中国では、簡体字と言われる簡略化された字体が使われれるようになりました。
特に、筆記が複雑な漢字については、従来の漢字から大幅に字体が改められましたので、日本の漢字と比べた場合、大きく違う漢字がたくさん存在します。
一方、筆記が複雑でない漢字については、従来の字体がそのまま使われる漢字も多いのですが、日本の漢字と比べた場合、ほんの少しだけ違う漢字がけっこうあります。
ここでは、中国の漢字と日本の漢字を比較して、ほんの少しだけ違う字体の漢字を挙げてみました。
どの点が違うか、比較してみてください。
中国語の学習の助けにもなりますし、クイズのように楽しむこともできますよ。
目次
<1.歩>
これは、「歩」(8画)という字ですね。
日本の漢字とどこが違うでしょう。
そうです、7画と8画が一緒になって、最後の画が步のように「ノ」になっています。
だから步(bù)は7画なのですね。
でも、「歩」を速記したら、自然と「步」の字体になってしまいますよね。
そしてちょっと不思議なのが、「少」という漢字は中国語でも「少」なのです。
統一されていないのですね。
さて、ここで新事実を教えましょう。
実は、「步」は日本の漢字にも存在していて、「歩」の旧字に相当します。
きちんとシフトJISのコードもあるんですよ。(シフトJIS…歩:95E0、步:EBC1)
<2.単>
これは、「単」(9画)という字です。
違いはどこでしょう。
「何かヘン」と感じるから、よく見ればすぐ分かりますね。
そうですね。上部の点の数が、3点ではなくて2点なのです。
でも実は、字源を考えた時、单(dān)の方が自然なのです。
単には、旧字の「單」があり、この語源はハタキを描いた象形文字ですが、このハタキは、両側に耳を持つ構造をしています。だから、「單」という字形なのです。(ハタキではなく、ウチワと言う説もあり)
従って、筆記を簡略化するならば、「単」よりも「单」の方が理にかなっているのですね。
ちなみに、単を用いた漢字に「弾」がありますが、これも中国語では「弹」(dàn)と書きます。
<3.別>
これは、「別」(7画)という字です。
日本語の漢字と比べてなんか違和感がありますよね。
そうです、「口」の下が「力」になっているんですね。
别(bié)は、左側が突き出ているのです。
でも、この字はどうやら日本語の漢字の方が自然な感じがします。
別は、もともと「冎」+「刀」で、関節を刀でバラバラにする様子を意味していました。(「冎」は「骨」の上部で、はまり込んだ上下の関節骨の意味)
従って、「冎」の形状に近い日本語の「別」の方が字源に近いと言えるのです。
<4.対>
これは、「対」(7画)という字です。
違和感ありありですね。
その通りです。初画の点がないのですね。
でも、それだけではありません。左側が、カタカナの「ヌ」のようになっていて二筆で筆記できる字体なのです。
中国語の对(duì)は、頷きや相槌(あいづち)を打つ時に頻繁に使う言葉ですから、しっかり字体の違いを覚えておきたいものです。
<5.圧>
これは、圧(5画)という字です。
えっ?こんな漢字だったっけ?
