中国語の「过」には色々な意味や用法があります。
中でも助詞としての「过」は、経験や完了を表す用法として広く使われます。
この記事では、経験や完了を表わす助詞「过」の使い方について、様々な例文と共に細かく解説します。
目次
助詞としての「过」の使い方は3つ
中国語の「过」は日本語の「過」に当たる簡体字で、”過ぎる”などの意味を持つ動詞として使われます。
また、助詞、名詞、量詞、副詞、方向補語としての用法もありますので、とても複雑です。
特に、助詞としての用法は他よりも難しいのですが、3つに分けて考えると理解しやすくなります。
助詞「过」の使い方を示すと、
(1)経験を表わす用法
(2)完了を表わす用法
(3)現在と比較する用法
の3つがあります。
「(1)経験を表わす用法」では、「~したことがある」のような過去の経験を表します。
例えば、
と言えば、過去に韓国に行ったことがある経験を表します。
「(2)完了を表わす用法」では、「~し終えた」のような完了を表します。
例えば、
と言えば、ご飯を食べ終えたという完了を表します。
「(3)現在と比較する用法」では、「(今と比べて)~であった」のような比較を表わします。
例えば、
と言えば、今と比べて太っていたという比較を表します。
このように、「过」には助詞として、「経験」「完了」「比較」の3つの用法があります。
以下、これら3つの使い方について細かく説明します。
(1)経験を表わす用法
経験を表わす用法は、「以前(かつて)~したことがある」という意味を表現します。
この場合の「过」はアスペクト助詞で、全て過去の動作や行為、状態を表します。
動作や行動が既に過去になったとも言え、現在や未来を表すことはありません。
过は本来、第1声(guò)で発音しますが、この用法では軽声(guo)になります。
以下、文型に分けて説明します。
肯定文は動詞の後に过を置く
肯定文の基本文型は下記の通りです。
【肯定文の基本文型】【主語】+【動詞】+过 [+【目的語】]
経験を表わす用法では、動詞の後にアスペクト助詞「过」を置きます。
語気助詞である「了(le)」が「動詞+过 」の後に来ることはありません。
我吃过法国菜(wǒ chīguò fàguó cài)…私はフランス料理を食べたことがある
我看过推理小说(wǒ kànguò tuīlǐ xiǎoshuō)…私は推理小説を読んだことがある
「过」の後には、通常、目的語が来ますが、目的語がない文も成り立ちます。
目的語がない場合、通常は目的語が省略されています。
上記の例では、話している話題(場所)について「行ったことがある」と表現するのが普通です。
実際の意味は「そこには行ったことがある」のようになります。
また、肯定文では、「かつて」や「以前」を意味する副詞”曾经(céngjīng)”がしばしば使われます。
曾经は動詞の前に置かれ、
のような文型になります。
我曾经在东京住过(wǒ céngjīng zài dōngjīng zhùguò)…私は東京に住んでいたことがある
曾经の代わりに、同じような意味の从前(cóngqián)が使われることもあります。
では、経験を表わす「过」を用いる場合のポイントを、1つ1つ説明します。
【ポイント1】動作性の弱い動詞には用いない
動作性の弱い動詞の中には、「过」を伴って経験を表すことができないものがあります。
例えば、日本語でも「知る」を過去の経験として「知っていたことがある」のような表現にすると、ちょっと不自然です。
これは、「知る」が動作性の弱い動詞だからです。
これと同様で、「知る」を意味する中国語の知道(zhīdào)は、「过」を伴って過去の経験を表わせません。
知道の他にも「过」を伴えない動詞はいくつかあり、主な動詞をあげると下記の通りです。
・认为(rènwéi)…考える
・在(zài)…ある
・属于(shǔyú)…属する
・使得(shǐdé)…使える
・免得(miǎndé)…避ける
【ポイント2】時期を表す時には曖昧な語句を使えない
「过」を伴って過去の経験を表現するとき、時期を表す語句を含める必要はありません。
しかし、経験した時期を表す場合は、曖昧な語句は使えません。
例えば、
とは言えますが、
とは言えません。
“去年“は明確な時期を表すのに対して、”有一年“は不明確な時期だからです。
もし上記の「有一年,我去过长春」を無理に訳せば「私はある年、長春へ行ったことがある」となりますが、これは日本語でも不適切な表現であると分かります。
