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日本が後進国へ転落する理由を数値で見る(6)教育環境は悲惨そのもの

ソフトバンクグループの孫正義社長の「日本は後進国」発言を受けて、日本を後進国と呼ぶべきかどうかを数値で見て来ましたが、それも6回目になります。

前回(第5回)は、相対的貧困率に関して見てきましたが、今回は、教育に対する公的支出のGDP比についてその数値を追ってみることにします。

日本の教育に対する公的支出のGDP比はどうか?

教育に対する公的支出のGDP比

「教育に対する公的支出のGDP比」は、その言葉の通り、教育に関して費やされる公的な支出がGDPに対して何パーセントを占めているかを表した数値です。

従って、その国家がどれだけ教育に重点を置いているかが表れますし、それは教育水準ともつながって来ると言えます。

国力があればその分だけ教育に費やすことができる支出は増えますが、国が豊かでなければその分だけ教育に費やすゆとりは無くなるでしょうから、国力や豊かさを表す指標のひとつとの見方もできるでしょう。

ただし、実際にはGDPに対する比率ですから、絶対額ではないことや、人口の占める若年層の割合にも影響を受けることを頭に入れて数値を見る必要があるでしょう。

孫社長の「日本は後進国」発言では、「教育に対する公的支出のGDP比は43カ国中40位」(OECD)というものですから、順位としてかなり後ろに位置するといえます。

この表現だけを見れば、「え゛っ?こんな最下位に近いの」と驚く人も多いかも知れません。

日本の教育水準ってこんなものなの?
これなら後進国と言うべきじゃない?

そんな声も聞こえてくるくらいですね。

国際的なランク

それでは、実際の数値を見てみましょう。

数値の出典もとは、OECDが公開しているPublic spending on educationというデータ(https://data.oecd.org/eduresource/public-spending-on-education.htm)です。

ちなみにOECDでは、この数値は

教育における公的支出で、直接的な教育機関への費用だけでなく、家庭に与えられる教育機関が管理する教育関係の公的な補助金も含む

と説明しています。

まず最初は、孫社長の発言にあったそのままのデータを見ましょう。

OECDのデータは毎年そろっている訳ではありませんので、実際は2016年及び2015年と2014年に得た統計データで比較しています。(縦軸はGDPに対する比率[%]です)

教育に対する公的支出のGDP比(小中学校)

どうでしょうか。まさに孫社長の言う通り、43か国中40位です。

グラフをパッと見ると、本当に後ろの方に位置しているのがよく分かります。しかも日本の数値は2.479[%]となっていて、43か国の平均3.26[%]と比較しても、落第生って感じですね。

一応、GDPは世界3位ですから、絶対的な金額としては上位の国よりも多いのでしょうが、物価を考え実質的な負担を考えると、日本は教育費用の家庭の負担が大きいと言わざるを得ないのではないでしょうか。

ちなみに上記は小学校や中学校などの基本的な教育に対する数値です。高等教育に対する比率は別なデータとして公開されていますので、そちらを見てみましょう。

教育に対する公的支出のGDP比(高等教育)

どうでしょう。ゾッとするような思いを抱いた人もいるかも知れません。ここまで日本は低レベルなのです。

43か国中においてダントツのビリです。43位です。

これでは、義務教育を終えたら仕事をするのが当たり前だった戦前のような状態とでも言うような感じですね。

日本の教育は、若い世代はどうなってしまうのか…。不安を覚えます。

これらの背景には、少子化が進んで教育を受ける世代の人口比率が小さくなっていることや、公費を高齢化のために使わなければならない状況が影響しているのでしょう。

GDPが伸びずに景気が低迷しているのももちろん関係ありますが…。

この数値は日本の少子高齢化の深刻さが表れていると言っても過言ではないのではないでしょうか。高齢化の問題については下記に関連記事がありますので、興味のある方はどうぞ。

日本の近年の変化

さて、国際ランクを見て来ましたが、日本のGDP比が近年どのように変化して来たのかが気になるところです。

増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか、ちょっと興味が湧くところでもあります。

さっそくグラフを見てみましょう。

教育に対する公的支出のGDP比率の変化(小中学校)