そう思ったハズです。
中国語の圧は、压(yā)のように点が付くのです。
実は、日本語の圧には壓という旧字があり、この漢字は繁体字として台湾などで使われています。
恐らく、壓の中の点が压の中の点として残ったのでしょう。
<6.変>
これは、変(9画)という字です。
似ているけど違う。よく比べてみると分かりますね。
字の下方が、カタカナのヌのようになっています。
日本語よりも簡単ですね。
変の字体に慣れた日本字から見れば、中国語の变(biàn)は変な感じもしますが、実は变の方が字源に基づいた字形をしています。
変には變という旧字が存在しますが、これは「絲+言」に更に「攴」が加わって生まれた漢字です。
つまり、変の旧字「變」の「夂」の部分は、もとは「攴」だったのです。
「攴」の字形を考えた時、変よりもむしろ变の方が自然と言えるでしょう。
<7.値>
これは、値(10画)という字です。
日本語の漢字とどこが違うでしょう。
パッと見ただけだと、同じじゃないかと思うかも知れませんが、よく見ると違いが分かりますね。
最終画の「L」のような字形が、目の下部とつながっています。
值(zhí)は、ニンベンに直ですが、值に限らず「直」の部分を持つ、植、置なども同様に目の下部とつながった字形となります。
もちろん「直」自体も同じで目の下部がつながっています。
つまり、值、直、置のようになっているのですね。
<8.辺>
これは、辺(5画)という字です。
似てはいるものの、よく見れば分かりますね。
日本語は、之繞(しんにょう)に「刀」ですが、中国語では「力」です。
わずかに、上部が突き出て边(biān)となっているのです。
見方によっては違った字に見えるかも知れません。
辺の旧字は邊で、中には「方」の字形を持ちますが、この「方」から、「刀」や「力」に変化したと考えればどちらの漢字も自然な感じがします。
<9.宮>
これは、宮(10画)という字です。
なんか変な字形ですね。
口と口が離れていて、これらをつなげる「ノ」のような筆記がありません。
宫(gōng)は、このように一筆(一画)少ないだけなのですが、見た目はけっこう印象的です。
宮は、宮殿などを表す漢字ですが、語源は屋根を表す「宀」に「口」が2つです。
ここで「口」は、「くち」を意味するのではなく、「建物のスペース」を表し、宮の字源としては、いく棟(むね)もの建物があることを示しています。
そういう意味からすれば、口と口の間に「ノ」があっても無くても、どちらでも字源の意味からは外れていませんね。
<10.帯>
これは、帯(10画)という字です。
パッと見ただけだと、日本語の漢字と同じようにも見えちゃいますね。
でも、中国語では、上部の横棒がないのです。
日本語の帯は、上部が「丗」のような字体ですが、中国語の带(dài)は、上部が「卅」のようになっているのですね。
帯には旧字の「帶」という字がありますが、上部の字体は、「ひもで物を通した姿」を表しています。
「丗」であれ、「卅」であれ、「帶」の上部であれ、いずれもこの姿を表していることには変わりないと言えます。
<11.巻>
これは、巻(9画)という字です。
なんか違いますね。
そうです、下部が「己」ではなく、違った字形をしています。
微妙に似ているけど違うんですね。
実は、日本でも巻には旧字体「卷」(8画)があって、中国語の卷(juàn)と同じ字体なのです。
日本でももとは卷という字体でしたが、常用漢字を定める時に巻のように「己」に書き換えたのです。
巻の下部は「体を丸めている姿」を表しますので、巻よりも旧字や中国語の漢字である卷の方が字源に近い字体と言えます。
<12.浄>
これは、浄(9画)という字です。
どこが違うの?
そう思ってしまうかも知れません。
正解は、日本語が「氵」(さんずい)であるのに対して、中国語では净(jìng)のように「冫」(にすい)になっている点が異なります。
一般に”さんずい”は水に関する漢字、”にすい”は氷(こおり)に関する漢字なので、水が凍っているかいないかというわずかの差と言えます。
実際、浄には淨という旧字の他、凈という異体字も存在します。「爭=争」と解釈できますので、浄も净(jìng)も異体字のような関係と言えます。
以上、ここまで12個の漢字を挙げて来ましたが、それほど難しくなかったかも知れません。
でも、ここからは少し違います。
これ以降に挙げる漢字は、書体によっては日本語も中国語も同じ字体で表記されることがある漢字です。
つまり、それだけ区別しにくくなっているとも言えるのです。
では、見て行きましょう。
<13.包>
これは、包(5画)という字です。
何かへん。そう思うハズです。
包むの部首は、「勹」部ですが、この中が違います。
日本語では、「勹」部の中は「己」ですが、中国語では「巳」になっています。
あまり馴染みのない日本の漢字「跑」でも、「勹」部の中は「巳」になっています。
また、日本語の「砲」に相当する中国語の「炮」でも、「勹」部の中は「巳」になっています。
包むの中の「巳」は、母体に宿った胎児を意味していますが、字源としては「巳」の方が相応しいようです。