経験した時期を表す場合には、曖昧な語句を使えないのです。
ちなみに、
にある小时候のような語句の場合は、時間的に長い幅を持ってはいますが、不定の時期ではないので用いることができます。
【ポイント3】連動文では、後の動詞の後に过を置く
動詞を複数重ねる連動文では、2つある動詞のうち2番目の動詞の後に「过」を置くのが普通です。
連動文で経験を表す場合の文型は下記の通りです。
【連動文の基本文型】【主語】+【動詞1】 [+【目的語1】]+【動詞2】+过 [+【目的語2】]
例を見てみます。
我去肯德基吃过(wǒ qù kěndéjī chīguò)…私はケンタッキー・フライド・チキンに食べに行ったことがある
例を見て分かるように、「过」は1番目の動詞「去」の後ではなく、2番目の動詞「吃」の後に置きます。
1番目の動詞の後に「吃」を置く、
✕ 我去过肯德基吃
のような言い方はしません。
【ポイント4】経験回数を表現する場合は語順に注意する
経験した回数を表現する場合、目的語によって語順が変わります。
目的語が事物の場合の文型は下記の通りです。
【目的語が事物の場合の回数表現の文型】【主語】+【動詞】+过+(回数)+【目的語(事物)】
目的語が事物の場合、回数を表わす語句は「过」の後に置きます。
我吃过三次蜗牛(wǒ chīguò sāncì wōniú)…私はエスカルゴを3回食べたことがある
上記のように、回数を表わす語句(两次、三次)は、「过」の後ろ、目的語の前に来ていることが分かります。
一方、目的語が人を表わす代名詞や名詞の場合の文型は下記の通りです。
【目的語が人を表わす場合の回数表現の文型】【主語】+【動詞】+过+【目的語(人)】+(回数)
目的語が人を表わす場合、回数を表わす語句は目的語の後に置きます。
上記のように、回数を表わす語句(一次)は、目的語の後に来ていることが分かります。
目的語は人を表わす代名詞なので
のように、目的語の前(「过」の後)に回数を表わす語句(一次)を置くことはできません。
目的語が人を表わせば、普通の名詞も同様で、
のように、回数を表わす語句は、目的語の後に来ます。
いずれの場合も、目的語が修飾語を伴って長くなる場合には、よく目的語が前置されます。
这支曲子我听过两次(zhè zhī qǔzi wǒ tīngguò liǎng cì)…この曲は2回聴いたことがある
否定文は動詞の前に没有を置く
否定文の基本文型は下記の通りです。
【否定文の基本文型】【主語】+没[有]+【動詞】+过 [+【目的語】]
「过」を用いて経験を否定する場合には、動詞の前に「没有」(又は「没」)を置きます。
「不」を用いて否定することはできません。
経験の否定なので、意味は「~したことがない」です。
我没看过美国小说(wǒ méi kànguò měiguó xiǎoshuō)…私はアメリカの小説を読んだことがない
我没有吃过印度菜(wǒ méiyǒu chīguò yìndù cài)…私はインド料理を食べたことがない
否定文も肯定文と同じく、目的語を持たない文も成り立ちます。
否定文では、「かつて」や「今まで」を意味する副詞”从来(cónglái)”がしばしば使われます。
从来は、主語と没[有]の間に置きます。
我从来没听过这么愉快的话(wǒ cónglái méi tīngguò zhème yúkuài dehuà)…私はこんな愉快な話を聞いたことがない
从来の代わりに、「依然として」や「まだ」を意味する副詞”还(hái)”が使われることもありますが、どちらかと言えば完了を表す用法で使われます。
なお、「いまだかつてない」という否定の意味の副詞”未曾(wèicéng)”などを使っても否定を表現できます。
疑問文は吗の後置か反復疑問文の形
「过」を用いた経験の疑問文は、文末に吗(ma)を置く方法と、反復疑問文にする方法があります。
文末に吗(ma)を置く場合の基本文型は
【疑問文の基本文型1】【主語】+【動詞】+过[+【目的語】]+吗?
になります。
一方、反復疑問文にする場合の基本文型は
【疑問文の基本文型2】【主語】+【動詞】+过[+【目的語】]+没有?
になります。
また、反復疑問文は、文末に没有を付ける上記の文型以外にも、
【疑問文の基本文型3】【主語】+【動詞】+[过]+没+【動詞】+过[+【目的語】]?
