「形から入る」という言葉を耳にすることがよくあります。
決して難しい言葉ではないのですが、どこか分かったような分からないような感じが残る人も多いと思います。
そこで、この記事では「形から入る」という表現の意味を、詳しく説明することにしました。
類似の句や諺(ことわざ)、反対の意味を持つ言葉についても例をあげて詳しく解説します。
目次
「形から入る」は、辞書に載っていない?!
身近な人が「形から入る」と言っていると、「いったい、どんな意味なんだろう?」と疑問が湧く人もいるでしょう。
そんな時、国語辞書を引くと思いますが、いくら調べても「形から入る」などは掲載されていません。
試しに「形」や「入る」などの言葉を調べてみても、何ら関連ある説明は見当たりません。
気になって、ことわざ辞典などを見ても、やはり「形から入る」はありません。
だからなおさら、「いったいどんな意味?!」と頸をかしげてしまう訳です。
実は、「形から入る」が一般の辞書に掲載されていない理由は、わりと最近使われるようになった言葉だからです。
逆に言えば、ようやく広く使われるようになって来たものの、まだまだ定着していない新しいフレーズと言えます。
「形から入る」とはどんな意味
では、「形から入る」の意味はなんでしょう。
よくよく調べると、掲載している辞書もあります。
weblio国語辞典(https://www.weblio.jp/)で「形から入る」を引くと、実用日本語表現辞典に下記のような説明が出てきます。
物事にあらたに取り組む際に、その意義や内容よりも、外見や格好、活動自体を主眼において取り組み始めること。本質的な意義を蔑ろにして体裁を繕う、といった意味合いを込めて用いられる場合も多い。
これは、「形から入る」を的確に表現した、とても分かりやすい説明と言えます。
上記で、「物事にあらたに取り組む」の「物事」とは、仕事や趣味、スポーツなど、ありとあらゆる物事が対象となります。
文中で、「外見や格好、活動自体」の部分は「形から入る」の「形」に相当し、「主眼において取り組み始める」の部分が「形から入る」の「から入る」に相当します。
そして、「取り組み始める」その先には、まだ結果に至らない「意義や内容」が存在することになります。
「形から入る」を端的に表現すれば、「実質はさておき、まず形式を整える」という意味です。
通常これは、「まず形式を整えてから、そのあとに実質を求めて行く」と解釈されます。
しかし、同じ「形から入る」という表現でも、「まず形式を整えるけど、実質は考えない」という意味でも使われます。
この「まず形式を整えるけど、実質は考えない」が、上記の「本質的な意義を蔑ろにして体裁を繕う」に相当します。
”やっている感を出すための行動”などでは、後者の「まず形式を整えるけど、実質は考えない」のような場合が多く見られます。
本来の字から見た意味は
さて、「形から入る」の実用的な意味はだいたい理解して貰えたと思います。
しかし、「形から入る」という本来の言葉の意味とのつながりがしっくりこない人もいるでしょう。
そこで、本来の字から見た意味をもう少し深く考えてみます。
そもそも「形から入る」という言葉は、「形」「から」「入る」の3つの単語で形成されますので、単語ごとに見てみます。
まず、最初の「形」ですが、この漢字には「外にあらわれた姿」という意味があります。
つまり、外から見た姿、格好、外形、状態、形態、外観、形状、形式、有様などですが、そこから転じて体裁や名目という意味合いも持ち合わせています。
次に「から」ですが、これは名詞や連体形の後に付く格助詞で、動作や行動、行いを開始する順序を示します。
例えば「前の人から順番に入場」と言えば、「『前の人』が先に」の意味ですから、「〇〇から」と表現すれば「『〇〇』が先に」と言う意味になります。
つまり、「形から」と言えば、「『形』が先」という意味です。
最後に「入る」ですが、これは、ある場所に入る、加入する、参加する、仕えるなど非常に多くの意味を持つため解釈が難しいと思います。
しかし、ここで言う「入る」は、ある状態に至る、ある地点に到達するという意味から転じた「取り組む」の意が妥当な解釈です。
これを別な言葉で表現すれば、「手掛ける」、「推し進める」、「行動を取る」、「事に当たる」、「着手する」、「手を出す」などが当てはまります。
以上のことを元に、「形から入る」を本来の字の意味を元に端的に表現すると、”形式から先に手掛ける”のような意味になることが分かります。
「形から入る」と類似の句には何がある?
