部下や後輩に業務上の指示をしても、ぜんぜんその業務に励むことができない人を見かけます。
業務上の指示内容は、どう見ても筋が通っていて、正しいことを伝えているつもりでいても、こちらの意に反して、全く動こうともしない場合もあります。
そんな姿に直面すると、指示する相手が何かおかしいのでは、とすら思ってしまうこともあります。
しかし、そう思う前に、まず「どんなに正しいことを言っても、正しいだけでは人は動かない」との認識に立つべきです。
「悩む」と「困る」は似ていても違う。まずは、どちらであるかを判断すべき。
それこそ、指示内容が正しい、つまり「理に適っている」、「筋が通っている」、「道理に合っている」のように、たとえ誰も異論を唱える余地がないとしても正しいだけではダメです。
まずは相手が認識すること
そもそも正しいという事実と、指示する相手が正しいと認識するということは別なことです。
たとえ異論を唱える余地がないことでも、相手がそれを正しいと認識できるとは限りません。
自分が認識することを、相手も同じように認識するとは限らないのです。
もしかしたら「誰が見ても異論の余地がない」という視点も、既に主観が入っているかも知れません。
いずれにしろ、まず、指示する相手に対して、どうして正しいのかを認識させる必要がありますが、これは筋立てて物事を説明するという基本スタンスに立てば、そう難しいことではありません。
業務の進むべき方向を示しながら、道理に立脚して、筋を通して、いかに理に適っているかを説明すればよいのです。
実際の説明では、極端なくらいカミ砕いて、細かく丁寧に、それこそ、小学生に説明するくらい分かりやすい表現を意識して話すのが望ましいでしょう。
このような説明を徹底することで、たいていの人は、正しいと認識することができるハズです。
認識することと受け止めることは異なる
さて、相手が正しいとの認識を持ったとして、それを受け止めるかどうかは、また別な話になります。よくある
「言っていることは正しい。だけど、私としては受け入れられない」
というのがこれに当たります。あなた自身もこのような経験はあるのではないでしょうか。
これは、
「理屈は分かるけど理屈じゃない」、
つまり、理性よりも感情が先行しているという状態で、人間が感情の生き物である以上、なにかと付きまとう問題です。人は理屈だけでは動かないのです。
自分のポリシーに合わないとか、生理的に受け止めにくいとか、何かしら感情的に受け止められない要素を持っている場合に、このようなります。
「さすがに業務上なのだから感情を持ち込むなんて・・・」
と思うかも知れませんが、現実にそういう人は多くいます。
こういう場合は、相手がきちんと受け止められるように、心を割って話をする、それこそ、語り合うくらいの感覚で接する中に、感情面で、つかえていることが解けて行くものです。
話す側が、感情的にならずに根気よく接することが大事です。
相手の心の中には必ず「理屈では分かる、でも○○○」という気持ちがあります。話す側は、この「○○○」の部分をよく把握して、親身に話を進めることが大切です。
また、いたずらに正論だけを述べ、自分の主張を無理強いするような言い方は避けましょう。一旦、相手の気持ちが離れると、こじれてしまうからです。
受け止めただけでは業務は進まない
相手が、しっかりと認識し、それをきっちりと受け止めたとしても、業務を遂行する上で、きちんと動き出すとは限りません。
それは、業務として受け止めることと、それをきちんと遂行することはイコールではないからです。
業務をうまく動かすためにはモチベーションが重要で、モチベーションが無い、或いはあっても低いなどの場合には、動きが鈍くなるのは当然です。従って、モチベーションを上げて業務に励めるようにすることが求められます。
そのためには、相手が業務上で何を求めているのかを把握した上で、
その業務と求めていることを結びつけて業務指示をすること
その業務に期待をしていることを伝えること
その業務上で目指すべき目標を見つめさせること
が大事です。
そして、なにより業務を遂行している中で、モチベーションの維持・向上をはかるためにも、きちんと評価をしてあげてることを忘れてはいけません。
大きなモチベーションが持てれば、動き出さなかった業務も進みだし、鈍かった進捗も加速して行くことでしょう。
言っていることが正しいだけでは業務は進まないので、業務を進めるためにはどうすべきかを示して来ました。
業務上、
「何でこんなことを分かってもらえないのか」
「なぜ、進めることができないのか」
「どうしたら、あのようになるのか」
と、担当者を見ていて、不可解な思いをすることがあるかと思います。
そんな時には、「正しいだけでは人は動かない」との思いに立って、正しいことを「認識させ」、「受け止めさせ」、「遂行させ」て行きましょう。
筋が通っているかを見つめ直すことも大切
以上、ここまでは部下や後輩への業務指導を想定した話をしてきました。
上司という立場であれば、上記のように情理を尽くして行けばたいていは上手くいきます。
しかし、現実に筋が通らない場面というのは、他にも色々あります。
他の部署に対する業務依頼や他部門との共同作業でもあります。また、上司に提案して行く場合もあるでしょう。更に、仕事とは無関係なプライベートな生活の中にもあります。
このように、「筋が通らない」という場面は色々とありますが、そんな時はまず、本当に筋が通っているかを見つめ直すことが大切です。
「筋が通る」と似た言葉に、
「道理にかなう」
「合理的」
「理に叶う」
「理屈に合う」
「理屈が通る」
「理がある」
「論理的」
などがあります。
いずれの言葉にも、「理(ことわり)」という共通の漢字が含まれていますが、これは「物事の筋道」を意味します。
あなたは、その「物事の筋道」が正しいと考えているからこそ、それを受け入れない人に対して違和感を抱くわけです。
自分が抱いている「物事の筋身」が、本当に正しいかどうかをまず心を静めて見つめ直しましょう。
あなたにとって正しいことでも、別な人にとっては正しくないかも知れません。
ある部署で当然の筋道であったとても、他の部署では違和感のある筋道であるかも知れません。
当然のことと思える理でも、ある条件下では当然とは言えなくなるかも知れません。
見つめ直した結果、「物事の筋道」にギャップ(差)があることに気付くかも知れません。
また、筋道の考え方が間違っていたことを思い知らされることもあるでしょう。
しかし、明らかに筋が通っているという結論に達し、それにも関わらず、全く話しが通じなかったらどうしますか。
あなたは、相手のことを「筋の通らない人」と考えてしまうのではないでしょうか。
そして、「筋の通らない人は、いったいどういう思考をしているのか?」などと疑問を抱くかも知れません。
でも実は、このような疑問を抱くこと自体が間違っているのです。
つまり、相手が「どういう思考をしているのか」ではなく、相手が持つ「思考以外の要素は何か」を考えるべきです。
理屈じゃない部分や、理屈を超えた要素が必ずあるのです。
例をあげれば、
何かのジレンマがある
過去に苦い経験がある
なにかの利害が絡む
庇う相手がいる
生理的に受け付けない
関連するトラウマがある
感情的になっている
相手に嫌悪感を持っている
などなどです。
これらはいずれも感情や気持ち、心情に関わる要素ですから、他にもたくさん考えられます。
人間は本当に理屈では動かないのです。まして、理性より本能を重んずる人や、理論よりも感情で動く人であればなお更です。
筋が通らないと感じたら、物事の筋身として本当に正しいかを見つめ直した上で、相手の気持ちを推し量って行動することが大切と言えます。