のように、肯定形の”【動詞】+过“と否定形の”没+【動詞】+过“を重ねる文型があります。
この場合、2つある「过」のうち、前にある「过」(肯定形にある「过」)はしばしば省略されます。
3つの文型は、いずれも「~したことがありますか?」という意味になります。
例えば、肯定文である
你坐过飞机(nǐ zuòguò fēijī)…君は飛行機に乗ったことがある
をそれぞれ疑問文にする場合、
你学过阿拉伯语没有?(nǐ xuéguò ālābó yǔ méiyǒu)
你学[过]没学过阿拉伯语?(nǐ xué [guò] méi xuéguò ālābó yǔ)
…「君はアラビア語を学んだことがあるか?」
你坐过飞机没有?(nǐ zuòguò fēijī méiyǒu)
你坐[过]没坐过飞机?(nǐ zuò [guò] méi zuòguò fēijī)
…「君は飛行機に乗ったことがあるか?」
のように、3つの文型で表現することができます。
これらを問われた相手の返答は、
没[有]学过(méi[yǒu] xuéguò)…いいえ、(学んだことは)ありません
没[有]坐过(méi[yǒu] zuòguò)…いいえ、(乗ったことは)ありません
のようになります。
(2)完了を表わす用法
完了を表わす用法は、「~し終える」「~を済ませる」という意味を表現します。
この場合の「过」も、動作の段階を表す助詞で、動作や行為、状態が完了すること、終わることを表わします。
「了」を用いる通常の完了の場合、単に終わったことを意味しますが、「过」を用いる完了の場合、「動作が確実に終わったこと」や「行為がきちんと済んだこと」を強調する表現になります。
この用法では、「~し終えた」「~を済ませた」のように過去を表すこともできますが、現在や未来の時制を表すこともできます。
特に、予定されていたことや習慣になっていることを表現する場合には、頻繁に使われます。
完了の用法においても、「过」は本来の第1声(guò)ではなく軽声(guo)の発音になります。
以下、文型に分けて説明します。
肯定文は動詞の後に过を置き通常は了を付ける
完了を表す場合、動詞の後に「过」を置き、後ろに語気助詞の「了」を置きます。
【肯定文の基本文型】【主語】+【動詞】+过 [+【目的語】]+[了]
語気助詞「了」は、通常「过」と併用されますが、付けない場合もあります。
暑假的作业我已经做过了(shǔjià de zuòyè wǒ yǐjīng zuòguòle)…私はもう夏休みの宿題を終わらせた
我已经洗过澡了(wǒ yǐjīng xǐguò zǎole)…私は既に風呂に入った
いずれの例も、「~し終えた」「~を済ませた」という意味になっていることが分かります。
例文中の已经は、「すでに」「もう」を意味する副詞で、完了を表現する場合によく使われます。
2例目は、基本文型とは語順が異なりますが、これは目的語が前置されているためです。
では、過去以外を表す例をあげます。
做过作业再玩儿(zuòguò zuòyè zài wán er)…宿題を終わらせてから遊ぼう
请等我问过她了再告诉你(qǐng děng wǒ wènguò tāle zài gàosù nǐ)…彼女に聞いてから君に知らせるので待って下さい
这本参考书你用过就知道非常好(zhè běn cānkǎo shū nǐ yòngguò jiù zhīdào fēicháng hǎo)…この参考書を使ったら、とても良いことが分かる
如果你看过这本书就知道真好(rúguǒ nǐ kànguò zhè běn shū jiù zhīdào zhēn hǎo)…この本を読むと、本当に素晴らしい書物だと分かる
いずれの例も、過去に完了したことではなく、現在や未来のことを表しているのが分かります。
「过」を用いた完了表現では、過去だけを表すわけではないのです。
ちなみに、上記の4,5番目の例文のような仮定の表現では、それぞれ
「この参考書を使ったら」→「この参考書を使ったことがあったら」
「この本を読むと」→「この本を読んだことがあれば」
のような捉え方もできます。
このような場合、完了の用法ではなく経験の用法と解釈することもあります。
否定文は没有を付けて过を取る
完了を否定する基本文型は下記の通りです。
【否定文の基本文型】【主語】+[还]+没[有]+【動詞】+[+【目的語】]+[呢]
上記のように、否定形では動詞の前に「没」(又は「没有」)を付け、「过」を取り除きます。
「还」は「まだ」の意味を持つ副詞で、助詞の「呢」は継続の意を表す助詞です。
「还」と「呢」がなくても完了の否定を表せますが、通常は両方とも付けます。