ところで、「形から入る」には同義語、同意語、類語があるのではないかと考える人もいると思いますが、ピッタリ同じ意味を持つ言葉はほとんどありません。
しかし、関連する言葉や似た傾向のあるフレーズはけっこうありますので、1つずつ見て行きます。
「形から入る」と似た諺(ことわざ)
まず、幾つか諺(ことわざ)を挙げてみましょう。
ちょっとニュアンスの違う諺も含まれますが、大筋では一致しています。
はやる芝居は外題から(はやるしばいはげだいから)
流行る芝居は、題名からして人気になるような表現をしているものという意味で、内容はともかく、まずは見てくれが良くないといけないたとえ。
外濠を埋める(そとぼりをうめる)
何かを目指す時には、周辺の課題から克服していくたとえ。敵の城を攻め落とすために、外濠を埋めていくことから始めたことからきたことば。
月夜に提灯も外聞(つきよにちょうちんもがいぶん)
月夜が照らす明るい夜には提灯を灯すことは無駄だという意味で、実際は不要にもかかわらず、世間体のためには必要となることもあるたとえ。
麤より細に入る(そよりさいにはいる)
四字熟語では自麤入細(じそにゅうさい)と表現し、大雑把なところから段々と細部へ進んでいくこと。
ちなみに、「形から入る」とは真逆の意味を持つ諺は下記の例のように非常に多くあります。
「花より団子」(はなよりだんご)
「名を捨てて実を取る」(なをすててじつをとる)
「色気より食い気」(いろけよりくいけ)
「華を去り実に就く」(かをさりじつにつく)
「挨拶より円札」(あいさつよりえんさつ)
形式や見て目などよりも、実益や実質、中身を選ぶという意味です。
「形から入る」に近い単語やフレーズ
次に、「形から入る」と似たような単語やフレーズをあげてみます。
「形から入る」は、一種のフレーズなのでピッタリくる言い回しはあまりありません。
敢えてあげれば、胡麻胴乱(ごまどうらん)です。
これは、江戸時代に流行った焼き菓子のことで、中が胴乱のように空洞になっていたことから、外見は良くても内容のないことのたとえとして使われる言葉です。
また、有名無実(ゆうめいむじつ)という言葉もあります。
これは、「名あって実なし」とも読みますが、名ばかりで実質的な中身が無いことを意味します。
更に、看板倒れ(かんばんだおれ)という表現もあります。
これは、見せかけ(看板)だけで、内容が伴っていないことを意味します。
上記以外には、それほどピッタリくる言葉は特にありません。
それは「形から入る」は本来、”中身を後から求める”意味合いを含むからです。
しかし、「形から入る」は、単に”形だけで終わってしまう”ような、「表面的だ」とか「中身を伴わない」などの意味でも使われ、そのような意味合いの言葉ならいくつもあります。(下記)
「上辺のみ」
「見てくれだけ」
「見かけ倒し」
「表面的」
「見せかける」
「形式ばる」
「内容が無い」
「表面的」
「中身が無い」
「有名無実」
「深みが無い」
「空洞的」
「形骸的」
「内劣り」
このように、”中身を後から求める”意味合いを含まない、単に”体裁を繕う”意味の言葉ならたくさんあるのです。
具体的な表現に改めると分かりやすい
ところで、「形から入る」の中の「形」も「入る」も、共に幅広い意味を持ちます。
例えば、単に「形」と言えば、姿、格好、外形、形態、外観、状態、態度、輪郭などなど、非常に多くの概念を持ちます。
「入る」も、ごくごく一般的な動詞であるため多くの意味・ニュアンスを備えています。
結果として、「形から入る」という表現は、自然と幅広い意味を表す表現となるのです。
つまり、表現としてはとても曖昧にならざるを得ず、逆に言えば、もう少し具体的な言葉に変えてみると分かりやすくなります。
