老後の生活を考える上で、
「老後にはいくら貯金が必要だろうか?」
「老後資金は何万円あれば十分なのか?」
「老後のための貯蓄はどれ位あればいい?」
などと思う人は多いと思います。
実際、世間でも「老後の貯金は○○万円は必要」などとよく言われています。
しかし、このように考えることは一種の思考停止状態とも言え、却って老後生活を絶望へと導く危険性を持ち合わせています。
老後の経済面を考える上では、別な思考を持つ必要があります。
目次
なぜ老後の貯金を考えようとするのか
さて、そもそもなぜ多くの人が、老後の貯金を考えようとするのでしょうか。
その理由は、老後の収入だけでは十分に生活できないからです。
更に言えば、老後の収入源である年金の受給額では不十分で、他に生活費として使えるお金を確保する必要があるからです。
そしてそこには、老後の就労は難しく、年金以外の収入を当てにできないという背景があります。
つまり、老後の生活費の不足分を予め貯蓄することで補おうとするのが老後の貯蓄の発想です。
老後に必要とされる貯蓄はいくらと言われているか
では、老後に必要な貯蓄額はどのくらいと言われているでしょうか。
以前であれば、夫婦二人で1000万円とも1500円とも言われていました。
その後「2000万円は必要」と言われるようになりましたが、実際にそこまでの貯蓄が困難な人も多いことから、大きな話題にもなりました。
最近では「3000万円は必要」との試算も出てくるようになり、その額の大きさから老後生活の厳しさが議論されるようにもなってきています。
最近、「老後の資金がありません」という映画が制作されたのも、老後に必要とされる貯蓄が困難である、現代の社会問題が背景にあるからです。
試算額に差はあるものの、老後に必要とされる貯蓄は、退職金だけでは不十分と言われるほど大きな額になってきているのです。
老後に必要と言われる貯金はどのように計算されるか
ところで、老後に必要な貯金の額は、どのように計算されるのでしょうか。
簡単に言えば、典型的なモデル、つまり標準的な老夫婦を想定して、その家計の収支を試算するというものです。
例えば、65歳で定年退職して余命を85歳と想定すれば、20年間の老後生活となります。
年間の年金収入額と想定出費額の差額を求めて、それにその年数(20年)を掛ければ必要な貯蓄額が算出されます。
しかし、問題なのは定年退職年齢や余命は人によって違うことですが、更に厄介なのは余命が予め決められないことです。
また、実際の年金収入額は人によって異なりますし、生活スタイルによって月々の出費額も違います。
従って、実際の試算では、ごく一般的な夫婦をモデルとし、通常は平均的な数値(退職年齢、余命、生活費、年金額等)が用いられます。
その結果、一応の目安としての額は算出できるものの、そこには大きな偏差(偏り)があり、人によっては試算額と大きな差が生まれるのです。
老後の貯蓄を考えることがなぜ絶望を招くのか
さてここで、
「一応の目安の額とは言え、基本的な考え方は間違っていないのでは?」
と考える人も多いのではないでしょうか。
確かに、基本的な考え方に間違いはありません。老後に備えて貯蓄することは大切と言えます。
しかし、そこには明らかに思考停止の状態があります。
簡単に言えば、この考えの裏にある「不十分な年金は、貯金で補おう」という前提的な思考があり、その思考が他の老後対策を考える上での妨げになるのです。
では、なぜこの思考が老後生活を絶望に招くのか。
それは、「貯蓄が無くなった時点でどうしようもなくなる」という問題と直結しているからで、実際に貯蓄の底が見えてくることで絶望感を生みます。
しかも、想定していた貯蓄が底を付くことは往々にしてある話です。
絶望感が生まれれば、気持ちがみじめになるだけでなく、いたずらに不安が増長し、本来は味わう必要のない苦しみや辛さまで感じるようになってしまいます。
大切なのは、「不十分な年金は、貯金で補おう」という固定観念を捨て、他の選択肢と並行して対策をとることです。
また、前述の通り、必要と言われている貯金額はあくまで一応の目安であると弁えるべきです。
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老後の貯蓄を考えることの危険さ
繰り返しになりますが、誤解がないように言っておきましょう。
老後のために貯蓄をすること自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、老後の生活を確実なものにするために必要と言えます。
問題なのは、固定観念を持ってしまうこと、そしてその固定観念によって他の対策がおろそかになってしまうことです。
更に言えば、「一定の貯蓄があるから」という根拠のない安心感を抱いてしまうことにも問題があります。
