中国語の方向補語には色々あり、きちんと理解するのは意外と難しいものです。
本サイトでは、方向補語1つ1つを完璧にマスターできるように、細かく解説して行きます。
今回は、単純方向補語「出」について取り上げます。
目次
方向補語「出」の概要
方向補語「出」は単純方向補語の1つで、動詞の後について、人や事物が中(内)から外へ向かう動作を表します。
漢字の「出」には、本来「出る」などを意味する動詞の用法があり、単独で使われることがあります。
例えば、
と言えば「出」は、あくまで「出た」ことを表す動詞で、方向補語ではありません。
方向補語の用法では、「出」とは別な動詞と結びついて述語部を形成します。
と表現すれば、「出」は動詞「开」を補って「上海から外へ向かって」のような意味を表し、方向補語となります。
このように、方向補語「出」は、何らかの動詞の後について、外方向への動作を表します。
方向補語「出」の意味
方向補語「出」は、空間的に外方向、つまり内側や中から出て行く方向への動作(移動)を意味します。
従って、日本語に訳した場合、「外へ向かって」のように表現されます。
方向補語「出」が持つイメージを示すと、下図の通りです。
では、具体的な例文をあげてみます。
この例では、辞書が本棚から外に向かって移動した動作が表されています。
別な例を見てみます。
この例では、主体(主語=列車)が大連から出ていく動作を示しています。
いずれの例でも、空間的に外に向かう移動・動作であることが分かります。
そして、方向補語「出」は、対象が動作(移動)する場合(1つ目の例)にも、動作の主体(主語)が移動する場合(2つ目の例)にも、どちらにも用いることができます。
更に、方向補語「出」には、本来、外方向の意味(方向義と呼称)を持つ一方で、そこから派生して広まった、別な意味(派生義と呼称)も色々あります。
派生義の場合、意味としては結果補語と同じになりますが、これについては後で詳しく説明します。
基本的な語順や用法
動詞の後、目的語の前に置く
方向補語「出」を用いる基本文型は下記の通りです。
方向補語「出」は、動詞の後、目的語の前に置きます。
例えば、
では、
他从冰箱里【拿】【出】【一瓶葡萄酒】
のように、【動詞】(拿)、【方向補語】(出)、【目的語】(一瓶葡萄酒)の語順となっていることが分かります。
この語順は、目的語が事物を表す場合も場所を表す場合も変わらず、目的語が方向補語「出」の前に来ることはありません。
把構文の場合は、目的語を方向補語「出」の前、且つ動詞の前に置くことができます。
この例では、「客人」と「大门」の2つの目的語を持っていて、
【把】+【目的語1】+【動詞】+【出(方向補語)】+【目的語2】
のようになっていますが、目的語が1つでも2つでも、語順や用法は一般的な把構文と同じです。
そして、単純方向補語「出」を使う場合、通常、必ず目的語を持ちます。
例えば、
と表現できますが、単に
と言えば、文として不完全です。
この表現だと聞き手は「どこから出て行ったの?」となってよく分かりません。目的語を伴わないと、文としては不自然なのです。
ちなみに、
のように、強調や対比などのために目的語を前置するような構文もあります。
否定には没を使う
方向補語は本来、結果を表わしますので、方向補語「出」を用いた文の否定には、「没」(又は「没有」)を使用します。
否定の場合の基本構文は下記の通りです。
上記のように、否定を表す「没[有]」は、動詞の前におきます。
例えば、前述の例文を否定形にする場合、
のように、「没」は動詞の前に置きます。
ここで、「否定の〘不』は使えないのか?」と疑問が湧くと思います。
試しに、上の例文に当てはめてみます。
この文の場合、「部屋の外へは出ない」との意味で、部屋の外ではない場所へ出て行くという肯定のニュアンスも含んでいます。
従って、肯定文である「走出房间」を単純に否定する場合、「不」ではなく「没」が相応しいのです。
ちなみに、否定の「不」を方向補語「出」の直前(動詞の後)において「…运不出…」(運び出せない)のような表現にすると、これは「…运得出…」(運び出せる)と同様、可能補語になります。
この場合、文の構造はもちろん、用法や意味も異なってきます。
方向補語「出」の発音
一般に、方向補語を持つ構文では、方向補語は軽声になることが多くあります。(注:記事中の例文では、便宜上ピンインは第1声で記載)
「出」も同様で、本来の発音は第1声(chū)ですが、ふつうは軽声(chu)で発音します。
但し、「出」が具体的な方向や動作を示す場合は、第1声で発音します。
また、「没」を含む
【没】+【動詞】+【出(方向補語)】
のような否定構文の場合、第1声(chū)で発音するのが一般的です。
特に、実現しなかったことを強調したい場合は、必ず第1声にします。
しかし、たとえ否定でも、事柄を客観的に述べる場合には、「出」は軽声にするのが自然です。
また、動詞と方向補語「出」の間に助詞の“得”や“不”が入る場合(可能補語となる)、つまり動詞の直ぐ後に「出」が来ない場合は、第1声で発音します。
例えば、
の「出」は第1声です。
なお、一般に方向補語「出」が文末に来る場合は、第1声になります。
方向補語「出」を含む文の強調
一般に、言葉を話す時には、語の強調(アクセント)があります。
方向補語を含む文にも強調がありますが、これには規則性があり、「出」についても同様のことが言えます。
「動詞」+「方向補語」の構文
まず、「動詞」+「方向補語」の構文です。
この構文において、「方向補語」の後に目的語が来ない場合は、動詞にアクセント(強調)が置かれます。
方向補語「出」は、ふつうは目的語を伴いますので、「把構文」がこれに該当します。
例えば、
の場合、動詞である「送」にアクセントが置かれます。
方向補語「出」は軽声です。
「動詞」+「方向補語」+「目的語」の構文