グラフは2000年からの変化で、ちょろちょろ値は変化していますが、総じて言えば2.5[%]辺りを動いています。つまり、ほとんど変化していないと言えます。

高等教育についても見てみましょう。

教育に対する公的支出のGDP比の変化(高等教育)

これもほぼ同じような傾向で、ほとんど変化していないと言っていいでしょう。要はデータのバラつき程度で、増加傾向とも減少傾向とも言えませんね。良くも悪くもなっていないということです。

見方を変えればGDPはほぼ横ばいであるにも関わらず、少子化が徐々に進んでいるということは、結果として教育への投資は改善しているとも見えるかも知れません。

しかし、国際的に低水準であることは否めないのも事実でしょう。

ここで、どうしても忘れてはいけないことは、これらは毎年増加する国債発行が背景にあり、年々国家財政が悪化しつつある中で出てきた数値だということです。

数年前、イギリス政府が高等教育に対する補助金制度の廃止を進める政策を採り、一部の学生などが暴動を起こしたというニュースが報道されていました。

これはイギリスの国家財政を健全化するという、国政にあるものならば最重要視すべき課題があったからで、それを考えれば仕方のないことでしょう。

結果として、イギリスの教育に対する公的支出のGDP比は低くなっていますが、それでも国家財政の健全化という意味では日本より、よほどしっかりしています。

しかし日本は、上記の数値に表れているように、国際的にこれほど低いランクでありながら、肝心な国家財政は悪化する一方で、改善の兆しすら見えません。

もし、財政の健全化を図るならば、教育に対する公的支出は限りなく0に近づくのではないでしょう。

過去のランク

では話をもとに戻して、過去における世界のランクを見てみましょう。

OECDのデータは、最も古いデータが2000年でしたので、この時のデータで比較します。この時のデータがあるのは28か国分でした。

先ずは、小中学校に関するグラフです。

2000年における教育に対する公的支出のGDP比(小中学生)

図を見て、やはり当時から後ろの方に位置していることが分かります。

対象の数も国も、最近のデータとは異なるので比較が難しいですが、28か国中の22位と43か国中の40位を22/28(=0.786)、40/43(=0.930)という数値にして比較すると、ランクが後退していると判断できます。

実際に2000年当時に日本より下位に位置していた国家は、ロシア、トルコ、ギリシア、チェコ、ブラジル、スロバキアの6か国でしたが、最新のデータではこのうち4か国(トルコ、ギリシア、ブラジル、スロバキア)が日本を抜いています。

最新のデータで日本より下位に位置する国は、当時から下位に位置していたロシアとチェコに加えて、当時は統計データが無かったリトアニアの3か国だけです。

最下位になるのは時間の問題といっても過言では無いかも知れません。

次に、高等教育の場合を見てみましょう。

2000年における教育に対する公的支出のGDP比率(高等教育)

2000年は30カ国のデータしかありませんが、30か国中27位です。まだ最下位では無かったのですが、最近は当時下位にいたチリ、ロシア、韓国にも大きく抜かれてビリになってしまいました。

教育費用や進学費用に苦しむという実態が、昨今ニュースでさかんに報道されていますが、上記のグラフとつき合わせてみるとこの問題がより深刻に迫ってきます。

日本は後進国だと言われる理由が何か実感を持てました。将来の日本に対して不安を覚えるものです。

まとめ

以上、日本の教育に対する公的支出のGDP比を色々と見て来ました。

これらをまとめると下記の通りです。

  • 単純な数値比較だと世界的に極めて低水準である
  • 少しずつではあるが悪化している傾向がある
  • 高等教育についてはより深刻で大きな問題でもある
  • 後進国と言われても言い返せるような状況ではない

教育に対する公的支出のGDP比は、未来のある若者に対する消費という見方をすると、日本の将来に暗い影を感じます。

これでも先進国なのかという見方をすれば、やはり後進国と呼ばれても仕方がない感じがします。

少子高齢化が進む中、教育への投資も行き詰っていることを考えると、日本の未来のためにも早く改善しなければとの思いが湧いてきます。

次回(第7回)は、年金の所得代替率についての数値を追って行きます。

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