きちんと理解するために、更に詳しく説明して行きましょう。
老後資金を貯蓄に頼るのは過去の時代の話
まず、そもそも老後資金のために貯蓄しようと考える裏には、退職して年金生活になるという背景があります。
そして、「年金受給額だけでは不足するから貯蓄しよう」という発想が生まれます。
しかし、この時点で既に、老後の生活スタイルを固定的に考えてしまっています。
定年退職後=年金生活の開始
このような方程式が、頭のどこかにこびり付いてしまっています。
この方程式は、戦後の長い年月の間に自然と定着したひとつの生活スタイルとも言えるでしょう。
しかし、この方程式が現代社会にもマッチしていると言えるでしょうか。
現在は既に、超高齢化社会と言われる時代に入り、受給できる年金額は徐々に減らされる傾向にもあります。
高度経済成長期という時代にはとっくに終止符が打たれ、失われた30年と言われる景気低迷時期を経て、今は新たな時代に向かっています。
従来の固定観念に囚われ、老後の資金をいたずらに貯蓄だけに頼るのは考えものです。
貯金額はあくまで目安
次に、弁えるべきは、老後に必要と言われている貯金額が目安にすぎないことです。
例えば、「老後の貯金は2000万円は必要」という言葉を耳にして、あなたはどのように感じるでしょうか。
「そんなたくさん貯金するなんて、とうてい無理だ」
「そんなに必要なら、老後は暮らせない」
「我が家はそれ以上あるから安泰だ」
「退職金もあるからそれ位は貯蓄できそうだ」
色々な感じ方があるかと思います。
このうち、「とうてい無理だ」「老後は暮らせない」と感じた人は、十分な貯金ができそうもない人でしょうから、貯金としては少ない人と言えるでしょう。
また、「安泰だ」「貯蓄できそうだ」と感じた人は、2000万円くらいは貯蓄できる人でしょうから、貯金額としては多い方かも知れません。
しかし、「とうてい無理だ」「老後は暮らせない」と感じた人も、直ちに悲観するべきではありません。
逆に、「安泰だ」「貯蓄できそうだ」と感じた人も、不用意に安心するべきではありません。
それは、「老後の貯金は2000万円は必要」などのフレーズに出てくる金額は、あくまで目安だからです。
2000万円などの数値そのものは、一定の条件で試算された根拠のある額であったとしても、あくまで平均的に算出された数値であり、実際に必要とされる額は、個人や家庭によってこれとは異なるものなのです。
そして、金融商品を売り込もうとする事業者が、「老後の貯金は2000万円は必要」などのフレーズを多用するため、数値(金額)だけが独り歩きしやすい傾向も否めないでしょう。
中流意識が強いから当てはめてしまう
さて、「老後の貯金は2000万円は必要」とのフレーズを耳にすると、多くの人は「そうなのか」と信じ込んでしまいます。
その理由は、多くの人は自分が中流階級に位置していると思っていて、平均的な試算額が自分にも当てはまると考えるからです。
日本は、貧困の差はあるものの、中流階級と言える人はとても多くいます。
実際、中流階級が多いのも事実です。
しかし実際は、老後の収支には人によって大きく差があります。
ではここで、収支の差を大きくする要因の一例を挙げてみましょう。
- 年金の受給額
- 住居(資産)の有無
- 住宅ローンの完済・未完済
- 教育費が必要な子供の有無
- 持病や介護の要否
ここに挙げた要因はどれも老後の収支に大きく影響する要因ですが、細かいものならまだ他にも沢山あります。
こうした要因が違うだけで、老後に必要とされる貯金額は大きく変わってくるのです。
「老後の貯金は2000万円は必要」とのフレーズに出てくる金額は、一定の条件で試算された額ですから嘘とは言えませんが、それはあくまで平均的な数値であり、あなたにそのまま当てはまるとは限らないのです。
貯蓄があることの安心感こそ危険
そして、もし「老後の貯金は2000万円は必要」とのフレーズをそのまま真に受けて、必死に2000万円を貯めた場合、そこには少なからず安心感が生まれます。
「必要と言われる額は貯めたのだから、老後生活は問題ない」
勝手にそのように思いがちなのですが、この安心感こそ最も危険と言うべきです。
確かに、2000万円ものお金は簡単に作れるものではありませんから、大金と言えます。
しかし、その結果「たくさんお金があるから大丈夫だ」、などの錯覚を起こしてしまうのです。
お金はたくさんあるから安心。その感覚を持つことが一番危ないのです。
老後に限らず、現役世代の人でも破産することはありますが、その中には年収1000万円あるような高所得者も意外と多く含まれます。
これは、支出と収入が見合っていないからです。
老後も同じで、収支のバランスを考えなければ悲惨なことになります。
