測定と計測の違いは、分かったようで分からない難しさがあります。
また、他にも計量や測量という言葉があるだけでなく、計る・測る・量るなど、これらと似たような言葉はたくさんあります。
ここでは、一般的な日本語として、産業用の専門用語として、語源が持つ意味としてなど様々な角度からの説明に加え、実例も含めた使い分けについても細かく解説します。
目次
一般的な日本語として
測定と計測の違い
測定・計測の意味の違いを知るために、国語辞典をいろいろ調べても、表現の違いがあるだけで大きな差はありません。
単に、通常の日本語の言葉として見た場合、実は測定も計測も「物理量などをはかる」と言うほぼ同じ意味になります。
本来は別な言葉ですからその趣は異なり、意味も微妙に違って来るはずですが、現実にはほとんど区別なく使われています。
簡単に言えば、言葉として曖昧で、その違いをハッキリ示すのは困難です。
測定と計測の意味の違いは、あくまで後述する専門用語として見た場合にのみ、その差がハッキリしてくるのです。
計量や測量は何が違う
測定や計測と似た言葉に、計量や測量があります。
計量や測量は、測定や計測と異なり、「一般に、何かの物理量」をはかるのではなく、はかる対象が決まっています。
計量は、重量や分量など物の量をはかることを言います。
一方、測量は、地表上の位置や形状、面積などを精密にはかることを言います。
計量の場合、測量した結果を図示することやその理論や技術を含んだ意味としても使われます。「土地を測量する」といった表現はとてもよく使われます。
他にも、秤量(しょうりょう・ひょうりょう)という類語がありますが、これは称量(しょうりょう)とも書き、はかりにかけて重量をはかることを意味します。
計る・測る・量るなどの違いは
ところで、物理量などをはかる言葉としては、計測や測定などの他に、計る・測る・量るなどもあります。
それぞれ漢字が異なりますので、意味合いも異なります。
計るは、「数をかぞえる」ことを意味して、数量や時間などをはかる場合に用います。
測るは、定規など「何かの基準をもとに」はかることを意味して、長さや面積、深さ、温度、角度をはかる場合など、幅広く用います。
量るは、「分量」をはかることを意味して、重さ、容積、大きさ、かさをはかる場合に用います。
これら3つの「はかる」は、物理量などをはかる意味から転じて、別な意味でも使われています。
「計り知れない貢献」
「真意を測る」
「相手の気持ちを量る」
などの表現がその一例です。
そして、物理量などをはかる意味は持ちませんが、「はかる」と言う読み方をする漢字には他にも「図る」「諮る」「謀る」などがあります。
図るは、手だてを検討する、工夫して努力する、とりはからうなどの意味があり、「再起を図る」「便宜を図る」のように使います。
諮るは、相談する、意見を求めるなどの意味があり、「関係者に諮って決定する」「会議に諮って結論を出す」のように使います。
謀るは、実現を企てる、たばかる・たくらむなどの意味があり、「悪事を謀る」「まんまと謀られてしまった」のように使います。
このように「はかる」と読む言葉(動詞)はいくつもあり、上記の様に使い分けます。
しかし、日常で使う場合、「計る」の代わりに「図る」を使うなど、別な漢字を使える場合も少なくありません。
これは、「見る」の代わりに「観る」を用いたり、「聞く」の代わりに「聴く」を使用したりするのと同様です。
実際、物理量などをはかる言葉としては、計る・測る・量るのいずれを使用しても構わないケースも多くあります。
産業用の専門用語として
さて、測定や計測は、科学や産業などの分野で広く使われる言葉ですから、言葉が曖昧だと不都合を生じます。
従って、JIS(日本産業規格、旧呼称:日本工業規格)では明確にこれらを産業用の専門用語として定義しています。
「JIS Z 8103:2019 計測用語」には、測定、計測、計量の3つの用語を、それぞれ下記のように定義しています。
測定については、
ある量をそれと同じ種類の量の測定単位と比較して,その量の値を実験的に得るプロセス
次に計測については、
特定の目的をもって,測定の方法及び手段を考究し,実施し,その結果を用いて所期の目的を達成させること
更に計量については、
公的に取り決めた測定標準を基礎とする測定
のようにそれぞれ明確に定義していますが、測量については、用語としては明確に定義していません。
しかし、JIS B7912には測量機器の現場試験手順が定められていて、上記の日本語の言葉としての意味「地表上の位置や形状、面積などを精密にはかること」として使われています。
これらのJISの定義から、測定は「単なる量の値を得る操作そのもの」を指しているのに対して、計測は「測手の方法・手段の考究から、実際に測定して結果を導き出し、特定の目的を達成するところまでを含んだ意味」であることが分かります。
要するに、測定は、物理量などの大きさを計器などを用いて量的に知る操作そのものを意味し、その結果は通常、数値と単位で表わします。
一方、計測は、ある目的のために種々の数量的状態を求めることをも意味し、その中にはある物理量などをはかる測定のことも含んでいます。
そして計量についてですが、これは計量法及びそれに関連した規格や標準で定めるところの測定と言う意味です。
単なる一般の日本語としての計量は、重量や分量などをはかることを意味しますが、JISでは、長さ、時間、電流、温度、光度、角度、面積、角速度、速さ、周波数、圧力、粘度、熱量、電圧、インピーダンスなどを始め、非常に多くの量が対象となります。
なお、計る・測る・量るなどは、専門的な言葉ではありませんので、JISなどでは特に用語として定義していません。
<PR>