我还没洗澡呢(wǒ hái méi xǐzǎo ne)…私はまだ風呂に入っていない
「还」を付けることで「まだ」であることが強調され、「呢」を付けることで完了していない状態が続いている意を含めることができます。
例文から「还」と「呢」を取り除くと
我没洗澡(wǒ méi xǐzǎo)…私は風呂に入っていない
となりますが、これらも完了していない意味を表していることが分かります。
そしてこれらは、
我洗澡了(wǒ xǐzǎole)…私は風呂に入った
という、「了」を用いて完了を表す文の否定形であることが分かります。
つまり、「过」を用いた完了の否定文は、「了」を用いた完了の否定文と基本的に同じ文型になります。
そして、「过」を用いた完了も「了」を用いた完了も、否定する場合は”完了していない点では同じ”ですから、”「过」を用いた完了に対する否定形は特にない”と解釈する場合もあります。
なお、完了していないことを表す言い回しとして、
我还没吃完饭(wǒ hái méi chī wán fàn)…私はまだご飯を食べ終わっていない
のような補語「完」を用いる表現がよく使われます。
疑問文は文末に吗を付ける
完了したかどうかを問う疑問形は、肯定文の最後に「吗」を付けます。
【疑問文の基本文型】【主語】+【動詞】+过[+【目的語】] +[了] + [吗]
具体的な例をあげます。
暑假的作业你做过了吗?(shǔjià de zuòyè nǐ zuòguòle ma)…夏休みの宿題は終わった?
你已经洗过澡了吗?(nǐ yǐjīng xǐguò zǎole ma)…もう風呂には入った?
いずれも肯定文の最後に「吗」を置くだけなので、文型としてはとてもシンプルです。
問う相手が二人称の場合、通常、主語(「你」など)は省略します。
そして、これらの問いに対する答えは、それぞれ
还没[有]吃呢(Hái méi [yǒu] chī ne)…(夕飯は)まだ済んでない
还没[有]做呢(hái méi [yǒu] zuò ne)…(夏休みの宿題は)まだ終わっていない
还没[有]洗呢(hái méi [yǒu] xǐ ne)…(風呂には)まだ入っていない
のようになります。
肯定の回答にある「了」は、「もう~し終えた」という意味合いを持ちます。
また、否定の回答にある「呢」は継続を意味し、”まだ済んでいない状態が続いている”意を含んでいます。
回答では、主語や目的語は自明なので、省略するのが普通です。
(3)現在と比較する用法
現在と比較する用法では、「(現在と違って過去は)~であった」という意味を表します。
この用法でも、过は軽声で発音します。
肯定形は形容詞の後に过を置く
肯定文では形容詞の後に过を置きます。
必ず、現在の状態や性質を比較し、以前とはどこが異なるか、何が変化したかを表現します。
比較する過去については、時間的な語句を用いていつ頃であるかを示すのが普通です。
基本文型は下記の通りです。
【肯定文の基本文型】【形容詞】+过
訳文では、単に太っていたという過去の状態を説明しているように見えますが、実際は「現在とは違って」という現在との比較の意を含んでいます。
小学生的时候のような過去の時を表す語句が含まれているのもこの用法の特徴です。
否定文は形容詞の前に没有を置く
否定文は、形容詞の前に没(又は没有)を置きます。
通常は、「いままで」「以前」「かつて」などの意味を持つ副詞「从来」又は「过去」を没[有]の前に置きます。
また、「このように」「こんなに」などの意味を持つ指示代詞「这么」を形容詞の前に置きます。
否定文の基本文型は下記のようになります。
【否定文の基本文型】从来(过去)+没[有]+这么+【形容詞】+过
現在と比較する用法では、否定することによって現在の状態が強調されます。
从来(又は过去)や这么が付かないと、過去を漠然と否定するだけの表現に留まります。
従って、この種の用法では、从来や这么を含むのが普通です。
疑問形は可能だがニュアンスが少し異なる
現在と比較する用法では、疑問形にすると少しニュアンスが変わってきます。
上記に挙げた肯定文に疑問詞の吗を付けてみます。
この例文では、過去にどうであったかを問う趣が強く、現在との比較にはあまり重点が置かれていません。
同じく、文末に没有を付けてみます。
この例も同じく、現在との比較にはあまり重点が置かれていません。
このように、疑問詞の吗を文末に付けたり、否定の没有を加えて反復疑問文にしたりすれば疑問形を作ることはできます。
文型を示すと下記の通りです。
【疑問文の基本文型】【形容詞】+过+(吗/没有)?