たとえ収支のバランスを考えていても、老後生活には想定外の支出を余儀なくされることはいくらでもあります。
- 配偶者が思いのほか早く亡くなり、年金額が激減した
- 大病を病み、急に高額の治療費が必要になった
- 住居が傷んで不可避の修繕費用が発生した
ここでは3例だけ挙げてみましたが、想定外の支出や臨時出費などは他にもまだ色々あります。
このように大きな出費を余儀なくされる事態がひとつでも発生すると、十分と考えていた貯蓄さえ不十分になることはあり得ます。
まして、このような事態が2つ、3つ重なることがあれば、貯蓄などは一瞬で吹き飛ぶことでしょう。
しかも、上記の3例などは決して、現実から飛躍した話ではありません。誰の身に起きてもおかしくないことです。
お金と言うものは、蓄えにくい反面、出て行きやすいものです。
たとえまとまった多くのお金があったとしても、それだけで安心できるものではないのです。
絶望の根本原因は貯蓄が底をつくこと
さて、老後の生活に絶望を感じるのは、貯蓄が底を付くことが現実的に迫るからです。
従って、老後生活が苦しい、つらい、みじめだと感じるのは、十分な貯蓄がないことに起因すると言えます。
しかし、その本質を見れば、貯金に頼っていることこそに原因があります。
もし、貯金に頼らなければ、貯蓄の底を意識することもなくなり、絶望感も抑制して行けます。
貯金は、その額の大小に関わらず、たとえ少しずつでも使って行けば、いつかは必ず無くなります。
だから、貯金の減り方をしっかり考えることが、悲劇を回避するカギと言えます。
就労を考えることも大切
では、具体的にどうすればいいのでしょう。
まず、多くの人が取り組める対策としては、老後の就労です。
「定年退職後は仕事などしない」と言うのは従来からある固定観念です。
高度経済成長期のゆとりのある時期に自然と生まれた形態とも言えます。
余命が延び、高齢化が進む現代では、むしろ古い慣習とでもいうべきです。
実際、余命年齢と比べて、定年退職年齢の引き上げはまだまだ追い付いていません。
体力的に余裕があるのに仕事をしないことの方が、むしろ不自然と考えるべきです。
老後に仕事などしたくない人もいる
とは言え、退職後にわざわざ仕事なんかしたくない人も多くいるはずです。
でも、考えてみてください。
もし動物なら、どんなに年を取っても生きるためには捕食を続けます。
人間の場合、社会を形成して生活していますから、動物と同じ考えを当てはめるのは無理がありますが、基本的な考え方は同じハズです。
生きるために必要であれば、仕事をすることはとても自然なことと言えます。
もし、老後に仕事をしたくないのであれば、現役時代に人一倍努力をして、十分にゆとりのある環境を事前に確立しておくすべきです。
それをやって来なかった、或いはできなかったのであれば、苦労を厭うべきではないでしょう。
仕事ができることをプラスに捉える
これを読んで、
「結局、仕事をせざるを得ないのか」
そのように落胆する人もいるかも知れません。悲観的に思う人もいることでしょう。
しかし、果たして本当に悲観すべきことでしょうか。
むしろ、プラス思考に立って、老後生活を楽しむ一要因にすべきではないでしょうか。
私の祖父は、当時では珍しく80歳まで仕事をしていました。
毎日1時間半の電車通勤には苦労があったようですが、生活にハリがあり、身体も健康そのもので、近所からは「健康で元気な老人」と評判でした。
また、私はかつて関連会社の人と一緒に仕事をする時期がありましたが、その中には70歳まで現場仕事を難なくこなし、第一線で活躍していた人がいました。
体力的に厳しさはあると言っていましたが、その姿はイキイキとしていて、とても充実した様子でした。
そして、先日、マクドナルドのアルバイト員として週4日の仕事に励む93歳の老人の話がニュースで話題になっていました。
その老人は、やり甲斐を持って充実した日々を送っている旨を語り、採用している店舗の店長は、その老人を無くてはならないスタッフとして重要視しているとのことでした。
これらの例を見て分かるように、仕事は単なる収入を得る手段だけではありません。
老後の生活にメリハリをつけてくれ、健康的で充実した日々を作ってもくれるものです。
他にも、ボケ防止や孤独の回避、体力維持など色々なメリットもあります。
老後の就労は、老後生活をより良くしてくれる要因を持っているとのプラス思考を持ちたいものです。
できる仕事は限られるが可能性は広げられる
ここまで読んで、
「実際は、高齢者の求人は殆どない」
とか、
「何だかんだ言っても、年を取ると体力が続かない」
などと思った人もいると思います。
確かにそれは事実です。高齢者の求人は少ないですし、どうしても体力的な限界はあります。
