中国語の方向補語には色々あり、きちんと理解するのは意外に難しいものです。
本サイトでは、方向補語1つ1つを完璧にマスターできるように、細かく解説して行きます。
今回は、単純方向補語「回」について取り上げます。
目次
方向補語「回」の概要
方向補語「回」は単純方向補語の1つで、動詞の後について、人あるいは事物が動作に伴ってある場所からもとの場所に戻ることを表します。
そもそも「回」には、帰る、戻る、返るなどの意味を持つ動詞としての働きがあります。
例えば、
と言えば「回」は、自分の国に「戻った」ことを表します。
しかし、これはあくまで動詞としての「回」で、方向補語ではありません。
「回」を動詞の後ろに置いて、
のように表現すれば、「回」は動詞「送」を補って元の場所へ向かう動作を表し、方向補語の働きとなります。
このように、方向補語「回」は、何らかの動詞の後について、ある場所からもとの場所に戻ることを表します。
方向補語「回」の意味
方向補語「回」は、空間的にもとの場所に戻る動作(移動)を意味します。
従って、日本語に訳した場合、「~へ戻る(戻る)」或いは「~に帰る」、「~へ返す(返る)」などのように表現されます。
方向補語「回」が持つ意味を示すと、下図のようなイメージです。
では、具体的な例文をあげてみます。
この例では、もともとは彼のものであったお金が、彼のところへ戻ってきたことを意味しますので、対象(お金)が元の場所に戻ったことが分かります。
もう1つ例を見てみましょう。
この例では、もともと車が停めてあった駐車場に戻って行ったことを意味しますので、対象(自動車)が元の場所に戻ったことが分かります。
上記の2例では、「回」が動作対象の動きを表していますが、「回」は動作の主体(主語)を表現することもできます。
そして、元の場所に戻るという本来の意味(方向義と呼称)から派生して生まれた、別な意味(派生義と呼称)もあります。
派生義の場合、意味としては結果補語と同じになりますが、これについては後述します。
基本的な語順や用法
動詞の後、目的語の前に置く
方向補語「回」を用いる基本文型は下記の通りです。
方向補語「回」は、動詞のすぐ後、目的語の前に置きます。
例えば、
を見ると、
她【领】【回】了【丢失的东西】
のように、【動詞】(领)、【方向補語】(回)、【目的語】(丢失的东西)の語順となっていることが分かります。
目的語が方向補語「回」の前に来ることはありません。
但し、把構文となる場合は、目的語は方向補語「回」よりも前にきて、動詞の前に置くようになります。
例をあげてみます。
この例では語順が
のようになりますが、これは一般的な把構文と同じです。
そして、単純方向補語「回」を使う場合、目的語を持つのが自然です。
例えば、前述の
とは言えますが、単に
と言えば、聞き手は「何を?」となって意味がよく分かりません。
目的語を伴わないと、とても不自然になり、文としては不完全です。
目的語を持たない場合は、複合方向補語を使って表現するのが普通です。
そして、「回」の後に来る目的語は、上記の「丢失的东西」のように動作の”対象物”を表す場合の他に、元に戻る”場所”を表す場合もあります。
例えば、
と言えば、目的語は場所を表します。
否定には没を使う
方向補語は本来、結果を表すものなので、「回」を用いた文の否定には、「没」(又は「没有」)を使用します。
基本の構文は下記の通りです。
否定を表す「没[有]」は、動詞の前におきます。
例をあげます。
例文のように、動詞「送」の動作を否定するために、「没[有]」を動詞の前に置きます。
ちなみに、否定の「不」を方向補語「回」の直前(動詞の後)において「…不回…」のような表現にすると可能補語(否定形)になります。
同じく、「…得回…」のようにしても可能補語(肯定形)になります。
例えば、
のような表現ができます。
方向補語「回」の発音
