「実用文の書き方」について、4回目の掲載となります。
今回は、「文書構造の基本を押さえ全体のリズムを整える」をテーマに取り上げます。
実用文では、文全体の構造や文のリズムがとても重要です。
あらゆる実用文における基本ですから、しっかりマスターしたいノウハウです。
目次
タイトルと内容をきちんと一致させる
まず、何よりも文書のタイトル(表題・題名)と、その内容(コンテンツ)をきちんと一致させることが大切です。
読み手は、タイトルを一読することで、その文書に何が書かれているかを把握します。
もし、内容がタイトルとズレていると、単に違和感を覚えるだけでなく、分かりにくく読みづらい文書になってしまいます。
タイトルと内容を一致させることは当たり前のことなのですが、意外と徹底できていないものです。
仕事上の文書の場合、大抵は様式が用意されていますから、適切な様式を用いれば大きな問題はありません。
しかし、様式のない文書を扱うことは多く、最適なタイトルを付けることが、より重要となります。
さてここで、一般的にどんな書類があるか、例を挙げてみましょう。
会議録、報告書、提案書、議事録、論文、通知書、始末書、誓約書、業務連絡、マニュアル、各種伝票、通達文、申請書、承諾書、手順書、記録書、覚書、納品書、連絡文、依頼書、手配書、指示書、説明書、仕様書、案内書、カタログ、証明書、成績書、確認書、判定書、計画書、計算書、要領書、請求書、届出書、発注書、回答書、調査書、記録書、案内書、任命書、方針書、契約書…
数えればキリがないほど、色々な書類があることが分かります。
実際の文書では、
タイトルが〇〇報告書であれば、内容は〇〇に関する報告
タイトルが△△提案書であれば、内容は△△についての提案
タイトルが□□依頼書であれば、内容は□□に対する依頼
のようになっていなければなりません。
要は、コンテンツに最も適した名称を付けることが重要です。
できているようで、意外とできていないのです。
そして、このことは、サブタイトルとその内容についても同様です。
これがしっかりしていると、読み手はタイトルやサブタイトルを流し読みしただけで、書類の概要が直ぐに把握できます。
当たり前のことですが、分かりやすい文書にするための基本の基本ですから徹底したいものです。
結論を先に述べる
次に、実用文では、結論を先に述べることが原則です。
小説の場合、結論を先に書いてしまうと、ストーリーの結末が分かってしまうため面白みがありません。
しかし、実用文の場合、読み手は内容を早く知りたいため、最初に結論を述べるべきなのです。
結論が最初にないと、読み手は何が言いたいのかが分かりにくく、イライラしてしまいます。
例えば、手順書なら「〇〇の操作手順について記述しています」などを冒頭に記します。
実用文は、何らかの目的があって書かれ、そこには必ず趣旨があります。
冒頭に結論があれば、読み手は文書の目的がハッキリ分かり、趣旨を明確に理解できます。
上記の場合、「〇〇の操作手順について記述しています」の部分を読むだけで、操作手順を理解する目的で書かれた文書であることが直ぐに分かります。
読み手は、「このまま読み進めれば、〇〇を操作する手順が分かるのだ」と端的に知ることができるのです。
結論が冒頭に記述されて無いと、読み手は「実際にどんなことが書かれているのだろう?」と余計なことを考えながら読まなくてはいけません。
つまり、その分だけ読みにくくなるのです。
実用文では、結論を先に述べることを原則としましょう。
総論から各論へ展開する
さて次は、文書の基本的な構成についてです。
実用文では、まず総論を述べ、それから各論を書くようにします。
総論とは文書の内容を全体的に述べた文章、各論とは全体を項目などに分割して個々に述べた文章です。
例えば、説明書の場合、まず何について説明しているのかの概略を述べます。
その後、具体的な個々の説明内容について順番に詳しく記載して行きます。これが各論です。
例文を挙げましょう。
この説明書では、〇〇の使い方に関して、装置の構造、搭載している機能、操作方法に分けて説明します。
装置の構造は…
搭載している機能は…
操作方法は…
上記の例では、まず総論として、「〇〇の使い方に関して3つに分けて説明している」ことを述べ、その後、各論として、そらら3つについて詳細を説明する構造になっています。
読み手は、文書の全体像が直ぐに分かり、読み進める時に理解しやすくなります。
この、「まず総論、その後に各論」という文の展開方法は、文書全体に言えることですから、章や節、項において全て同様です。
例えば、ある章において冒頭で総論として記述されている概要を述べ、以降、各論としてその具体的な内容について触れて行きます。
この時、文書全体のイメージは下記の通りです。
文書全体の総論
第1章 文書全体の各論1
第1章の総論
第1章の各論1
第1章の各論2
第1章の各論3
第2章 文書全体の各論2
第2章の総論
第2章の各論1
第2章の各論2
第2章の各論3
第3章 文書全体の各論3
第3章の総論
第3章の各論1
第3章の各論2
第3章の各論3
このように、実用文では、まず総論を述べ、それから各論を書く形式を基本としましょう。
