中国語で使われる「没」という漢字には、日本語では使われない意味を持っています。
日本人が中国語の文章を見て、「没」という漢字が出てきた場合、この意味を把握しておきさえすれば、大抵の場合は文意の概要を推測することが可能です。
日本語の「没」
日本語で「没」という漢字を使う場合、ボツと読んで、死ぬこと、不採用であることなどに使われます。
平成25年没と表現すれば、平成25年に亡くなったという意味ですし、この原稿は没と言えば、原稿が採用されないことを意味します。
また、接頭後として名詞の前について、没趣味などと「無いこと」を表す場合もあります。
更に、送りがなを付けて「ぼっ(する)」と読めば、沈んだり埋もれたりして見えなくなる、沈めたり埋めたりして隠すの意味や、死ぬ、なくする、無視する、所有物を取り上げるなど、色々な意味を持ちます。
「没」の漢字単体の意味としては、沈んで隠れて見えなくなるや、隠すや死亡するの意味があります。
日没、沈没、出没、陥没、水没、戦没、没収などの熟語がありますが、これらは上記のいずれかの意味として使われています。
中国語の「没」
では、中国語での意味はどうでしょうか。
「没」は大きく分けて、モー(mò)と発音する場合とメイ(méi)と発音する場合の二通りがあります。
モーと発音する(読む)場合は、没する、沈む、消滅する・させる、没収する、隠れる、尽きるなどの意味がありますから、おおむね日本語で使われる意味と同じです。
しかし、メイと発音する(読む)場合は、日本語には無い意味を持ち、「没有」(méiyǒu)の省略として「没」(méi)が使われ、少し特殊です。
メイと発音する場合の「没」の意味を大別すると2つあります。
ひとつは、所有や存在の否定を表す、「持っていない」「存在しない」「ない」という意味で、もうひとつは、副詞的な使い方として、動作の実現や状態の変化の否定を表す、「しなかった」「まだ~(し)ていない」「まだ~しない(でない)」という意味です。
没の基本的な使い方
ここで、いくつか例文を見てみましょう。
我没(有)钱(wǒméiyǒuqián)
これは、「私はお金がありません」と言う意味で、所有の否定になります。
屋里没(有)人(wūlǐméiyǒurén)
これは、「部屋の中には誰もいません」と言う意味で、存在の否定になります。
存在の否定の場合、通常は主語は後ろに来ます。
她没(有)回来(tāméiyǒuhuílái)
これは、「彼女は帰っていません」と言う意味で、動作の実現の否定を表します。
これら日本で使われない意味のうち、所有や存在の否定は「無」に置き換え、動作の実現や状態の変化の否定は「不」に置き換えると意味としては少し分かりやすくなるでしょう。
これらの使い方は非常に頻繁に用いられるため、「没」という漢字が出てきた場合は、上記の2つのいずれの意味として考えると意味を理解しやすく、「無」か「不」に置き換えて意味が通るかどうかを考えると文意を推測しやすくなります。
例えば上の例文の場合、「我没(有)钱」を「我無钱」と置き換えて読んでみると、お金がないという意味なのかと文章を推測しやすくなります。
また、「她没(有)回来」を「她不回来」と置き換えて読んでみると、帰っていないという意味なのかと推測しやすくなります。
2種類の使い方をまとめると、
- 所有や存在の否定…没を無に置き換えると意味が分かりやすい
- 動作の実現や状態の変化の否定…没を不に置き換えると意味が分かりやすい
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疑問文にする場合
では、疑問文にする場合を見てみましょう。
所有や存在の否定の場合、文末に疑問の助詞「吗(ma)」を付けることで疑問文にすることができます。
例えば、上記に出てきた屋里没(有)人(wūlǐméiyǒurén)の場合、
屋里没(有)人吗(wūlǐméiyǒurénma)?
とすれば、「部屋の中には誰もいませんか?」と言う意味の疑問文となります。
但し、これは否定文を疑問文にしていますので、状況によっては不自然な言い回しになります。
下記のように、肯定的な疑問文にする方が自然な場合も多くあります。
屋里有人吗(wūlǐyǒurénma)?
上記の意味は「部屋の中に誰かいますか?」となり、多くの会話ではこちらの方が適しています。
また、上記は反復疑問文の形を取り、
屋里有没有人(wūlǐyǒuméiyǒurén)?
