したことによる増加ですし、平成21年から22年にかけての増加は、豊野町と戸隠村、鬼無里村、大岡村が合併したことによる増加に過ぎません。
また、平成9年以降は増加傾向にありましたが、平成22年以降はむしろ少しずつではありますが、減りつつあります。
グラフをみて面白いのは、1回目の合併によって増加傾向が減少傾向に転じたことと、2回目の合併によって減少傾向に加速が付いたことです。
これは長野市の郊外の町村を取り込んで合併したことによって、人口が減少しやすくなったことを物語っているようで、都市機能の低い山間部などの郊外ほど減少していることの表れのようにも見えます。(後述しますが、実際はそうではありませんでした)
では、これら人口の変化が何によってもたらされているかですが、主な要因をあげると「社会増減」と「自然増減」の2つによります。
社会増減とは、長野市からの転出による減少と長野市への転入による増加のことを指し、人の移動によって生じる社会動態のことをいいます。
自然増減とは、死亡による減少と出生による増加のことを指し、人の移動を伴わない自然な動体のことをいいます。
社会増減
では、これら2つのうちまず、社会増減を見てみます。下記がそのグラフです。
これを見ると転入より転出が上回って社会増減としては減少している傾向は続いていますが、平成20年くらいより前は、年間数百人ほど減少していたのに対して、最近10年位は年間二百数十人ほどの減り方に変わって来ています。
このことから、社会増減は減少傾向にあるものの、その減少傾向には歯止めが掛かって来ています。
一般に過疎化というのは、単なる人口の増減よりも、転出によって減少することを指しますので、そういう意味では長野市は、過疎化の傾向は少しだけ見られるが、問題視するレベルではないといえるでしょう。
この数値をみて着目すべきは、2度の合併による社会増減の変化はほとんどないことです。
厳密には若干の影響はあるのでしょうが、少なくても数値にハッキリ現れるほどの影響はないといえます。
また、社会増減の数を見ていて面白い点がひとつあります。上記の数値には表れていませんが、平成9年には転入者が16362で転出者が16295でしたが、その20年後の平成29年には転入者が11116で転出者が11197となっていて、転入や転出する人数そのものが減少しているのです。
これを実際にグラフで見ると下記のようになります。
これを分かりやすく言えば、「引っ越す人が少なくなった」、もっと正確に言えば「住所変更を伴う引越しをする人が少なくなった」といえます。
その理由を推察したところ、引っ越しの多い世代である「労働人口」そのものが減少していること、長引く景気低迷の影響で、無用な引越しは控える傾向があること、の大きな2つの理由があると言えるのではないでしょうか。
自然増減
次に、人口変化の要因のうち、自然増減について見てみます。下記がそのグラフです。
これを見ると、何よりもまず、かなりのペースで人口が減少していることが分かります。
そしてその度合いを見ると、平成20年頃までは出生の方が死亡を上回っていたので自然増減としては、増加はしていたのですが、平成20年を過ぎた頃からは死亡数が出生数を上回るようになり、自然増減としては減少するように変わっています。
しかも、その減少する度合いは加速する方向で推移していて、これが直接、人口減少の要因になっていることが良く分かります。
この数値をみて着目すべきは、社会増減と同様に、2度の合併による自然増減の変化はほとんどないことです。
厳密には若干の影響はあるのでしょうが、少なくても数値にハッキリ現れるほどの影響はないといえます。
さて、ここで気になるのは実際の死亡数と出生数の推移なので、これらを別々にグラフで見てみましょう。
下記のグラフを見て分かるのは、出生数はじわじわと減少していて、死亡数はかなりのペースで増加していることです。(比較しやすいように、出生数と死亡数の縦軸の目盛りは同じにしてあります)
出生数が減少していることは、巷でも出生率の低下が問題にもなっている通りで、それが数値に反映されているのだと思います。
一方、死亡数の増加ですが、これだけ見ると「これは何だ!死亡率が高くなっているのか?」などと考えてしまうかも知れませんが、実際は、全人口のうち、死亡率の高い高齢者が占める割合が急速に高くなっていることによります。
これらの傾向を見ると、「出生率の低下」と「高齢化」という、現代における2つの社会問題が端的に現れていると言えるでしょう。
これらの問題に比べたら、過疎化などは問題視するレベルでは無く、「出生率の低下」と「高齢化」の2つの問題こそが対策を急ぐべき、本質的で深刻な問題と言えます。
しかも、これは長野市の問題というよりも、日本全体の問題の縮図が、長野市にも表れていると見るべきでしょう。
参考までに、社会増減と自然増減を含んだ、人口の増減の様子を見てみましょう。これは、下記のグラフのようになります。
ちなみに、社会増減と自然増減を足し合わせた増減数の差は、人口の変化数と厳密には一致していません。この理由は、社会増減と自然増減以外にも、帰化など他の増減要因があるからです。
上記のグラフから分かるのは、平成16、17年当たりを境にして、増加から減少に変化していることです。
そして、この数値を頭に入れて、改めて最初の人口増減のグラフに目を移すと、2回の市町村合併がなかったと考えた場合の人口の変化の仕方が、ちょうどこの増加から減少に変化している変化の仕方に反映されていることが分かります。
前述の人口増減のグラフに、2回の合併が無かった場合に想定される人口の変化として補正した推移を加えてみました。下記がそのグラフです。
青線が実際の人口の変化、オレンジ線が(合併が無かったと想定して)補正した場合の人口の推定です。
これから、人口の増減の傾向の変化は2度の合併には直接関係なく、人口が増加から減少に転じた平成16、17年頃をピークにして、人口数も増加から減少に転じているということです。
たまたま、増加から減少に転じたタイミングが1回目の合併の時期と重なっていたことと、減少の度合いがしばらく低かった時期に2回目の合併を迎えたことによって、あたかも合併が人口変化に大きく影響したように見えていただけでした。
まとめ
以上、長野市の近年の人口の変化を見ることで、過疎化が進んでいるかどうかを見てきました。これらをまとめると、下記のことが言えます。
・長野市は近年、僅かならが人口減少の傾向にあるが過疎化を問題視する程度ではない。
・人口減少の要因は、転入より転出が多いことよりも、出生より死亡が多いことによる
・人口減少には、出生率の低下と高齢化の日本社会の問題がそのまま表れている
自分が住んでいる長野市の状況を調べたところ、現代の日本社会が持つ大きな2つの問題が浮き彫りになる結果となりました。
普段あまり意識しないことも、実際に調べてみると気付かされることってあるものです。