しかし、現役時代と同じような就労形態をとる必要は全くありません。
好きな時に好きなことをするというスタンスに立って、生活費の足しにできればいいと考える方が無理がないでしょう。
老後の趣味の延長として就労を考えるのも悪くないでしょう。
もし、趣味を仕事にできたならば、老後を充実できること間違いありません。
高齢化社会が進む中、シニア向けの仕事や、高齢者に特化した求人も増えています。
アルバイトやパートであれば、選ぶ範囲は更に広がります。
簡単な内職であれば、手軽にできるものも多いでしょう。
可能性を挙げるならば、まだまだ色々な方法があります。
晩年に農業を始める
思い切って起業する
予め副業を始めておく
今やインターネットを利用するだけで、簡単な仕事なら誰でもできる時代です。
確かにやれる仕事は限られますが、可能性としては広げていける要素を持っています。
また、それがどんな仕事であっても、少なからず年金の不足分を補うことはできるハズです。
また、貯金が減っていくペースを抑えることもできるでしょう。
たとえ十分な就労ができず、僅かな収入であったとしても、収入があるだけで気持ちの面でもゆとりが持て、健康的で充実した老後生活の助けになるのです。
老後だからこそ仕事。むしろ、こういう思考に立っていきたいものですね。
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生活レベルを見つめ直すことも必要
そして、老後生活を迎えるに当たって、絶対に忘れてはいけないことは、生活レベルの見直しです。
老後生活は、現役時代よりも経済的に厳しくなるのが一般的です。
多くの人は、給与収入から年金収入へ変わり、その差額はとても大きいものです。
そして、その差額こそが老後のための貯蓄を月々減らしてゆく直接的な要因となります。
だからこそ、長い現役時代の中で無意識に定着してきた生活レベルを見直して、その差額を縮めることが非常に重要と言えます。
ここで言う生活レベルとは、表現を変えれば金銭感覚のことです。
「金銭感覚の不変」は、老後破産のひとつの大きな原因にもなっているくらいですから、その重要さが分かると思います。
慣れた生活や定着した習慣は、なかなか変えられないものですが、強く意識すれば「金銭感覚」は変えられます。
年を取れば、食は細くなりますから、本来、食料費は減らせるハズです。
老化に伴って活動量が減りますから、交通費や交際費、レジャー費などは少なくて済むはずです。
住宅ローンを完済していれば、その負担は無くなっているハズです。
確かに年を取れば、老化に伴う通院費や治療費などはかさむ傾向にありますが、その一方で減らせる要因も多くあるのです。
贅沢をプチ贅沢に変え、費やすところと抑えるべきところのメリハリを付けるだけでも大違いです。
生活レベル・金銭感覚を見つめなおし、少しでも貯金に頼らない生活スタイルにして行きたいものです。
結局は全ての収支を考えて計画し、余裕を持つべき
さて、最後になりますが、老後の貯金については計画的な目標額を設定することが重要です。
老後の貯金について固定観念を持つことは良くありませんが、必要となるであろう貯金額を具体的に試算・検討することは大切なのです。
先に述べたように、「老後の貯金は2000万円は必要」などのフレーズはあくまで一般論であり、典型的な数値です。
一人ひとり生活が異なりますから、収支も異なります。
漠然とした2000万円などではなく、あなたの実際の老後生活に合わせた貯金計画をするべきです。
これは何も老後に限ったことではなく、現役時代に家計簿を付けてやりくりすることと基本的には変わりありません。
収支の内容が現役時代と老後とで違うだけで、全ての収支を考えて計画的な家計設計が大切なことは変わりないのです。
具体的に何を考えて良いのか分からない人には、下記の記事がとても役立つと思います。
この記事は、老後破産の要因となり得る要素を一つ一つ細かく説明していますので、現役時代から老後生活に移行するに当たって、その収支の変化を詳しく分析するのに便利です。
もし、本格的に計画を立てたいのであれば、やはりプロの力を借りるのが一番です。
定年後の設計に関する相談会などでは、老後のリスクを回避するためのノウハウを提供していますから利用すると役立ちます。まずは色々とある無料講座を探して試してみるのもいいでしょう。
素人では分からないところや気を付けるべき要点など、専門家だからこそ持っている情報は、ぜひ有効活用したいものです。
あなたが歩む老後の人生は、あなた自身が細かく綿密に計画すべきものです。
「老後の貯金は2000万円は必要」などのフレーズに惑わされることなく、自身の生活に合った現実的な計画を立て、老後クライシスを避けた、ゆとりある老後生活を送って行きたいものです。