と表現することもできます。
一方、動作の実現や状態の変化の否定の場合、反復疑問文の形を取るのが自然です。
例えば、上記の她没(有)回来(tāméiyǒuhuílái)を反復疑問文にすると、
她回来了没有(tāhuíláileméiyǒu)?
のようになります。
動作が実現したことを示す「了」が加わり、それを否定する「没有」をその後に付けることよって反復疑問文を構成します。
語の位置には注意しましょう。
なお、上記は反復疑問文の形を取らずに、単に肯定文にして文末に疑問の助詞「吗(ma)」を付けることでも、下記のように疑問文にすることができます。
她回来了吗(tāhuíláilema)?
否定文を肯定文にする場合
さて、没は否定を表しますので、没を使った文章は自ずと否定文になります。
この否定文を肯定文にする場合、使い方によって下記の2種類に大別できます。
- 所有や存在の否定…「没(有)」→「有」に置き換える
- 動作の実現や状態の変化の否定…「没(有)」を取り文末に「了」を付ける
具体的に見てみましょう。
我没(有)钱(wǒméiyǒuqián)を肯定文にする場合、所有の否定を肯定にしますので、「没(有)」を「有」に置き換え
我有钱(wǒyǒuqián)
のようになります。存在の否定を肯定にする場合も同様です。
一方、動作の実現を否定した她没(有)回来(tāméiyǒuhuílái)を肯定文にする場合、「没(有)」を取って文末に「了」を付けますので、
她回来了(tāhuíláile)
となります。状態の変化の否定を肯定にする場合も同様です。
「不」と「没有」の違いと使い分け
上記の使い方のうち、動作の実現や状態の変化の否定については、実際の中国語で、不を用いる否定と没を用いる否定の両方があって、その使い分けはとても難しいです。
しかし、敢えてその違いを簡単に言えば、動作や行為、変化や状態の発生が無いことを、客観的に表現するには「没」、主観的に表現するには「不」を用います。
没(有)を使う場合、「~しなかった」、「まだ~いない」、「~したことがない」などと訳し、これらは客観的な動作や行為が実現しなかったことや、状態変化が起きていないことを意味します。
そして、没(有)はあくまで動詞を否定する場合に用い、形容詞を否定する場合は例外的となります。
具体的に没(有)を用いて否定できる形容詞は、基本的に有意思(yǒuyìsi)など、形容詞に「有」という漢字が含まれる場合だけです。
また、助動詞を否定する場合、通常は没(有)を用いませんが、能や想など一部の助動詞では使うことができます。
一方、不を使う場合、「~しない」、「~ではない」などのように訳しますが、そこには主観的な意志や習慣が含まれるのが一般的です。また、状態を否定する場合にも使われます。
不は、動詞を否定する場合に使われますが、一般の形容詞の否定や全ての助動詞の否定に用いることができます。(形容詞に「有」という漢字が含まれる場合には使いません)
例えば、「去」を否定する場合、「不」を用いて「不去」と表現することも、「没」を用いて「没去」と表現することもできます。
しかし2つには違いがあり、「不去」は意志や習慣として「行かない」ことを意味するのに対して、「没去」は客観的に「行かない(行かなかった)」ことを意味します。
このように、「不」と「没有」には上記のような基本的な違いがあります。
実際は、更に細かい使い分けや制約などもあり、詳細を説明するのはここでは省略します。
なお、没有は今まで説明してきた使い方の他にも比較表現でも割と使われます。
你没(有)我高(nǐméiyǒuwǒgāo)
と言えば「あなたは私より背が低いです」の意味になります。
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よく使う慣用的なフレーズ
最後に、没を用いた慣用的なフレーズをいくつかあげます。
いずれも、日常の会話で頻繁に使われますのでぜひ覚えておきましょう。
- 没办法(méibànfǎ)…仕方がない
办法は、方法や手段・やり方の意味で、直訳すれば「方法がない」となりますが、実際は「仕方ない」「しょうがない」などの言い回しで使われます。
文章などでは有を付けて、没有办法(méiyǒubànfǎ)とすることが多いです。
- 没错儿(méicuòr)…間違いない、その通りだ
错は錯の簡体字で、間違いの意味がありますので、没错と言えば単に「間違いがない」と言う意味になります。これをアール化して没错儿と言えば、相槌として「間違いない」「その通りだ」といった表現になります。没错や没有错と言えば、相槌というよりも、単に「間違いない」という趣に近くなります。