例えば、具体的な言葉には下記のような言い回しがあります。
「形式から始める」
「まず外観を良くする」
「とりあえず見た目を整える」
「先に環境を整備する」
「まずは形態を重視する」
「表面的なことから始める」
「ともかく体裁を繕う」
「まずは格好よくする」
「第一に外形改善から着手する」
「とにかく外見を改良する」
「最初に見映えを正す」
「手始めに見てくれを整備する
「何はさておき形式的なことから手掛ける」
上記の表現の方が、「形から入る」よりも少し分かりやすくなっています。
但し、これらはあくまで表現を改めただけなので、実際のシーンにおける言葉としては、まだまだ具体性に欠けます。
実際に使われるシーンを考えてみる必要があります。
色々なシーンで使われる
実際のシーンでは、更に具体的な表現の方が適している場合が多くあります。
一般に「形から入る」という表現は、趣味やスポーツを対象に使うと考えている人が多いようです。
しかし、仕事や勉強などありとあらゆる物事に対して使います。
具体的な例を挙げてみましょう。
テニスを始めようとする人が、「形から入る」と言う場合を考えてみましょう。
そもそも、テニスを始めるからには「プレイできるようになって上達する」などが実質的な目指す内容となります。
従って、「形から入る」とは、上達には直結しない形式的な部分ではあるけど、テニスを始める”第一歩として着手する何か”を指します。
例えば、「立派なテニスラケットやテニスシューズを購入する」ことを指して「形から入る」と言えます。
また、「テニスの入門書を読み始める」ことも「形から入る」ひとつの方法です。
更に、「テニス教室に入会する」ことも「形から入る」と言えるでしょう。
これらはいずれも、テニスの上達には直結しないものの、テニスを始めるための環境づくりの第一歩になるので「形から入る」と表現できるのです。
別のシーンでも同じです。
趣味として茶道を始める人が、
「茶道の入門書を入手する」のも、
「茶道の道具を揃える」のも、
「茶道教室に入る」のも
全て「形から入る」と言えます。
いずれも「茶道を極める」という本筋とは少し違うところから取り組み始めるからですね。
また、受験勉強に臨む学生が、
「とりあえず塾に通い始める」とか、
「ひと通り参考書を買い揃える」とか、
「勉強机の周辺を整理整頓する」とか
も全て「形から入る」ことになります。
いずれも、実質的な学力向上に直ぐにつながらないからですね。
そして、「形から入る」という言い方は、仕事上でもしばしば使います。
ある企業で、新規事業を立ち上げる場合、実質的に目指すところが「新規事業を軌道に乗せる」ことだとすると、
「はじめに組織体制を整える」
「とりあえず予算枠を確保する」
「まずは事業計画を立てる」
などは、いずれも「形から入る」姿と言えます。
このように、「形から入る」は、対象とする物事が何であるか(シーンが何か)、また実質的に目指す内容が何であるかによって変わりますが、第一歩として取り組むアプローチの仕方によっても変わってきます。
つまり、「形から入る」が意味するところは、ケースバイケースで大きく変わるのです。
これは、「形から入る」を英語や中国語などの外国語に翻訳することを考えるとよく分かります。
もし、日本語の「形」に相当する言葉を無理やりその外国語の”形”という言葉に置き換えると、直訳的な表現になって意味がよく伝わりません。
ところが、実際のシーンを考えた具体的な表現(例えば、「勉強机の周辺を整理整頓する」など)に置き換えた上で訳せば、はるかに意味が伝わりやすくなります。
「形から入る」の意味を理解するためには、実際に使われるシーンをしっかり考えることが大切と言えます。