<14.港>
これは、港(12画)という字です。
ちょっと見ると、日本語の漢字と同じだと思ってしまいます。
でも、なんか違いますね。
そうです。上記の包むと同じで、下部が「己」ではなく「巳」になっています。
実は、港は”さんずい”が加わってできている漢字ですが、さんずいを除く部分の字体はあくまで「巷」です。
この「巷」は日本語でも中国語でも同じ漢字が使われ、下部はあくまで「己」ではなく「巳」になっています。
そういう意味では、中国語の漢字の方が、字源に近いと言えます。
<15.角>
これは、角(画)という字です。
よく見て下さい。日本語と同じではありませんよ。
そうです。真ん中の縦棒が下に突き出ています。
日本語でも、筆が乱れていると中国語のようになるかも知れませんね。
下に突き出ているかどうかのわずかの差ですから。
角は、△の形状をした角(つの)から生まれた象形文字です。
従って、下に突き出ているかどうかは大した差ではないと言えますね。
ちなみに、角を持つ漢字に「解」という字がありますが、中国語では、この字も「解」のように下が突き出た字体をしています。
<16.画>
これは、画(8画)という字です。
日本の漢字とそっくりですね。
でも、中央の縦棒が上に突き出ず、田のような字形が中央に独立して存在している点が違います。
画には、旧字である「畫」という字がありますが、これは筆を手に持った様子を表した「聿」と、田んぼのまわりを線で区切った様子を表す「田」から成り立っています。
つまり、「聿」+「田」によって、ある面積を区切って筆で区画を記すことを表していましたが、常用漢字の字体では、「聿」が略されて「画」となりました。
中国にも簡体字になる前までは「畫」という字がありましたから、字体が変化する過程で日本語と中国語の漢字の字体に差が生まれたと言えます。
<17.骨>
これは、骨(10画)という字です。
何かヘン。そう思わないでしょうか。
そうです。上部の構造が、左右で逆なんです。
日本人にとっては、とても違和感ありますね。
骨の上部「冎」は、はまり込んだ上下の関節骨の意味で、これに肉を表す「月」が加わって「骨」となりました。
従って、中国でも「骨」が使われてきましたが、現代では上記のように左右逆になりました。
恐らく、筆記のしやすさからこのようになったのでしょう。
ちなみに、「骨」部を持つ、滑なども「滑」のようにみんな左右が逆になっています。
<18.低>
これは、低(7画)という字です。
日本語と同じ感じがしますが、微妙に違いますね。
最終画が、日本語では「-」(横棒)のようになっているのに対して、中国語では「、」(点)になっています。
微妙な差ですから、字が違うというよりも、フォントが違うというところでしょうか。
ちなみに、低のニンベンを除いた字に、「底」がありますが、これも「底」のように中国語では最終画が「、」(点)になります。
<19.灰>
これは、灰(6画)という字です。
似ているというよりも、全然違う字という方が相応しいかも知れません。
日本語では「厂」(まだれ)の中に「火」ですが、中国語では「ナ」の中に「火」です。
字形がけっこう違いますが、同じ字を表します。
<20.与>
これは、与(3画)という字です。
これは、違いがよく分かりますね。
中国語では、最終(横棒)画が右に突き出ていません。
「与」は、ひらがなの「よ」のもとになった漢字ですから、日本の漢字「与」のほうが「よ」に似ている感じがします。
しかし、中国から伝来したばかりの漢字は、最終画が右に突き出ていない上記の字体で、その草書体からひらがな「よ」が生まれたと言われています。(カタカナも同様)
日本の漢字を基準に見れば、横棒が右に突き出ていないのには違和感を覚えますが、本来は突き出ていなかったのです。
以上、日本語の漢字に似ているけど少し違う漢字を20個選んでみました。
如何でしたか。
他にもここに挙げられなかった漢字がたくさんあります。
また、両国の漢字は、筆記が微妙に異なるものを含めると多数あります。
せっかくなので、いくつか挙げてみましょう。
左が日本の漢字、右が中国の漢字です。
着→着
差→差
化→化
象→象
拐→拐
免→免
天→天
印→印
以→以
今→今
所→所
本当に微妙な違いですね。
これらはいずれも、同じ文字コードが使われることが多く、フォントを指定しないと通常は同じ字形になってしまいます。
漢字の字体・字形って本当に興味深いものですね。
ちなみに、似ていて違う漢字だと思ってしまうものの、実は全く違う字だというものもあります。
例えば、么や书、业などで、それぞれ公、弔、並なのでは、と思うかも知れません。(下記)
么=公?
书=弔?
业=並?
しかし、么と公は違う漢字で、繁体字「麽」の簡体字が么です。日本では、「麽」も「么」も使われていません。
また、书は弔に似ていますが、違う字です。书は書の簡体字で、とても頻繁に使われる漢字です。
更に、业は並に似ていますが、全然違う字です。业は業の簡体字なのです。
とても紛らわしいですね。