ソフトバンクグループの孫正義社長の「日本は後進国」発言を受けて、日本を後進国と呼ぶべきかどうかを数値で見て来ました。
前回(6回目)は、教育に対する公的支出のGDP比について見てきましたが、今回は年金の所得代替率についてその数値を見て行きます。
前回(6回目)連載記事日本が後進国へ転落する理由を数値で見る(6)教育環境は悲惨そのもの
年金の所得代替率
年金の所得代替率とは、OECDによれば
「The gross replacement rate is defined as gross pension entitlement divided by gross pre-retirement earnings.」
と定義されています。
これを端的に言えば、「定年以前の稼ぎに対する年金受給額」です。
分かりやすく言えば、年金生活に入ってから、それ以前と比べてどれくらいの収入(率)になるかってことですね。
従ってもしこの率が100%の場合、定年以前の収入レベルと年金生活における収入レベルが同じと言えます。
つまり、定年後の経済レベルを推し量る上で最も分かりやすい数値のひとつと言えましょう。
今回の孫社長の発言によれば、
「年金の所得代替率は50カ国中41位(OECD)」
ということですから、世界のランクで見ても低いことが分かります。
世界ランク
では、具体的に数値を見てみましょう。
用いた統計データは、OECDが公開しているGross pension replacement ratesというデータで、最新の情報については、https://data.oecd.org/pension/gross-pension-replacement-rates.htmのトップ画面で見ることができます。
実際のグラフを見てみましょう。このデータは2018年における男性に関する年金の所得代替率[%]です。
これを見ると、日本は49か国中40位になっていることが分かります。
孫社長の50か国中41位とは違うことが分かりますが、実は元のデータにはEU28という名称でEUヨーロッパ連合28か国分のデータも含まれていましたので、これを一つの国と扱うのは不自然と考えて外してあります。
ちなみにEU28の数値は52[%]、OECD全体の平均では49[%]でした。
このグラフを見て分かることは、日本の数値は32[%]ですから、本当に世界の数値と比較しても極めて低いということです。
収入が定年以前の30%くらいになることを意味している訳ですから深刻そのものです。
老後のための預金は2000万円必要だとか、3000万円必要だとか色々言われていることがよく分かる気がします。
また、老後破産という言葉もすっかり定着した感じがしますが、これについても実感を持てます。
計算しやすいようにこの率が30%だとして具体的に考えてみると、月収50万だった人は15万円に、月収30万円だった人は9万円になるわけですから、生活ができなくなるのも頷けます。
まさに年金生活は地獄とでもいうべき状況ですね。
では次に女性に関するグラフを見てみましょう。
やはり日本は49か国中40位になっていることが分かります。
実際に男性の場合とほとんど変わりがありません。元のデータを見てみると実はほとんどの国では男女間で差はありませんでした。
恐らく、「夫婦でいくらになるかを換算した」からなのでしょうが、男女間の差を論じようが論じまいが30%余ですから恐ろしい数値です。
これでは老後の生活は成り立ちません。
本当に高齢化社会というのは恐ろしいことです。
65歳まで働こう!70歳まで働こう!などと言われるのがよく分かります。
数値の経年変化
さてここで、この率が時間経過でどのように変化してきたかを見てみましょう。
実はこの統計データは2014年と2018年しかなく、過去からの変化を細かくみることはできません。
何はともあれ気になるのは日本の変化ですから、それを見てみましょう。
2014年:35.1[%] 2018年:32.0[%]
如何でしょうか。わずか4年で35.1[%]から32.0[%]まで低下してしまったのです。
今後も高齢化が加速することを思えば、顔が青ざめてきます。
直ぐに30%を割り、どんどん20%に近づいて行く姿が頭に浮かびます。
過去の国際比較
では、2014年における各国の率を比較してみましょう。ここでは男女差はないと考えて男性だけを見ることにします。
日本は42か国中36位になっています。
順位としてはあまり変わらない、むしろ良くなっているという見方もできるかも知れませんが、絶対的な率が35.1→32.0になっている訳ですから、順位などあまり意味がない感じがします。
OECD平均でも率が52.5→49.0に低下している訳ですから、日本も世界なみに悪化したとも言えるでしょう。
しかし、今も急速に高齢化が加速する現実を考えた場合、この先どうなってしまうのかが気になって仕方ありません。
まとめ
以上、年金の所得代替率について見てきました。これらをまとめると、
- 日本の年金の所得代替率は32%と国際比較しても極めて低い
- 年金の所得代替率は低下傾向にあり高齢化の問題を浮き彫りにしている
- 実際の年金の所得代替率32%は暗に年金生活が成り立たないことを示唆している
というところでしょう。
まさに「年金生活は地獄」と言うほかはありません。
「これで先進国と言えるの?」と言う感じがします。後進国そのものと言っても過言ではないのではないでしょうか。
自分自身の老後の生活は、この現実を見つつ、本気で考えて行かなければならないと言えますね。
次回(第8回)は、障害者への公的支出のGDP比に関する数値を追って行きます。