語源が持つ意味として
以上のように、測定などの言葉は専門用語としては、はっきりと言葉の意味が定義されているため分かりやすくなっています。
しかし、一般的に使われる、計る・測る・量るなどの言葉は曖昧で、細かな区別もされないことが多くあります。
そこで、微妙な意味やニュアンスの違いを理解するためには、語源を見るのが一番分かりやすいですから、漢字の意味を語源から解説します。
漢字の意味から
計る・測る・量るは、いずれも「はかる」と読み、同じような意味で使われますが、もとの漢字である「計」・「測」・「量」は全く別な語源を持ちます。
計は、「言」と「十」の2つの字を組み合わせて作った会意文字です。
このうち、「十」は「多くを一本に集める」意味を持っていることから、「計」は多くの物事や数を一本に集めて考えることを意味します。
つまり、「計る」は「数える」という意味が背景にあります。
測は、「則」にさんずいが加わった字です。
「則」は、「鼎(かなえ)」と「刀」の2つの字を組み合わせて作った会意文字ですが、このうち、「鼎」は古代中国の器の一つで、「刀」はここでは食用ナイフのことですから、食器のそばにナイフをくっつけて置く意味があります。
そして「則」は、「そばにくっついて離れえない基準や法則の意味」も持ち、これにさんずいが加わった(水+則)測は、基準となる物差しなどをそばにつけて、水の深さをはかることを意味します。
つまり、「測る」は、定規など基準となるものを用いてはかる意味があります。
量は、「穀物の印」と「重」の2つを合わせて作った会意文字です。
従って当初は、穀物の重さを天びんではかることを意味していましたが、穀物などの粉状の物質は、はかりやますのどちらでも量ることができることから、分量の意味を持つようになりました。
つまり、「量る」には、重さ、容積、かさなどの分量をはかる意味があります。
「計」・「測」・「量」の語源が分かったところで、測定、計測、計量、測量についても、語源から見て行きましょう。
測定は、基準となるものを用いて量を定めること
計測は、基準となるものを用いて量を数えること
計量は、分量をかぞえること
測量は、分量を基準となるものを用いてはかること
語源から見ると、4つの熟語はそれぞれ上記の様になりますが、現代では語源から大きく変化した意味で使われるようになっているのが現実です。
他にもたくさんある
以上のように、「はかる」の意味を持つ漢字の語源を見ると、微妙なニュアンスの違いがよく分かります。
しかし、実は「はかる」と読んで、物理量などをはかる意味を持つ漢字は他にもまだまだたくさんあります。
これらは、いずれも意読と言われる常用外の読み方ではありますが、いずれも「る」の送り仮名を伴って、計る・測る・量るなどに近い意味を持ちます。
代表的なものには、度、衡、寸、秤、程、料などがあり、それぞれ度る、衡る、寸る、秤る、程る、料るのように送り仮名をつけて、いずれも「はかる」と読みます。
これ以外にも、まだまだ多くありますが、ここではこれら代表的な漢字についてのみ説明します。。
度は、「又(て)」と「庶の略体」が組み合わさった文字です。これは尺と同じで、手尺を数えて長さをはかることを意味します。
衡は、「角(つの」と「大」と「行」が組み合わさった文字です。
もとは牛の大きな角にまっすぐの棒を横に取り付けて、人に怪我をさせないようにしたものを意味していました。横に取り付けていた棒から転じて、はかりの横棒のことを意味するようになりました。
寸は、手の形から生まれた会意文字で、一寸は指一本の幅である2.5cmを表します。基準となる長さであることから「はかる」という意読を持ちます。
秤は、「禾(作物)」と「平」が組み合わさった文字です。つまり秤は、はかりの棒を平らにして穀物の重さをはかることを意味します。
程は、「禾」と「呈」が組み合わさった文字です。
「呈」は本来は人間のすねを表しますが、一定の長さを持つ短い直線の意味も持っています。
「禾」と「呈」で作られる程は、禾本(かほん)科の植物の穂の長さを表しましたが、一定の長さを基準として長さをはかることからはかる意味を持つようになりました。
料は、「米」と「斗(ます)」が組み合わさって生まれた会意文字です。穀物をマスに落としてかさをはかることを意味することから、穀物や液体などの分量をはかる意味を持ちます。
いずれも、普段は使い慣れない言葉ですが、「はかる」意味を持つ漢字はたくさんあるのです。
ちなみに、これらの漢字を用いた言葉のひとつに、長さと容積と質量を意味する度量衡(どりょうこう)がありますが、これは語源がそのまま表れた言葉と言えます。
実例や使い分け
測定や計測などの二字熟語の場合、専門用語として使うのであれば、その用語の定義に従って使い分ければ済みます。
また、一般の言葉として使う場合は、上記の日本語の意味に従って使い分ければ大きな問題はありません。
計る・測る・量るなどは、広い意味では「はかる」という共通の意味がありますから、それほど神経質になる必要はありません。
とは言え実際は、最も適した使い分け方がありますので、参考のためにいくつか実例をあげておきます。
<計る>
時間を計る、タイムを計る、
<測る>
距離を測る、高さを測る、体温を測る、仰角を測る、坪数を測る、速度を測る、圧力を測る、電圧を測る、周波数を測る
<量る>
体重を量る、容積を量る、分量を量る、体積を量る、
このように、計るは個数や時間をはかる場合、量るは重さ、体積、容積などをはかる場合に使用し、それ以外のほとんどは測るを用いることが分かります。
言葉の意味を理解して、しっかりと使い分けられるようにしたいですね。
あわせて読みたい意外と知らないアナログメータの正確な読み取り方