次に、「動詞」+「方向補語」+「目的語」の構文についてです。
この構文の場合、「目的語」によってアクセントの対象が変わります。
「目的語」が一般の名詞の場合、アクセントは目的語(名詞)に置かれます。
例えば、前述の
の場合、目的語である房间にアクセントが置かれます。
但し「目的語」が代名詞なら、アクセントは動詞に置かれるのが普通です。
また、「目的語」が数量詞の場合、几などの不定の数量詞なら動詞にアクセントが置かれ、二、三、四など定数の数量詞なら数詞にアクセントが置かれます。
出来・出去との違いは
「出」はそれ自体が方向補語(単純方向補語)ですが、「出」を含む「出来」や「出去」も方向補語(複合方向補語)です。
これらは、外方向への動作を表す点では同じですが、基準点(通常は話者)を持つところが異なります。
出来は、外方向に動作しながら基準点に近づくことを意味します。
いわゆる「中から外へ出て来る」ことを意味します。
図示すると下記のようなイメージです。(星印は基準点)
一方、出去は、外方向に動作しながら基準点から遠ざかることを意味します。
いわゆる「中から外へ出て行く」ことを意味します。
図示すると下記のようなイメージです。(星印は基準点)
つまり、単純方向補語「出」は、基準点を持たないため、「中から外へ」の動作の意味しかなく、近づく(来る)や、遠ざかる(行く)といった概念を持ちません。
「出来」や「出去」には、基準点という概念があり、その点で「出」と異なります。
「出来」や「出去」は複合方向補語であるため、単純方向補語「出」とは用法や語順、発音などが少し違います。
また、「出来」には、「出」と同様、派生義が多くあるため実際の違いは複雑です。
ただ、実用的な表現としては、単純方向補語「出」よりも複合方向補語の「出来」や「出去」を使うことの方が多いのが現実です。
実際、この記事で挙げている例文についても、方向補語「出」を説明するために挙げたため、実用上は「出来」や「出去」を使った方が自然な表現になる場合があります。
なお、複合方向補語「出来」「出去」についての詳細はここでは省略し、別な記事で説明することにします。
いろいろある派生義
方向補語「出」は、空間的に外方向への動作を意味する場合、方向義と呼称します。
これに対して、派生して生まれた別の意味もあり、これを派生義と呼称します。
派生義は、元の意味から派生して広がり、形容詞の後につく場合もあります。
方向補語「出」にも様々な派生義があり、大別すると下記の4つです。
(1)事物の発見や識別の意
(2)新しく成果が生まれる意
(3)感情や思案を外面に表す意
(4)何らかの基準を超過する意
いずれも、通常、「出」の代わりに複合方向補語「出来」を使うことができます。
以下、(1)~(4)について例文を挙げて説明します。
(1)事物の発見や識別の意
この派生義は、事物が隠れた状態から明白な状態になり、発見、識別、判明することを意味します。
例文をあげます。
她想出了一个有效的办法(tā xiǎng chūle yīgè yǒuxiào de bànfǎ)…彼女は効果的な方法を考え出した
我找出了和事故的关联性(wǒ zhǎo chūle hé shìgù de guānlián xìng)…私は事故との関連性を探り出した
一例目は「考えを読みとり」、二例目は「方法を考え出し」、三例目は「関連性を探りだし」ています。
いずれの例も、見えなかったものが明らかになり、識別、発見、判明するに至るような意味になっています。
(2)新しく成果が生まれる意
この派生義は、新しく事物が出現して生成、成就、実現、完成などの成果が生み出されることを意味します。
例をあげます。
她花了三个小时想出了答案(tā huāle sān gè xiǎoshí xiǎng chūle dá’àn)…彼女は3時間かけて解答をひねり出した
他推出了新产品(tā tuīchūle xīn chǎnpǐn)…彼は新製品を作り出した
一例目は貢献を、二例目は解答を、三例目は新製品を結果として生み出しています。
生成、成就、実現、完成など、生み出す対象に違いはありますが、何らかの新たな成果が生まれているのが分かります。
(3)感情や思案を外面に表す意
この派生義は、内面に持っていた感情や思案、考えなどを外面に表す意味を持っています。
よく使われる動詞には、说,哭,喊,笑,发,作,表示などがあります。
例を見てみます。
他说出了自己的信念(tā shuō chūle zìjǐ de xìnniàn)…彼は自分の信念を話した
一例目では、本来は内に秘めている本音を外面に出していて、二例目では心の中に持っている信念を表に出しています。
この種の派生義は、心情や思考など、内にある気持ちや考えを外に表す表現で使います。
(4)何らかの基準を超過する意
この派生義は、何らかを基準として、それを数量的に超過することを意味します。
本述語には動詞の代わりに形容詞が用いられるのが一般的で、方向補語「出」の後ろには数量を表す言葉が続きます。
例文を見てみましょう。
截止2030年,达到适婚年龄的男性会比女性多出二十万(jiézhǐ 2030 nián, dádào shì hūn niánlíng de nánxìng huì bǐ nǚxìng duō chū èrshí wàn)…2030 年までに、結婚適齢期の男性が女性より20万人多くなる
述語として、一例目には「高」が、二例目には「多」が使われていて、いずれも形容詞であることが分かります。
また、数量を表す言葉として、一例目には「一头」が、二例目には「二十万」が方向補語「出」の後ろに置かれています。
この種の派生義では、形容詞で表現される程度が、数量で表される分だけ超過していることを表します。
以上、説明して来たように方向補語「出」には、色々な派生義があります。
意味を整理して、きちんと覚えたいものです。