近年、一般家庭でも使われるようになってきたウォーターサーバですが、その普及の仕方はなだらかで、それほど広まって行かないのが現実です。そこで、何でウォーターサーバがなかなか広まらないのか、その理由について分析してみることにしました。実は、我が家では過去に2回程ウォータサーバを導入していたのですが、2回とも解約をして今は使っていません。
解約した理由は細かい点をあげれば、いくつかあるのですが、端的にいえばコストパフォーマンスが悪いから、長期契約ユーザに大きなメリットがないから、の2点でした。多くの家庭では、まだまだ普及していないウォーターサーバですが、私が解約した理由も、なかなか普及しない理由も、共通点があると考え考察してみたのです。
その結果、なかなか普及しない理由をまとめれば、主に3つあります。
1つ目は、需要そのものが低いからです。
2つ目は、ランニングコストが高いからです。
3つ目は、ユーザ視点にまだまだ立てていないからです。
目次
需要そのものが低い
まず第一の理由、「需要そのものが低いから」こそが、普及しない最も大きな理由でありましょう。では、なぜ需要が低いのかといえば、水道水を飲むことできること、代わりの手段があること、でありましょう。
水道水を飲める
需要を下げている大きな要因として、日本では水道の水を飲めることがあげられますが、諸外国から見れば、このこと自体が不思議にも思えるくらいで、世界でもそんな意味で日本はまれな存在です。
学生時代ヨーロッパ4ヶ国に行ったことがありましたが、どの国でも水はペットボトル等で購入して飲むのが当たり前で、基本的に水道水を飲む習慣はありませんでした。当時、イギリス人の知人に聞いてみた時、水道水は飲もうと思えば飲める、という言い方はしていましたが、実際に水道水を飲む習慣を持つ人は、まずいませんでした。
社会人になってから上海へ行ったときは、水道水は絶対に飲んだらダメと言われていましたし、実際に飲む人は一人もいませんでした。中国では、水道水は、色が付いた汚れた水が出ることも頻繁にあるとのことで、恐ろしくて飲もうとすら思いませんでした。
台湾へ行った時は、水道の環境は中国より良かったのですが、飲料用には、やはりペットボトルを購入するのが通常でした。
ヨーロッパに行った時は何年も前ということもあり、ウォーターサーバそのものがまだまだ普及していなかった時代であったため、当時ウォーターサーバを見たことは一度もありませんでした。中国や台湾へ行ったのはここ10年くらいのことですが、日本よりもはるかにウォーターサーバが普及している様子でした。
代わりの手段がある
水道水が飲めるとはいえ、おいしくないから飲みたくないと思われる方も多いと思いますが、その代わりの手段として最も多いのがペットボトルを購入して飲むことでしょう。ペットボトルの水なら、スーパーやコンビニ、薬局、ディスカウントショップ等、どこでも買うことができますし、種類も豊富なので、自分がおいしいと思う水を選んで購入することができます。
ペットボトルなら、冷蔵庫に入れておけば冷水としていつでも飲めますし、ポットに入れておけばいつでもお湯として使えますから、何もわざわざウォータサーバを導入しなくても、冷水とお湯は、いつでも飲むことは可能なわけです。冷蔵庫もポットも普通の家庭なら必ずと言ってよいほど持ってますからね。
他にもペットボトルの代わりに、専用のボトルを購入することでスーパー等で水を無料で提供してもらえるサービスなんかもあり、これを利用する人もいるでしょう。
また、蛇口に専用のフィルタカートリッジを取り付ければ、それなりにろ過してくれるので、水質としてはこれで十分という方もいるでしょう。
いずれにしても、必要性を感じない、欲しいと思わない人は多く、需要そのものが低いということです。
かつて、高度経済成長時代に、三大家電と呼ばれたテレビ、洗濯機、冷蔵庫は、短期間にほとんどの家庭が所有するほどに普及しました。それらはいずれも、需要が高かったからにほかなりません。
ランニングコストが高い
さて第二の理由、「ランニングコストが高いから」についてですが、ペットボトル等の他の場合と比べて、とても高いということです。
諸費用は本当に無料?
面白いことに、ウォータサーバの会社のほとんどが「初期費用無料」「サーバレンタル費無料」「メンテナンス費無料」「配送料無料」などといって、無料を主張しています。
しかし結局のところ、これらの費用を実際の水の料金に上乗せしているだけのことで、結果としてランニングコストがどうかが問題になります。
色々な経費が無料であることを主張して、実際には高い価格であるのに、それを何とか安く見せようとする姿勢に、なかなか普及しない苦しさが現れている気がします。
単価の計算が不自然
もう1つ滑稽な点は各社とも、500mlのミネラルウォーターの定価160円と比較したりして、500ml当たり数十円だから安いと示しています。しかし、500mlのペットボトルを定価で買って日常の飲料水として使う人はいるでしょうか。普通の家庭なら、2リッターのペットボトルを安く売っているところで購入するのが当たり前です。
近所で安いスーパーを探せば、天然水でも60円~70円代で売っていたりしますよね。わざわざ、500mlのペットボトルの定価と比較して、少しでも安く見せようとする姿勢にも苦しさが現れています。
さて仮に、2リッターのペットボトルの販売価格が80円だとすると、500mlペットボトルに換算すると80/4=20円となり、一般的にウォーターサーバの500ml当りの価格と言われている50円~90円と比べると、ウォーターサーバの方が2.5倍~4.5倍高いことなります。
実際は、ウォーターサーバの場合、RO水だと比較的安価なのですが、天然水だと相場は80円余になりますので、近くのスーパー等で手軽に入手できる2リットルのペットボトルは80円あれば十分買えるでしょうから、実際の価格の相場は4倍程度でありましょう。
私が頻繁に購入する2リットルのペットボトル天然水1本60円と比較すると、5倍以上もの値段になっています。もちろん、銘柄にこだわる方はこんな単純な話にはならないでしょうが。
何倍までなら購入するか?