一般に、方向補語を持つ構文では、方向補語は軽声になることがあります。(注:記事中の一般の例文は全て、便宜上、ピンインを第2声で記載)
「回」もほぼ同様で、本来の発音は第2声(huí)ですが、一部を除いて軽声(hui)で発音してもよく、実際、軽声の方が自然な場合が多くあります。
第2声と軽声のどちらも発音されますが、そこには傾向がありますので、これについて説明します。
方向補語「回」の後に目的語が置かれても置かれなくても、「回」は通常、軽声で発音するのが自然です。
但し、「回」が具体的な方向を表す時は、第2声で発音します。
また、「没」を含む
没 +【動詞】+ 回
のような否定構文の場合、第2声(huí)で発音するのが一般的です。
例えば、前述の
のような場合の「回」は、第2声で発音する方が自然で、特に強調したい場合は、必ず第2声にします。
但し、たとえ否定文でも、事柄を客観的に述べる場合には「回」は軽声にすべきです。
方向補語「回」を含む文の強調
一般に、言葉を話す時には、語の強調(アクセント)があります。
当然、方向補語を含む言葉にも強調があり、これには規則性があります。
「動詞」+「方向補語」の構文
まず、「動詞」+「方向補語」の構文です。
この構文において、「方向補語」の後に目的語が来ない場合は、動詞にアクセント(強調)が置かれます。
方向補語「回」は、ふつうは目的語を伴いますので、これに該当するのは、通常、「把構文」の場合です。
例えば、前掲の
の場合、動詞である「送」にアクセントが置かれ、方向補語「回」は軽声です。
「動詞」+「方向補語」+「目的語」の構文
次に、「動詞」+「方向補語」+「目的語」の構文についてです。
この構文の場合、「目的語」によってアクセントの対象が変わります。
「目的語」が一般の名詞の場合、アクセントは目的語(名詞)に置かれます。
例えば、
と言えば、目的語である发出的文件にアクセントが置かれます。
但し「目的語」が代名詞の場合は、アクセントは動詞に置かれるのが普通です。
また、「目的語」が数量詞の場合、几などの不定の数量詞なら動詞にアクセントが置かれ、二、三、四など定数の数量詞なら数詞にアクセントが置かれます。
回来・回去との違いは
「回」はそれ自体が方向補語(単純方向補語)ですが、「回」を含む「回来」や「回去」も方向補語(複合方向補語)です。
「回」は元の場所に戻る動作を表しますが、回来の場合は、基準点(通常は話者)を持つ点に違いがあります。
つまり、回来は、元の場所へ向かいながら基準点(通常は元の場所にいる話者)に近づくことを意味します。
図示すると下記のようなイメージになります。
一方、回去は、元の場所へ向かいながら基準点から遠ざかることを意味します。
図示すると下記のようなイメージになります。
単純方向補語「回」は、基準点を持たないため、元の場所へ戻る動作の意味しかなく、近づくや遠ざかるといった概念を持ちません。
しかし、「回来」や「回去」には基準点(通常は話者)という概念があり、その点で「回」と異なります。
ちなみに、「回来」や「回去」は複合方向補語であるため、単純方向補語「回」とは用法や語順、発音などが違うので注意しましょう。
複合方向補語「回来」や「回去」についての詳細はここでは省略し、別な記事で説明することにします。
方向補語「回」の派生義
方向補語「回」は、空間的に元の場所に向かう動作を意味する場合、方向義と呼びます。
これに対して、元の意味から派生して生まれて広まった別の意味を派生義と呼びます。
「回」にも、元に戻る意味から転じた「悪い状態から良い状態へかわる」意味の派生義があり、色々な表現で使います。
例をあげます。
他从河里捞回了衣服(tā cóng hé lǐ lāo huíle yīfú.)…彼は川から服を回収した
他挽回了面子(tā wǎnhuíle miànzi)…彼はメンツを取り戻した
いずれも、元は悪い状態であったのが、良い状態に変化したことを意味しています。
方向補語「回」には、状態が良い方向になる意味もあるのです。