オシロスコープで使われる「div」は、
波形表示領域内の水平軸や垂直軸におけるひと目盛り
を表します。ここで言う「ひと目盛り」は、格子状(グリッド状)に区分けされた1つのマス目の辺の長さに相当します。(下図①、②)
図のように、「div」はマス目の横方向(上記①)にも、縦方向(上記②)にも、どちらに対しても使います。
「div」は、分割や区切りを意味するdivision(ディビジョン)を略した表現で、「Div」や「DIV」と書かれることもあります。「div」の前にスラッシュ”/”を付けた「/div」の表記は、
格子状に分割された1つのマス目の辺の長さ当たり
であることを示します。単なる”目盛り当たり”と間違った解釈をしてしまうことがよくありますが、あくまで分割されたマス目の辺の長さ当りです。特に、波形を観測しやすくするために、格子内に振られている細かな目盛りと間違えやすいので注意しましょう。(あくまで下図①、②が、divの表す区切り)
オシロスコープは、信号を波形表示させて視覚的に見えるようにした測定器ですが、div(division)という概念を取り入れて表示領域を格子状に分割(通常は、辺が1cmほどの正方形)することで、表示された波形を観測しやすくしています。
波形を観測する時に何divに相当するかを読み取れば、おおよそ何秒であるか(或いは、何ボルトであるか)を容易に算出することができます。一般的なオシロスコープでは、水平軸は10個に分割され、垂直軸は8個に分割されます。
オシロスコープの表示領域において、水平軸は秒[s]を単位とした時間を表わし、垂直軸はボルト[V]を単位とした電圧を表わします。二次元の領域であることから、水平軸はX軸や横軸、垂直軸はY軸や縦軸と呼ぶこともあります。また、水平軸は時間を表すことから時間軸、垂直軸は電圧を表すことから電圧軸と呼称する場合もあります。
水平軸と垂直軸のどちらも、それぞれ波形の周期や電圧に合わせてスケール(倍率)を変更・設定することができますが、スケールを設定する際の倍率の表現に「/div」が使われます。例えば、1V/div、1ms/divと設定されていれば、格子状のマス目の縦横の幅がそれぞれ、1V(1ボルト)、1ms(1ミリ秒)であることを意味します。通常、設定されている水平スケール、垂直スケールの値は、どちらも画面内に表示されます。
水平軸の場合、「SWEEP TIME/DIV」などと表記された水平スケールを調整するつまみを回すことでスケールを変更します。 機種により、この表記は「TIME/DIV」、「SEC/DIV」、「Time/Div」、「Sec/Div」、「Horizontal Scale」など様々ですが、全て意味は同じです。
一般的なオシロスコープでは、
1μs /div | 2μs /div | 5μs /div |
10μs /div | 20μs /div | 50μs /div |
0.1ms/div | 0.2ms/div | 0.5ms/div |
1ms/div | 2ms/div | 5ms/div |
10ms/div | 20ms/div | 50ms/div |
0.1s/div | 0.2s/div | 0.5s/div |
のように、「1-2-5」ステップと呼ばれる、とびとびの値を選んで設定します。
水平スケールの値を、1ms/divに設定すると、格子状のマス目1つの横幅が1ms(1ミリ秒)であることを意味します。
水平スケールが1ms/divに設定されている時に上図のような正弦波(サイン波)が表示された場合、周期(同一波形が繰り返される時間的な間隔)はマス目1つ分なので、
1[ms/div]×1[div]=1[ms]
となります。周波数は周期の逆数ですから、周期が1[ms]の時の周波数は、
1/1[ms]=1/0.001[Hz]=1000[Hz]=1[kHz]
のように、1[kHz]であることが分かります。
ここで、水平スケール1[ms/div]を変更して0.5ms/divにすると、表示される波形は下図のようになります。
波形が変わったように見えますが、水平方向のスケール(縮尺、倍率)が変化しただけで同じ信号を表わしています。上図では、2つのマス目ごとに同じ波形が繰り返されていますので、周期は
0.5[ms/div]×2[div]=1[ms]
となり、同じ周期であることが確認できます。(当然、周波数も同じになる)
一方、垂直軸の場合、「VOLTS/DIV」などと表記された垂直スケールを調整するつまみを回すことでスケールを変更します。 機種により、この表記が「Volts/Div」、「Vertical Scale」などの場合もありますが、意味は同じです。
一般的なオシロスコープでは、
1mV/div | 2mV/div | 5mV/div |
10mV/div | 20mV/div | 50mV/div |
0.1V/div | 0.2V/div | 0.5V/div |
1V/div | 2V/div | 5V/div |
のように、「1-2-5」ステップと呼ばれる、とびとびの値を選んで設定します。
垂直スケールの値を、0.1V/divに設定すると、格子状のマス目1つの縦幅が0.1V(0.1ボルト)であることを意味します。
垂直スケールが0.1V/divに設定されている時に上図のような正弦波(サイン波)が表示された場合、振幅はマス目4つ分なので、
0.1[V/div]×4[div]=0.4[V](=400[mV])
となります。(この電圧は、実効値電圧ではありませんので注意しましょう)
ここで、垂直スケール0.1[V/div]を変更して0.2[V/div]にすると、表示される波形は下図のようになります。
波形が変わったように見えますが、垂直方向のスケール(縮尺、倍率)が変化しただけで同じ信号を表わしています。上図では、振幅はマス目2つ分ですので、
0.2[V/div]×2[div]=0.4[V](=400[mV])
となり、同じ振幅であることが分かります。
このように、水平軸も垂直軸も、どちらもDIV当たりの値でスケールを管理している点で同じです。従って、波形が何DIV分であるかを読み取り、その値にスケールを掛け合わせることで容易に時間や電圧を求めることができます。但し、垂直スケールについては、チャネル毎に個別のスケールを設定する点で、水平スケールとは異なりますので、他のチャネルと間違わないように注意しましょう。
水平スケールも、垂直スケールも選択できる範囲(縮尺・倍率の範囲)はオシロスコープの性能や機種によっても異なりますが、「1-2-5」ステップで設定することは、ほとんどのオシロスコープで共通です。「1-2-5」ステップは、区切りのよい数値で、且つ、1ステップの差がほぼ同じ倍率となるように考えられたアナログオシロスコープの時代に採用された方法ですが、デジタルオシロスコープが主流となった今日でも同じように用いられています。
しかし近年では、デジタル処理技術の発達や半導体の計算処理能力の向上、表示デバイスの発展などにより、「4.98mV/div」のように任意の値を設定できるデジタルオシロスコープも増えています。また、スケール変更用のつまみも、単に「SCALE」とだけ表記される傾向にあります。
DIVは、表示画面を分割することで、視覚的に読み取り易くしたとても便利な仕組みで、時間や電圧の概算量を直ぐに把握できる点でとても役立ちます。カーソル機能を使えば、より正確な測定も可能となりますので、用途に合わせてカーソルを併用するといいでしょう。ただし、厳密な測定をする場合は、オシロスコープが持っている測定機能(振幅測定や周波数測定など多数あり)を利用する方が望ましいでしょう。
ちなみに、スケールの代わりにレンジという呼称を用いる場合がありますが、これは通称名です。レンジは、本来、範囲を表現する用語で、測定器では広く用いられていますが、オシロスコープのスケールの意味で使うのは、本来は、適切とは言えません。但し、実際はよく使われていますので、レンジと言えばスケールのことを指していると解釈すれば問題ありません。