さて、相場の値段がペットボトルの4倍かかるとすると、4倍もの値段を払ってウォーターサーバを導入したいと思うでしょうか。確かに、ウォーターサバ―は手軽に水もお湯も飲めますし、重たい水を運ぶ手間も省けます。しかし、4倍ものお金を払う価値があると考える人は、一部の人になってしまうのではないでしょうか。
「市販の天然水の値段の、何倍までならウォータサーバを導入してもいいと思いますか?」というアンケートがあったなら、あなたならなんと答えるでしょうか。あくまで私の想像ですが、恐らく「2倍まで」と言う方は3~4割以下、「3倍まで」と言う方は2割以下、「4倍まで」と言う方なら1割以下にはなるのではないでしょうか。
3大家電の時のように、高度経済成長が背景にあったり、いまのようなデフレが長期間続いて、経済が低迷する状況がなかったりすれば、多少高めでも便利だから導入したいと思う人はもっと多いでしょう。景気低迷の中で、ランニングコストが高い商品は、敬遠されてしまうのが現実です。
ユーザ視点にまだまだ立てていない
さて第三の理由、「ユーザ視点にまだまだ立てていないから」についてですが、ウォーターサーバの業界が、大手通信事業者3社の姿に似ていると思うのは私だけでしょうか。大手通信事業者3社には、政府が介入して販売について指導する姿すらもあり、世間でも色々と話題になったりしていますが、要するに、ユーザ視点に立てていない点は、長期利用ユーザに有利にならないところに端的に現れています。
初期費用を回収してもユーザに還元されない
例えば、ウォーターサーバ業界では、通常、2年間といった契約期間を設けて、中途解約すれば違約金が発生し、また、ウォーターボトルの最低購入個数を定めています。初期費用を回収するためには、仕方がない、むしろ必要なことだとは思うのですが、2年を過ぎてサーバ代分を回収したとしても、それをユーザに還元しようとはしないのです。言い方を変えれば、中途解約をする人がいて、回収できなかった費用すなわち赤字分を長期利用ユーザが負担しているともいえるわけです。
契約期間が2年を超えると10%引き、3年を超えると20%引き、5年を超えると30%引きにするとか、長期契約者が損しない仕組みを作るべきだと思うのです。ただでさえ料金が高いのですから。
私が過去に契約していた2社において、ボトルに付いてくるシールを30枚集めると、1回分のボトルが無料になるといったサービスをやっていましたが、これは単価が少し安くなるだけで、長期契約者に有利になるサービスとは違います。
通信事業者の業界に酷似
さて、スマホなんかを手掛ける大手通信事業者を見ても、似ている姿をよく見かけるのですが、2年或いは3年で端末代そのものは支払い終わっているのに、月々の料金は全然安くならない、むしろ高くなったりするんですね。
新しい端末に変えたり、或いは乗り換えたりした方が安くなったりするので、機種変更をするつもりは無くても結果として機種変更することにもなります。新しい端末を買わせようとする業界の強い力を感じますが、ユーザを軽んじていいことは無いと思います。
「古い機種をそのまま使い続ければ、端末代は新たにかからないのだから、その分安くして欲しい」というようなユーザの声は、この業界では無視されている気がするんですね。
そして、面白いことに、ウォーターサーバの業界でも、これと同様の姿があり、更に「キャッシュバックサービス」や、「他社から乗り換えの人は違約金を負担」などと、大手通信事業者と同じようなことをやっていたりするのですね。実際に私も、最初に契約したウォーターサーバから他社に乗り換えたのですが、違約金を、乗り換え先に負担してもらいました。
このような姿は、目先の契約者を奪おうとするだけに見え、どこか見苦しい感じがするのは私だけではないでしょう。大手通信事業者3社も、「契約者数=企業の業績」という考えで、契約者数を伸ばそうとするのですが、視点が全く逆になっていると思えてなりません。
つまり、「契約者数を伸ばすためにはユーザが不利になろうが関係ない」というのが、この手の業界に見られる姿で、「ユーザに受け入れられる、よりよいサービスを提供することで契約者数を増やす」という当たり前の経営が、まだまだできていない気がします。格安スマホが出てきたことで危機感を感じ、初めてサービスを改善し始めたという感じすらします。
今後に期待
これらを見る時、ウォータサーバ業界も、改善すべき点がたくさんあると思います。当たり前の改善をすれば、今の水の料金は最終的には半分くらいになるのではと感じています。ようするに、企業努力がまだまだ足りないと思うのです。
そもそも、私が2社と契約して、最終的に解約した理由はやっぱり高いからなのですが、ユーザ視点に立とうとせず、当面は改善が見られないだろうと判断したことが、最後の決断のきっかけでした。従って、状況が変わらない限り、再導入する予定はありませんし、またその、つもりもありません。
しかしその一方で、何といっても直ぐに飲める、重たい水を運ばなくて済む、等、ウォーターサーバとしてのメリットも色々あるので、全てを否定するつもりはありません。むしろ、ウォータサーバを過去に導入した経緯があるくらいですから、この業界が変わって行くことに大いに期待したいところです。