しかし、この文型では現在と比較する趣に欠けるため、少し違うニュアンスになります。
このことから、現在と比較する用法の場合、相当する疑問文の文型はないとの見方もできます。
経験と完了は似ているが異なる
助詞「过」を使った用法のうち、経験と完了については似ていて混同しやすい一面があります。
しかし、経験と完了は異なる用法で、その違いは否定形を比較することで明確になります。
経験と完了のどちらかに迷う場合、否定形を考えて見分けましょう。
例えば、
を否定文にすると
となりますが、「过」を含んでいないことから「完了」の用法であることが分かります。
また、
を否定文にすると
となりますが、「过」を含んでいることから「経験」の用法であることが分かります。
類似している経験と完了を見分けたいときは、否定文にして比較しましょう。
「过」と「了」の違いは?
「过」を用いた経験と「了」を用いた完了は、どちらもアスペクト助詞としての用法になります。
両者には類似点もありますが、意味や文型に明確な違いがあります。
また、経験や完了の用法以外にも紛らわしい点がいくつもあります。
「过」と「了」の主な違いを挙げれば、下記の7点です。
① 否定の文型が不同
② 過去との関連性に差がある
③ 現在までの持続性に相違がある
④ 一定の成果の意を含むかが異なる
⑤ 動詞の重ね型への挿入の可否が違う
⑥ 否定命令文への使用の可否に差異がある
⑦ 動詞と方向補語の間への挿入可否が違う
以下、これら7項目に分けて「过」と「了」の違いを説明します。
①否定の文型が不同
「过」を用いた経験と「了」を用いた完了の用法では、否定形にする場合にはどちらも没[有]を付けます。
しかし、「过」を用いた経験の場合、助詞の「过」はそのまま否定文の中に残りますが、「了」を用いた完了の場合、助詞の「了」は無くなります。
<肯定文> ⇒ <否定文>
喝了(hēle)⇒没喝(méi hē)
用了(yòngle)⇒没用(méi yòng)
听了(tīngle)⇒没听(méi tīng)
上記のように、否定形にした時の文型が異なり、助詞が残るか消えるかの点に相違があります。
②過去との関連性に差がある
「过」を用いた経験の場合は、過去の事柄を表しますので必ず過去の時間と関連を持ちます。
一方、「了」を用いた完了の場合は、必ずしも過去との関連があるとは限らず、現在や未来を表すこともあります。
要約すれば下記の通りです。
「过」を用いた経験:過去のみ
「了」を用いた完了:過去、現在、未来
また、「过」は既に過去になったことや、かつてあったことに主眼が置かれ、「了」は現在に主眼が置かれるとも言えます。
前天我去了南京(qiántiān wǒ qùle nánjīng)…一昨日、南京に行った(過去)
「过」を用いた経験の用法も、「了」を用いた完了の用法も、共に過去を表現できることが分かります。
この例は、過去のようにも見えますが、現在完了したことを表しています。
「了」を用いた完了は、過去に限らず現在や未来のことを表わせるので、過去との関連性の上で「过」と異なるのです。
③現在までの持続性に相違がある
「过」を用いた経験の表現では、動作が現在まで持続することはありませんが、「了」を用いた完了の表現では、動作が現在まで持続することがあります。
「过」を用いた経験:動作が現在まで持続することはない
「了」を用いた完了:動作が現在まで持続することがある
換言すれば、「过」は過去の動作で現在まで続いていない状態を表わし、「了」は現在まで続いている状態を表わせます。
她去了上海(tā qùle shànghǎi)…彼女は上海に行った(今は上海にいるか、上海に向かう途中)
这本书我才看了几章(zhè běn shū wǒ cái kànle jǐ zhāng)…私はこの本をやっと何章かようんだところだ(今も読んでいる)
他当了组长了(tā dāngle zǔ zhǎngle)…彼はグループ長になった:(今もグループ長である)
このように、「过」は現在までの持続性がなく、「了」は現在までの持続性がありえます。
④一定の成果の意を含むかが異なる
「了」を用いた完了の表現では、ある一定の成果をあげている意味を含みますが、「过」を用いた経験の表現の場合、必ずしもその意味を含むとは限りません。