そして、各論の順番に制約がなければ、必ず重要な項目から順番に書くことも大切です。
なお、上の例は基本形を説明するために示した構造で、実際の説明書では目次がこれに代わる役割を果たしていることが少なくありません。
あくまで、実用文における基本構造と心得て下さい。
リズム・調子のよい文書にまとめる
さて、実用文では、文書をリズミカルに書き、調子のよい書類に仕上げることが大切です。
以下、リズムの良い、調子のよい文書を書くための要点を挙げて説明します。
「です・ます」調か「だ・である」調かで統一する
文章のリズムを大別すると、「です・ます」調と「だ・である」調との2つに分けられます。
2つのリズムの例をあげると、
今日はいい天気です…「です・ます」調
今日はいい天気だ…「だ・である」調
どちらのリズムで記述すべきかは、文書の種類や読み手、状況などによって異なりますので、これは都度の判断となります。
しかし、いずれのリズムで書くにしても、「です・ます」調か「だ・である」調のどちらかひとつに統一することが大切です。
ひとつの文書に、「です・ます」調と「だ・である」調が混在していると、リズムがとても悪く、実用文としては失格と言えます。
必ず、同じ文書内では、ひとつのリズムに統一して書きましょう。
文書内でも部分部分でリズムを整える
そして、文書全体に限らず、部分部分でもリズムを合わせることが大切です。
下記の例を見て下さい。
<〇〇モードの操作手順>
(1)電源スイッチを長押し(約2秒)して下さい。
(2)モードスイッチを押し、〇〇モードを選択します。
(3)スタートボタンを押して下さい。
パッと見ると、別に問題ないように思うかも知れません。
しかし、上記の(1)(3)は「~下さい。」となっているのに対して、(2)は「~します。」となっていて、リズムが合っていません。
上記の(2)は、
(2)モードスイッチを押し、〇〇モードを選択して下さい。
のように書くべきなのです。
細かすぎると思う人もいるかも知れませんが、文書全体をリズミカルに記述することの重要さを示す例だと考えて下さい。
リズムのよい文書は、とても読みやすくなることをしっかり認識して欲しいと思います。
1つの文は適度な長さにする
ところで、1つの文が非常に長くて読みにくいと感じた経験はないでしょうか。
また、短い文が多数並んだ書類を読みにくく感じた経験もあることでしょう。
文書を読みやすくするために、必ず1つの文は適度な長さにしましょう。
文は短くても読みづらく、長くても読みづらくなるのです。
適度な長さの目安としては、単語として数えるなら40~50語です。
単語とは、意味を持った最小の言語単位で、例えば「犬が吠える」の場合、「犬」「が」「吠える」の3つの単語を含んでいます。
書類によっても適度な長さには違いがありますので、単語として40~50語はあくまで標準的な長さと心得ましょう。
1つの文の文字数の目安としては、日本語の場合なら60字までで、これより長い場合は短くなるようにした方がいいですね。
要は、短くも長くもなく、読み手が読みやすい長さにすることが何より大切です。
基本は能動態とし、受動態は多用しない
実用文では、受動態はなるべく避け、能動態での表現を心がけたいものです。
受身(受動態)は、動作や作用を受ける対象を主語にする文章の形式ですから、本来、その対象を強調したい場合などに使います。
しかし、近年では英語学習の影響もあって、受動態(受身)表現が好んで使われるようになり、必要以上な乱用が目立ちます。
例をあげましょう。
会議を延期した。
会議は延期された。
上記で、前者は能動態、後者は受動態です。
どちらも文としては間違っていませんので、能動態でも受動態でも、基本的に問題はありません。
従って、文章の全体の流れを判断して、より相応しい表現にするのが望ましいでしょう。
しかし、どちらの表現でも意味に大差がないことから、不用意に受動態を多用するケースがあります。
多用すると、文書としての響きが悪く、実用文には相応しくありません。
上記の例で、受動態(会議は延長された。)を使いたくなるのは、延期を決めた人が重要でなく、会議の延期が重要な場合です。
たとえ、会議を主語にしたくても、
会議は延期となった。
のような表現にして、可能な限り受身は避けるように工夫しましょう。
各段落には1つの話題、各文には1つの概念を心がける
文書は、複数の文から成り立ちますが、その文があるまとまりを持つことで、節や段落を構成します。
つまり、文が集まって節・段落を構成し、その節・段落が集まって1つの文書が成り立ちます。
逆に言えば、文書は分解すればまとまりのある節・段落になり、それを更に分解すれば文になります。
そして、文書を作成する時に、1つの節・段落(パラグラフ)には1つの話題(トピック)を盛り込み、1つの文(センテンス)には1つの概念(アイディア)を盛り込むように記述することが大切です。(下記)
1つの節・段落(パラグラフ)…1つの話題(トピック)
1つの文(センテンス)…1つの概念(アイディア)
この一対一の対応を考えながら記述すると、無駄な表現や不要な言い回しを回避でき、メリハリが付いた分かりやすい文書になります。
実用文を書く時には、1つの文には1つの概念、1つの段落には1つの話題を心がけましょう。