分かったようで、分からないのが方形波と矩形波、パルス波の違いです。
名前が違うからには、何らかの違いがあるハズ。
そう考える人も多いことでしょう。
以下、方形波と矩形波、パルス波の違いがよく分かるように、簡単に解説します。
方形波と矩形波は同じ、パルス波は同じ場合あり
結論から先に言えば、方形波(ほうけいは)と矩形波(くけいは)は、名称が異なるだけで同じ波形を意味します。
パルス波は、本来これらとは全く別な波形を意味しますが、パルス波の一部は方形波、矩形波と同じ波形になります。
言い方を変えれば、方形波、矩形波をパルス波と呼称する場合があります。
方形波と矩形波、パルス波の違いをまとめると下図のようになります。
方形波と矩形波は同一で、パルス波の中には方形波や矩形波と呼称できる波形が含まれていることがよく分かります。
但し、パルス波を狭義の意で捉えると含まれない場合もあります。図で表すと、下記のようになります。
どんな波形を方形波・矩形波と呼ぶか
さて、「方形波と矩形波は、名称だけの違い」と言われてもピンと来ない人もいると思います。
そこで、基本に立ち返って波形を確認してみます。
方形波や矩形波は、下記のパラメータで定義することができます。
(1)直流成分
(2)振幅
(3)周期
(4)デューティー比
これら4つのパラメータが全て同じであれば、それは完全に同じ波形になります。
但し、(1)の直流成分が異なっても、(2)~(4)が同じであれば、波形の形状としては同一です。
「(3)周期」については、その逆数である「周波数」に置き換えることができます。中には、周期をもたない(繰り返しとならない)波形もあります。
また、「(1)直流成分」と「(2)振幅」の2つのパラメータは、「最小値」と「最大値」の2つのパラメータに置き換えることができます。
そして上記の4つのパラメータで定まる波形は、方形波でも矩形波でも同一ですから、同じ波形を意味することになります。
では、これらのパラメータで表される具体的な波形を見てみましょう。
図を見て分かるように、方形波や矩形波は、四角形のような形をした波の繰り返しです。
実は、方形波の”方形”は四角形の意味で、矩形波の”矩形”は長方形の意味ですから、どちらも四角形のような波形の特徴をそのまま表現した名称なのです。
このことからも、方形波と矩形波は、単に名称の違いであることがよく分かります。
方形波も矩形波も英語では「square wave」
ところで、気になるのは英語での表現です。
方形波も矩形波も英語に訳すと、どちらもsquare waveになります。
方形を直訳すればsquare、矩形を直訳すればrectangleですが、方形波も矩形波も共に技術的な用語として使われますから、波形を表現する場合はsquare waveが使われます。
従って、rectangle waveという言葉はあまり使いません。
ちなみに、squareには正方形や四角形の意味があり正方形が語源で、rectangleは矩形や長方形の意味があり直角が語源です。
参考までに、中国語では、square waveには方波(fāngbō)が使われますが、矩形波(jǔxíngbō)が使われることもあります。いずれも日本語の漢字表現に似ています。
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方形波と矩形波の使い分けは
さて、波形が同じにもかかわらず、別な名称があると言うことは使い分けがあるのではないかと考えると思います。
しかし、特に使い分けなどはなく、どちらかと言えば、時代の流れや習慣、或いは人による好みの違いと言えます。
傾向として、以前は「矩形波」という言葉の方が多く使われていたようです。
しかし、時代と共にあまり使われなくなり、どちらかと言えば方形波という名称の方が使われるようになりました。
ただし、方形波(ほうけいは)の場合、読み方が他の言葉(包茎)を連想させるため、敢えて使わないようにしている人もいます。
また、方形波や矩形波がパルス波(詳細は後述)の典型的な波形の1つでもあることから、敢えて方形波や矩形波と呼称せず、パルス波と表現する場合も多くあります。
ちなみに、矩形波と方形波をデューティー比で区別している場合が見られますが、これは間違いです。
デューティー比がいくつであっても、矩形波とも方形波とも表現し、区別することはありません。
パルス波は何が違うのか
方形波と矩形波が同じことが分かりましたが、パルス波との違いはまだよく分からないと思います。
実は、パルス波は波形の定義そのものが本質的に方形波や矩形波と異なります。
方形波や矩形波は、上述のように波形の形状をもとに表現した名称です。
これに対し、パルス波は最大値から最小値への遷移(或いは最小値から最大値への遷移)が速く、変化点が急峻となる特徴を持つ波形の総称で、通常は変化点からもとに遷移する時も急峻となります。
典型的なパルス波のひとつに、脈拍や心拍がありますが、実はこれがパルス波の語源になっています。
脈拍は英語ではpulseで、鼓動する意味を持つラテン語がその語源です。
従って、本来の典型的なパルス波と言えば、心拍のように一定間隔で一時的に急峻に変化する波形を指します。
実際は、急に変化する特徴を持つ波形の総称のことですから、下記のような信号も全てパルス信号に含まれます。
これを見て分かるように、パルス波の場合、形状が四角形とならない波形も含まれ、三角波やのこぎり波などを指す場合もあります。
従って、パルス波の一部は方形波、矩形波と呼ぶことができますが、四角形の形状を持たない波形については方形波、矩形波と呼称することはできません。
つまり単にパルス波と呼称した場合、それが必ずしも方形波や矩形波であるとは限らないのです。
方形波・矩形波であることを明確にしたい場合は、矩形パルス波(rectanguler pulse wave)という言葉が使われます。
但し、パルス幅には周期やパルス幅などに関する明確な定義・制限がないことや、デジタル信号処理などでは四角形の形状を持つ信号がよく使われることなどから、方形波・矩形波を指してパルス波と呼称するのも一般的になっています。
また、パルス波のうち、最大値と最小値との遷移時間が無限小となる波形が方形波・矩形波と言えることも理解できるでしょう。
そして、一般的に、パルス波と呼べる方形波・矩形波のうち、デューティー比が小さい波形や、繰り返しのない単発の波形である場合ほど、パルス波と呼称する傾向が強いと言えます。
逆に、パルス波は「デューティー比が小さい場合の波形」、または「繰り返しのない単発の波形」に使う言葉(狭義の意味でのパルス波)と解釈される場合もあります。
電気信号を出力する波形ジェネレータなどでは、パルス波(Pulse)と方形波・矩形波(Square)を同一に扱うものもありますが、キーサイト(米国の大手電気計測器メーカ)では区別しています。(下記)
具体的には、パルス波では、立ち上がり時間(rising time、rise time)や立ち下がり時間(falling time、fall time)などの遷移時間を設定できる点で、方形波・矩形波と区別しているのです。
この観点から見れば、遷移時間を任意に設定できる波形がパルス波、設定できない(理論上は、瞬時に遷移)のが方形波(矩形波)と言うこともできるでしょう。
以上、方形波、矩形波、パルス波の違いについて説明してきましたが、きちんと理解して頂けたのではないでしょうか。
ここでは、最もよく使われる電気信号を切り口として、ごく一般的な解釈としてまとめています。
しかし、実際に”波形”を扱うのは電気信号の世界だけではなく、その分野も広く多岐に渡っています。
従って、波形を扱う対象分野によっては、パルス波の解釈が上記とは少し異なる場合もありますのでご注意下さい。(解釈の差は、パルス波の定義の曖昧さから来ています)