さいたま市から長野市に引っ越して来てから感じることのひとつに、水道代が高いことがあります。
首都圏から長野市に越してきた他の方に話を聞いてみると、やはり、同じ意見で、水道代が高いと言うのです。
そこで、実際にどのように違うのか、調べてみることにしました。
使用実績で比較
まず、実際の我が家の使用実績で、単純な比較をしてみます。
さいたま市で2ヶ月36立方メータ使用した時には、10,336円でしたが、長野市で2ヶ月36立方メータ使用した時は、12,786円でした。
従って、同じ36立方メータを使用した時の差は2,450円になります。
仮に同じ水量を使い続けたとして、2ヶ月で2,450円の差だとすると年間14,700円もの差がでます。
もし、10年住み続ければ147,000円もの差が付くことになりますから、この額は大きいですね。
これだけ大きいと、人口減少の一要因にもなりかねないですよね。
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料金表で比較してみる
さて、ここで水道局が公開している水道料金で比較してみました。
水道料金は、一般に水栓の口径サイズごとに、使用しなくても掛かる基本料金と、使用した水量に応じて掛かかる使用料金が定められています。
一般家庭の口径サイズは13mmか20mm、大きな世帯で25mmと言うのが大半です。
実際に私が引越し前に住んでいたさいたま市の家も、現在の長野市の家も、どちらの口径サイズも20mmで、変わりありませんでした。
実際の水道料金は、基本料金と使用料金の合計になりますが、通常、水道料金は2ヶ月単位で精算されますので、20mm口径の2ヶ月当りの水道料金という形で、比較してみました。
このグラフは、横軸が使用水量[立法メータ]、縦軸が金額[円]です。
長野市地域1と長野市地域2に分けたのは、長野市は上水道が地域によって、県営水道と市営水道に分かれているためです。
長野市地域1の方が市営水道、長野市2の方が県営水道を意味しています。(下水道ついては地域によらず市営水道になっています)
これを見て明らかに違うところは、基本料金がさいたま市より長野市の方が断然高いということです。
ちなみに我が家(長野市地域2)における36立方メータ使用時の差が、少しグラフと異なるのは、市営の水道局が2017年6月に値上げされており、値上げ後の数値をグラフ化したことによります。
料金の逆転現象
特筆すべきは、使用料の単価については長野の方が安いため、ある一定量を超えると料金の逆転現象が起きることです。
長野市地域2の場合は、使用水量が71立方メータを超えると、長野市地域1の場合は、使用水量が87立方メータを超えると、それぞれ、さいたま市の水道料金よりも安くなるのです。
しかし一般家庭でこれほど水を利用することがあるでしょうか。
これは恐らく、長野市は都市部よりも農家が多く、必要に応じて農作物のために水を利用することが多いことが背景にあるのでしょう。
県庁所在地とはいえ、街中は畑や田んぼだらけで、市内の至る所に農業用の用水路が通っています。
しかし、用水路を利用できない場所や干ばつ時には、農作物のための水は相応必要になってきます。
上下水道別では
さて、ここでグラフを上水道、下水道別に見てみましょう。
上下水道、いずれの場合でも基本料金が高くなっていることが分かります。
面白いことに、下水道は使用水量にかかわらず長野の方が高いのですが、上水道の場合は水量が多くなると料金が逆転します。
そして、着目する点は、さいたま市の時は、上水使用量=下水使用量として、計算されていたのですが、ここ長野では上水使用量と下水使用量が別々に測定されて算出されていることです。
これは、上述したように、農家の占める割合が長野市の方がさいたま市に比べて非常に多いことの表れでもあります。
都市部では、上水はほぼ下水として流されるので、上水使用量=下水使用量と計算しても差は殆どありません。
しかし、長野では農業用水に使われることが多いので、上水使用量=下水使用量として計算したのでは、畑等に使用される水の分だけ計算上の下水使用量と実際の下水使用量に差が出てしまう訳です。
以上のように、長野市の水道料金体系は農村型といえるでしょう。
なぜ料金の差が生まれる
さて、ここでそもそも基本料金に、なんでこんなに差が出るのか、との疑問が湧きます。
本件を調べる前に私は、
「農村部ほど川の上流部に位置して、水源の水がきれいであることから、下流部に位置する都市部に比べると、浄水場の設備費用を下げることができるはずなので、水道料金は上流側の地域の方が安くなる」
とのイメージを持っていました。
しかし、この考え方は当てはまらず、水源の水質に関わらず、必要な浄水処理は基本的に同じであるため、設備としては大差は無く、その結果、設備費用もあまり変わらないというのが現実だそうです。
東京23区内等で水道水を飲んだことがある方なら分かると思いますが、正直、あまり飲みたくないですよね。まずいですから。
つまり、浄水設備に差があると言うより、上水道の水質に差が出るということです。
という訳で、浄水場の設備費用に大差がないとすると、浄水場1つ当たりの利用する人口数によって、一人当たりの負担額が決まってくるのです。
都市部は人口が多い、農村部は人口が少ない、よって農村部の方が一人当たりの負担が大きくなる、ってことです。
すごく単純で、分かりやすい理由です。誰しも納得して頂けるのではないでしょうか。