- 没什么(méishénme)…なんでもない、差し支えない
什么は、ここでは「何(なに)か」と言う意味ですから、直訳すれば「何もない」となりますが、実際は、「なんでもない」「差し支えない」などの意味を表すフレーズになります。没有什么(méiyǒushénme)とも言います。没什么事(méishénmeshì)、没什么的(méishénmede)なども意味としてはほぼ同じです。
- 没事儿(méishèr)…大丈夫だ(たいしたことない)
事は日本語の事とほぼ同じなので、直訳すると「事がない」という意味ですが、「何事もない」との意から転じて「大丈夫だ」という日常会話で使われるフレーズになっています。没事(méishì)とも言いますが、通常の会話ではアール化した没事儿が多く使われます。没事儿は、謝罪してきた相手に対して答える場合によく使われる表現の1つです。有を付けて、没有事(méiyǒushì)や没有事儿(méiyǒushèr)と言う表現もありますが、どちらかと言えば文語的です。
これらのフレーズの終わりに推察への同意に当たる吧(ba)を付けて没事儿吧(méishèrba)や没事吧(méishìba)などと言えば、「大丈夫だろうね」「大丈夫でしょう」のような意味になります。
- 没问题(méiwèntí)…問題ない(大丈夫だ)
问题は問題の簡体字で、日本語の問題とほぼ同じ意味ですから、直訳すれば「問題ない」という意味です。実際には、その意から転じて「大丈夫だ」という意味で使われます。没有问题(méiyǒuwèntí)とも言いますが文語的です。
- 没想到(méixiǎngdào)…思ってもみなかった
中国語の想には、考える、思う、予想するなどの意味があり、到は日本語の意味と同じですから、直訳すると「考えるに至らなかった」となります。その意から転じて、「考えてもみなかった」「思ってもいなかった」「予測していなかった」などの意味を持つ、予期できなかったことに対する慣用的な表現となります。
没有想到(méiyǒuxiǎngdào)とも言いますが文語的です。
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- 没意思(méiyìsi)…面白くない(退屈だ)
中国語の意思は、日本語の意思とは違い、意味、内容、考えなどの意味があります。従って、没意思を訳すと、「意味がない」という意味になり、実際にそのような意味で使われます。しかし、中国語の意思には他にも、おもしろみや趣などの意味があるので、「おもしろみがない」から転じた、「面白くない」「つまらない」「退屈だ」のような意味で多く使われます。また、没有意思(méiyǒuyìsi)とも言います。
- 没有的事儿(méiyǒudeshèr)…とんでもない
これをそのまま訳せば、「そんなことはない」となりますから、そのような意味で使われます。しかし、そこから転じて「とんでもない」という意味があり、そちらの意味の方が多く使われます。この表現は、アール化しない没有的事(méiyǒudeshì)も使われます。また、同じ言い回しの没有的话(méiyǒudehuà)もこれと同じ意味で使われます。
- 没关系(méiguānxi)…差し支えない(大丈夫だ)
关系は、日本語の関係に相当しますので、没(有)关系(méi(yǒu)guānxi)の元の意味は「関係ない」になり、この意味でも使われます。しかし、ここから転じて「差し支えない」「大丈夫だ」「心配ない」「構わない」などの慣用的なフレーズとして頻繁に使われます。口語でよく使われ、没关系(méiguānxi)のように有を含まない言い回しが一般的です。謝罪をしてきた相手に答える時、「気にしないで」という思いを伝える表現でよく使われます。
- 没什么了不起(méiyǒushénmeliǎobuqǐ)…たいしたことではない
上記の没什么(méishénme)の後に了不起(liǎobuqǐ)が付いたフレーズです。この了不起は「大したものだ」「すばらしい」「立派だ」などという意味ですから、没什么でこれを否定した「たいしたことではない」「たいしたものではない」「素晴らしいとはいえない」などの意味になります。
- 没有说的(méiyǒushuōde)…話すことはない
これは、漢字の通り、話すことはないという表現ですが、その裏にある意味は様々です。
例えば、
・話すことがないほど良い場合や指摘するような悪い点がない時
・議論するまでもなく当たり前である場合
・余りにもひどくて問題にならない場合
など、良い意味でも悪い意味でも、返す言葉がない場合の表現として使います。
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