私が勤務する職場で、以前、建屋の移動があって、レイアウトの変更を伴う、大規模な工事を行ったことがありました。
その際、事務室や会議室、洗面場、更衣室や作業室など、フロアー全体のレイアウトを検討したのですが、工事業者との打合せの際に出てきたのが、建築基準法や消防法などの法律による制限や制約の話でした。
建築関係は素人なので、当時は、
「何かと細かい法律があるものだなぁ」
と思ったものですが、今、振り返って考えてみると、建築物はもちろんのこと、世の中にある製品などは、関連する法的な基準があり、これらの基準に照らしあわせてみると、何かおもしろい物が見えてくるものだと感じます。
携わった工事
私が業務上、建屋の工事のレイアウト変更に携わったのは、もう数年前の話になります。
当時、建屋の取り壊しに伴い、別な建屋に移ることになり、新たな場所のレイアウトを考えることになったのです。
私が担当したのは、私が所属する部署のフロアー全体のうち、私が管理するチームの作業室についてだったのですが、机や椅子、棚や作業台の配置だけでなく、建物のパーティションそのものについても検討対象となっていました。
従って、ドアの位置や窓の配置はもちろんのこと、隣接する部屋との調整なども必要で、建築・工事について素人であった私にとっては、初めてのことで戸惑うことも多々ありました。
工事業者の指摘
レイアウト案を検討する中に、定期的に工事業者との打合せが行われていましたが、そんなある打合せの席で、私が担当する作業室の1つについて、その部屋の大きさが100平方メートルを超えているため、排煙装置が必要になるとの指摘が出てきました。
これは消防法の規定で、
「外壁の窓に面していない100平方メートル以上の部屋には、排煙装置の設置が必要」
との制限があるためでしたが、排煙装置を設置するには、1台当たり数百万円必要とのことでしたので、予算の都合もあって、どうするかの議論がされました。
その結果、隣接する別な作業室と調整を図って、いずれの作業室も100 平方メートルを越えないような間取りにすることに決定し、レイアウトの大幅な変更となったのでした。
実際の変更内容は、100平方メートルを越えてしまった作業室の什器類の一部を、隣接する別な作業室へ移すことにして、その部屋の面積を97 平方メートルに縮めることで、消防法の制限をクリアしたのでした。
もう1つの指摘
ところで、その当時、もう一つ指摘対象にあがった面白い話がありました。
それは、建屋の中に人が移動する通路があったのですが、通路の一部の幅が120cmを切ってしまうため、やはり、
「通路として確保すべき幅を満たさない」
との理由で、消防法に引っ掛かるとの話でした。
建屋の構造上、通路の幅を120cm 確保するのは困難でしたので、幅を広げることはせず、打開策として採った方法が、法律上「通路」に該当しない構造にする、というものでした。
つまり、素人が見れば構造上は通路なのですが、法律上は部屋として扱うことができるような構造にして、消防法に引っ掛からないようにしたのです。
これら指摘された2点は、もちろん、合法的な措置なので違法にはなりませんが、当時、法律上の制限って色々あるものだと感じると同時に、法的な制限をパスするためには、色々なことをするものだなぁと思ったものでした。
振り返って思うこと
さて、当時は業務上で必要に迫られたことから、職務を全うするために坦々と遂行していましたので、建築基準法や消防法など、法律や基準などについて、深く考えることはありませんでした。
今、改めて考えると、建築物に限らず、世の中には安全上や環境上など、色々な規制や制限、基準のようなものが無数あって、必要に応じて法律で厳しく定められていますが、ほとんどの製品は、これらの基準をクリアすることを念頭に設計開発されているので、その背景を探ると、新たに見えてくるものがあると感じます。
分かりやすい例でいえば、軽自動車に分類される車両は、排気量が660ccを越えず、且つ、車体のサイズが一定の大きさ以下であるなどの明確な基準がありますが、実際に販売されて市場に出回っている車両は、トルク性能や居住性能をアピールするために、その基準ぎりぎりで設計されているものがほとんどです。
つまり、何か製品がある場合、関連する規制や基準があったりするものですから、それらの基準に照らし合わせて製品を見ると、何かおもしろい発見ができるかも知れないということです。
そんなことを考えながら身の回りに目をやると、JISマークが付いている文具品や、VCCIマークのあるマウス、特保マークのある飲料水など、法や基準に関係する、いろいろな物が至る所にあるものだと感じました。
意識しないと気付かない、法律や規制、基準など、意識して見てみると、新たな発見があるかも知れませんね。