実際の水道料金は世帯単位で徴収される訳ですが、一世帯当たりの平均人数は、都市部よりも農村部の方が多いため、これも基本料金の差を広げている一要因になっているのでしょう。
高い理由を問い合わせてみると
以上、長野市とさいたま市の水道料金の差を分析してみましたが、高い理由が知りたくて、長野県の水道を管轄・管理しているところに問い合わせてみました。
すると、丁寧に書面で回答を頂くことができ、そこには
「日本水道協会の情報をもとにすると、水道料金は全国的にはほぼ平均だ」
という旨の説明がありました。
そして、高額になる要因として、下記の説明が書かれていました。
水道料金につきましては、各水道事業体が置かれている環境などに違いがあり、それぞれ料金水準が異なっております。主な理由としましては、水源や地形などの違いや水道管布設年次、施設整備に要する費用の多寡など給水区域における地理的・歴史的要因に加え、人口密度等による需要構造の違いによる社会的要因があげられます。
とりわけ長野県は、人口密度が低いことや山間地等が多いため、施設の維持管理費等がかさむことで1人当たりに換算してコストが割高になるという事情があり、他県と比べると水道料金が高くなってしまう要因があります。
長野県営水道におきましても、創設当初4つの上水道と35の簡易水道を整備統合し発足した経過があり、発足当時の水道管・施設が老朽化していることや、給水区域に農村地域が多く家屋が点在しており給水人口に比べて送配水管延長が長いこと、給水区域の地形が複雑で標高差が400m以上もあるためポンプ施設や配水池を数多く必要とすることなど、事業をとりまく環境は厳しい状況にあります。
この説明から、料金に影響する主要因としては、地理的・歴史的要因と社会的要因があることが分かります。
このうち、歴史的要因については、時間の経過と共にその影響は小さくなって行くと考えられますから、本質的な要因は地理的な要因と社会的な要因と言えるでしょう。
そしてこれを具体的にまとめると
- 山間部が多く標高差があり家屋が多く点在していて施設に絡む費用が大きい
- 人口密度が低く一人当たり(家庭当たり)に換算したコストが割高になる
の2つが料金を高くしていると言えます。
全国的にどうか
ところで、上記の回答では「全国的にはほぼ平均だ」とのとのことでしたので、本当かどうかが気になり、調べてみることにしました。
ちょうど、週刊ダイヤモンドが2019年に発表した、全国の水道料金の順位付けをした情報がありました。
これは日本全国の1263の事業体について、水道料金を評価して順位付けしたものです。
そこから、本件に関連するところを抜粋すると以下の通りです。(水道料金の安い順)
1位 兵庫県赤穂市 961円(全国最低料金)
31位 長野県諏訪市 1777円(長野県内最低料金)
656位 埼玉県さいたま市 3434円(引越し前の居住地)
796位 長野県長野市 3769円(現在の居住地)
1244位 長野県木島平村 5994円(長野県内最高料金)
1263位 埼玉県寄居町 7695円(全国最高料金)
これを見てわかるように、引越し前のさいたま市は656位、引っ越し後(現在の居住地)の長野市は796位となっていて、その差額はわずかに335円(=3769-3434)でした。2ヶ月でも670円です。
上記の、私の使用実績の差額(2ヶ月で2450円)と比べるとだいぶ違いがありますが、この違いは週刊ダイヤモンドが水道料金を順位付けした際の計算方法の条件(口径サイズや使用水量など)によるものと思われます。
つまり、使用者の契約(口径サイズ)や使用水量の違いによると言えます。
しかし、週刊ダイヤモンドでは総合的な評価・判断をしているのでしょうから、長野市の方がさいたま市よりも高いということに変わりはないでしょう。
また、上記の結果から、長野市は全国的に見れば、水道料金がやや高い方にあることも分かります。1263事業体の中で796番目ですから、ほぼ平均という見方もできない訳ではありませんが…。
さて、ここで注目すべきは、全国の水道料金に大きな開きがある点です。
これは以前、ニュースで話題になったこともありますね。
最も安いのは兵庫県赤穂市で961円、最も高いのは埼玉県寄居町で7695円。
約8倍も違いがあることは驚きです。
私の住んでいる長野県でも、県内で最も安い場合は諏訪市の1777円、最も高い場合は木島平村の5994円。3.3倍以上差があります。同じ県内でありながらも、これだけの差があるってことです。
この順位付けをさらに詳しく見ると分かるのですが、長野県以外の地域でも、同じ都道府県内でありながら、地域が異なればかなりの差があります。
水道料金は、それだけ地域差が顕著だと言えます。
詳細に興味がある方は、週刊ダイヤモンドの記事をご覧ください。
まとめ
以上、長野市の水道料金がなぜ高いかを見てきましたが、その理由を改めてまとめると下記の2つです。
- 標高差や家屋の点在などで水道の施設費用がかかる
- 人口密度が低く家庭当たりの負担額が大きくなる
また、調査した結果から、下記の興味深いことも分かりました。
- 農家の多い農村部では使用水量が多い世帯が有利な料金体系になっている
- 基本料金は、水道設備当りの人口数によって大きく作用される
- 全国的に水道料金の差は大きく、同一都道府県内でもけっこう差がある
引っ越す場合や、転居地を検討される方は、こんなことも考慮してみてはどうでしょう。
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