我学过汉语(wǒ xuéguò hànyǔ)…私は中国語を学んだことがある(中国語をマスターした意が含まれない)
「了」を用いた例文は、中国語をある程度マスターしている意味を含みます
これに対して、「过」を用いた例文は、マスターした可能性も、マスターしてない可能性もあります。
このように、「过」と「了」とでは、一定の成果をあげている意味を含むかどうかが異なります。
⑤動詞の重ね型への挿入の可否が違う
同じ動詞を2回重ねることで、「○○してみる」「ちょっと○○する」のように試してみる意味を表現することができます。
この時、2つの動詞の間に「了」を挿入しても、同様の意味を表現できます。
尝尝(cháng chang)…ちょっと食べてみる ⇒ 尝了尝
问问(wèn wwn)…ちょっと尋ねてみる ⇒ 问了问
学学(xué xue)…ちょっと学んでみる ⇒ 学了学
试试(shì shi)…ちょっと試してみる ⇒ 试了试
闻闻(wén wen)…ちょっと嗅いでみる ⇒ 闻了闻
しかし、2つの動詞の間に「过」を入れることはできません。
✕ 尝过尝
✕ 问过问
✕ 学过学
✕ 试过试
✕ 闻过闻
このように、「了」は動詞の重ね型へ挿入できますが、「过」は挿入できません。
⑥否定命令文への使用の可否に差異がある
否定の命令文の場合、動詞の後に「了」を付けることができます。
别丢了钱包(bié diūle qiánbāo)…お財布を無くさないように
别生气了(bié shēngqìle)…怒らないで
しかし、「过」を付けることはできません。
✕ 别丢过钱包
✕ 别生气过
⑦動詞と方向補語の間への挿入可否が違う
動詞と方向補語の間には「了」を入れることができます。
他跑了出去(tā pǎole chūqù)…彼は走って出ていった
我站了起来(wǒ zhànle qǐlái)…私は立ち上がった
しかし、動詞と方向補語の間に「过」を入れることはできません。
✕ 他跑过出去
✕ 我站过起来
方向補語「过」との違いは?
助詞の「过」は動詞の後に置いて経験や完了を表し、また、形容詞の後に置いて現在との比較を表します。
これらの基本文型を示すと
のようになりますが、これは方向補語「过」の文型(派生義を含む)と同じです。
このため、述語部と过との組合せだけではどの用法であるか、その違いがよく分からないことがあります。
例えば、単に
と表現すると、
歩いて通り過ぎた(方向補語)
歩いたことがある(助詞・経験)
歩き終わった(助詞・完了)
のいずれなのかが不明です。
これは、”動詞(形容詞)+「过」”という基本文型が同じだからです。
違いを判断するためには、使われている動詞や形容詞、目的語、副詞、或いは文脈や表現方法などを読み取る必要があります。
方向補語の例文を挙げてみましょう。
方向補語「过」は、何かが通過する動作を表しますので、例のように移動の動作を表わせる動詞「走」(=歩く)が使われ、目的語は通過対象を表す「天安门广场(天安門広場)」になっています。
つまり、移動などの動作を伴う動詞が使われ、何らかの通過対象を表す目的語を持つ場合は、方向補語である可能性が高いと言えます。
また、方向補語「过」は、「向きが変わること」、「ある基準を超過すること」、「勝っていること」、「比較して超えていること」も表します。
她昨天喝过了量(tā zuótiān hēguòle liàng)…彼女はきのう飲み過ぎた
你能跑过她(nǐ néng pǎoguò tā)…君は彼女より速く走れる
儿子长得高过妈妈了(érzi zhǎng de gāoguò māmale)…息子は母親より背が高くなった
このような意味を表現する場合も、方向補語である可能性が高いと言えます。
「过」を用いる経験の場合は、「曾经」や「从前」などの副詞(否定の場合は「从来」)が付くことが多く、「过」を用いる完了の場合は、「了」を伴う(否定は「还」や「呢」)ことが多い点も、違いを判断するポイントです。
形容詞の後に「过」が来る場合、助詞の用法なら必ず過去の時を示す語句を伴い、方向補語の用法なら长(長い)・高(高い)・强(強い)などの積極的な意味をもつ単音節の形容詞に限定される点に違いがあります。
最終的には、文脈や文全体を見て違いを判断しますが、上記のポイントに着目すれば、違いがより分かりやすくなります。